子育て

全国各地に増える「こども食堂」ってどんな場所? 食事支援だけではない意外な役割や見えてきた課題

増え続ける「こども食堂」。子育て支援活動の一貫として『こども弁当プロジェクト』を行う一般社団法人ハイコラの杉山めぐみさんを取材しました。

長島 ともこ

執筆者:長島 ともこ

子育て・PTA情報ガイド

「こども食堂」ってどんな場所? なぜ増えている?

「こども食堂」とは、無料もしくは安価で民間団体などが食事を提供することにより、地域交流を通じて食育やみなで食べる楽しさを共有できる場です。

その始まりは、2012年、東京都大田区にある「気まぐれ八百屋だんだん」の店主だった女性が、朝ごはんや晩ごはんを当たり前に食べられない子どもたちの存在を知り、「だんだんワンコインこども食堂」を作ったことといわれています。

その後、2018年の西日本豪雨、2020年のコロナ感染拡大などにより、地域復興や子どもの居場所を作ることを目的に、その数は急増。行政がこども食堂の開催場所を広報したり、予算を計上したりする動きも広がりました。厚生労働省は子ども食堂を支援する団体に助成金を出し、農林水産省も政府備蓄米の提供を始めています。

2018年には、「こども食堂を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる」というビジョンを掲げて、NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」が発足。こども食堂の立ち上げや運営支援を行って普及を図ったり、企業からの寄付仲介なども行っています。むすびえによると、2022年度のこども食堂の数は全国で7300カ所以上となり、コロナ禍でも年々増えていることがわかります。
2022年度 こども食堂全国箇所数発表(2023年2月 確定値)【出典】認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ

2022年度 こども食堂全国箇所数(2023年2月 確定値)【出典】認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ

こども食堂は、月1回・週1回などのペースで地域の公民館や飲食店、学校などの施設で開催されることが多く、最近では「コンビニの店内で開催する」「キッチンカーや地域の飲食店でお弁当を提供する」など、そのスタイルは多様化してきています。また、「地域に開かれたコミュニティの場」としての役割を担っていることも多く、子どもだけでなく、保護者や地域の人であれば誰でも利用できる食堂が増えているようです。

給食がない夏休みの期間は、開催回数を増やしたり、縁日や流しそうめんなど夏ならではのイベントを企画しているところもあります。

自分の住む地域のどこに、どのようなこども食堂があるのかは、「Gaccom×むすびえこども食堂MAP」を使って身近な小学校の学区内での有無を調べたり、「自治体名 こども食堂」で検索して探したりしてみてください。
 

貧困対策だけではない、“孤食の解消”にこそ意義がある

ハイコラ

『せたがや こども弁当』プロジェクトを行っている一般社団法人ハイコラ

では実際、こども食堂はどのような人が利用し、どのような反響があるのでしょうか。

東京都世田谷区などで親子と地域をつなぐ子育て支援活動を行う「一般社団法人ハイコラ」では、2020年より1食200円でお弁当を提供する『こども弁当プロジェクト』を行っています。代表理事の杉山めぐみさんに話を聞きました。

 
「2020年春、コロナによる突然の休校となり、子育て家庭から『朝昼晩3食のごはんづくりが本当に大変!』という声があちこちから聞こえてくると同時に、給食を食べられずに困っている子がいるのではないか、保健所も閉鎖してしまい、産後のお母さんは不安なのではないかなど心配な気持ちが押し寄せてきました。

一方で、飲食店は休業を余儀なくされ、がらんどうになった町。その風景を目の当たりにして何かできないかと考え、地域の子どもたちの食を支えて、多様な子育て家庭と“顔の見える関係”を作りたいと思い、プロジェクトを開始。当初はゴールドマン・サックス緊急子ども支援基金の助成を受けていましたが、現在は助成を受けず地域で開催するチャリティマルシェの売り上げ、個人や企業さんからの寄付などで運営しています」と杉山さん。

こども弁当の購入は、提供の数日前からサイトで予約を受付開始。対象地域で中学生以下の子どもがいる家庭が予約可能で、家族の人数分の注文もでき、店舗で受け取るしくみになっています。季節やイベントに合わせた特別メニューや、日によってはおやつも提供しています。

「お弁当の数に限りがあるため、より必要な方にお届けできるよう、予約時にメールアドレスやお子さんの年齢などを登録してもらい、産前産後でないかなどをチェックしたり、体調や今困っていることを記入いただき、優先度が高いと判断したご家庭から順番に提供しています」と杉山さんはいいます。

今年で4年目をむかえ、登録者は1500人。延べ5000食ものお弁当を提供してきた『こども弁当プロジェクト』。

利用者の声からは、

「母子家庭で、高齢で病気の両親と無職の弟と同居しています。家事とフルタイムの仕事で常に時間に追われているため、栄養価の高いお弁当で食事作りから解放され、精神的にも楽になります」

「主人がリストラされて先が見えないなか、子どもには安全でおいしいものを食べさせたいので、安価で買えるのは助かります」

「夫のモラハラ、DVにより離婚を前提として別居、現在は調停中です。私が働いているのと、子どもが夫をこわがって私から離れないのでごはんをつくる時間がありません。おいしいお弁当を提供いただけて子どもも喜んでいます」

など、苦しい状況にある人の救いになっていることがわかります。また、

「仕事のあと、違う保育園に通う2人のお迎えに行き、帰ってきてからご飯を作ると食事は20時を過ぎてしまいます。それからお風呂に入って、2人を寝かせるのはいつも22時過ぎ。たまにお弁当を買えると時間の余裕ができて助かります」

「共働きで近くに頼れる親戚もいなく、心が折れそうになる時があります。忙しくてちゃんとした料理を作れないため、栄養あるものを食べさせてあげたいと思って利用しています」

など、忙しい毎日を過ごす親がほっとひと息つける取り組みになっていることもわかります。

「私たちの取り組みは、いわゆる“子どもの貧困”と結びつけられがちです。しかしそれが全てではありません。こども食堂で地域の人たちと交流しながらごはんを食べたり、家族そろってゆっくり話しをしながらお弁当を食べたりする。こうした“孤食の解消”にこそ、大きな意義があると思っています」と杉山さんはいいます。
 

つながりが希薄化する今、何かあったら助け合えるハブとなる場所に

これまでの活動を通して、杉山さんが課題に感じていることをお聞きしたところ、「本当に届けたい親やお子さんに必要な情報を届けられていないこと」「その家庭の“本当の困り具合”がわかりにくいこと」だといいます。

「日々の生活に精一杯で、こども弁当プロジェクトの情報発信に気づかない家庭も存在します。また、それまで全然わからなかったけれど、ふとしたことがきっかけでひとり親家庭であることを知ったことがありました。利用者の方が今、本当は何に困っているのかをなかなか気づけなかったり、どこまで手を差し伸べたらよいのか判断することが難しく考えあぐむケースもあり、支援する側としてのジレンマも感じています。

本当に届けたい家庭にどのように情報を届けたらよいのか、支援される側とする側のお互いが気兼ねなくコミュニケーションをとれるようになるためにはどうしたらよいのか。その活路を見出していくことが、今後の課題だと感じています」と杉山さん。

個人情報保護の関係で難しい部分があるのかもしれませんが、現在登録している方については、収入に困っていれば、生活保護やハローワーク、産後の体調がおもわしくないのであれば、産後ケア施設など、その方に必要な情報の提供も行政と協働して行っていけたらと思っているそうです。

また、プロジェクトの理解者や協力者も増えて、文房具やタオルを寄付してもらったり、地域の高齢の方から『カブトムシをたくさん獲ってきたから、子どもたちに分けてあげてください』という声をかけてもらったりすることも出てきたよう。

「地域や親子同士のつながりの希薄化、不登校や行きしぶりの増加がコロナ禍で加速し、子育て支援のニーズは、時代とともに変わっていきます。このネットワークをハブとして、こども弁当プロジェクトを継続しながら、地域と親子のつながりをさまざまな形で深めていきたいですね」

こども食堂は、「食べられない子が行く場所というイメージで、周りの目が気になってしまい利用しづらい」「うちの子が利用していい場所なのかがわからない」「親である自分も一緒に行っていいものなのかわからない」など、保護者も判断に迷うことがあるでしょう。しかし、核家族化などにより世の中全体で“つながり”が希薄化する今、家や学校以外の「第三の居場所」の必要性が叫ばれています。こども食堂はその役割の一端を担っているといえるでしょう。

近くのこども食堂を調べて、条件が合えばまずは一度足を運んでみたり、支援を受けてみたりしながら、主催者や参加者と交流し地域でゆるくつながっていく。これを少しずつ積み重ねていくことが、地域やコミュニティといった周囲の人たちが協力して助け合う「共助」の関係につながっていくのではないでしょうか。

【参考】
こども食堂と連携した地域における食育の推進(農林水産省)
こども食堂スタートブック(東京都福祉局)

>>【グラフ】『せたがや こども弁当』利用者の困難状況
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