この問題が世間で大きな批判を浴びるひとつの転機になったのが、兼重宏行社長(当時)の謝罪会見だったと言えます。とにかく突っ込みどころ満載だったこの会見によって、新聞、テレビなどのマスメディアに加えてWebメディアも入り乱れての大バッシング合戦が展開されてしまったのです。一部では“史上最悪”ともいわれるビッグモーターの謝罪会見のどこに問題があったのか、検証してみたいと思います。
はじめに申し上げておくべきは、同社は非上場企業ではありますが、全国約300店舗、従業員6000人、年商7000億円という規模を考えればその社会的影響力は非常に大きいということ。すなわち、常識的には“上場企業並みの広報対応”があってしかるべきであるということです。したがって、上場企業並みのあるべき広報対応として、今回の謝罪会見を見てみます。
記者会見のタイミングは適切か?
まず会見のタイミングから。疑惑の発端は2022年6月。複数の雑誌メディアで損害保険の不正請求疑惑が取り上げられました。ビッグモーターは社内調査で問題なしと損害保険会社に報告しますが、保険会社はこれに納得せず第三者による調査を要求。2023年1月に特別調査委員会が組成され、調査の開始が発表されました。そして、6月26日に同委員会からの報告がありましたが、公式サイトでの公表は約半月後の7月5日でした。これを受け会見を求める声が俄然(がぜん)盛り上がり、ようやく開かれたのがさらにそこから20日後の7月25日だったのです。何度も会見を開くタイミングがありながら、あまりに遅い対応であったと言えるでしょう。
最低でも特別調査委員会からの報告を受けた時点で、即刻会見を開くべきでした。セオリー的に言えば、委員会組成の段階で疑惑に対する会社としての見解と今後の対応策を公表するべきであったと考えます。この段階ですでに複数のメディアがビッグモーターに対して、質問をぶつけるなどしていたといいます。
本来同社は、メディアを一般市民の代弁者であると考え、それなりの真摯な対応が求められるところです。しかし広報担当部署がないという理由で、一切の対応をしなかったのです。そういった誠意を感じさせない対応が、基本姿勢としてメディアの反感を買うことになったとも言えるのです。
広報担当がいないとしても
次に会見で気が付いた問題点を挙げていきます。冒頭、司会者が自身は社員ではなくPR会社の者であるという挨拶をしました。広報担当がいないという社内事情があったにせよ、PR会社が手伝っているという事実をいきなりオープンにしてしまったのは、感心できる話ではありません。
「PR会社がいろいろ知恵を付けているに違いない」と思わせてしまうことで、記者からの追及が一層厳しくなることが考えられるからです。PR会社がアドバイザリーで付いていると想像ができたとしても、司会は社内のスタッフがするべきでしょう。会社として真摯に受け止め対応している、という印象付けにもなります。
本会見の失敗の最重要ポイント
出席者については、社長の辞任発表を受けて新旧社長と営業、および管理の責任者が出席しました。社長と共に会見の翌日付での辞任を発表した長男の兼重宏一副社長は、会見には同席しませんでした。組織として副社長も辞任が妥当という判断に至ったということは、副社長も疑惑の責任の一端を担っていたという意味合いでもあります。そのような状況下で副社長を会見メンバーから外したことは、同社の疑惑解明に対してしっかりと対応していこうという姿勢の欠如を感じさせる、言い換えれば隠ぺいとも受け止められる対応であったと思います。この点は、本会見の失敗の最重要ポイントでもありました。
宏行社長の会見については、すでにさまざまな批判がメディアやWeb上で見られますが、一言で言えば形式上謝罪していながら、「自分の預かり知らぬところで、社員が勝手にやった」という責任転嫁の姿勢がありありとうかがわれました。これは経営責任を担う社長の謝罪会見として、論外と言っていいでしょう。
おまけに、自己の管理責任を棚上げして、問題を起こした社員を告訴するような発言もあり(その後撤回)、会見出席者および中継を見る者の心証を著しく悪くしたことは確実です。
また、複数の質問では本人が答えず即座に担当役員に振っていたのも、社長としての管理意識の希薄さを感じさせるものでした。どの質問にも基本はまず社長が答え、詳細を担当に振るというのがあるべき会見のあり方です。
「迅速」「誠意をもって」「つつみ隠さず」が謝罪会見の基本
和泉伸二新社長の就任挨拶も、謝罪会見として非常識な部分がありました。不祥事の責任をとって辞任する前社長について、「リーダーシップと卓越したビジネスモデルの構築」という表現を使ってその功績をたたえる賛辞を送った点です。不祥事辞任のトップに関して触れる内容として、謝罪会見の場においては全く場違いな発言であったと言えます。
しかも、疑惑の焦点が同社のビジネスモデルそのものにあるわけですから、「卓越したビジネスモデルの構築」は、不祥事を是認するかのように受け取られる発言です。この発言によって、社長が代わっても風土は変わらないということを、イメージさせてしまったと言えるでしょう。
「迅速」「誠意をもって」「つつみ隠さず」が謝罪会見の基本であり、そのどれもが叶っていなかった非常に残念な会見であったと思います。過去の雪印乳業や船場吉兆など共に、今後長く謝罪会見の悪い実例として語り継がれることになるでしょう。ちなみに雪印乳業、船場吉兆は共に、失敗会見の後に経営破綻を迎えました。