日本の新卒採用は「親切で優しい」?
というのは今も昔も変わらずに言われていることだが、根本的な原因の1つには、大学卒業後の進路である就職において、大学での学問を通じた学びや成績が評価対象になっていないことがある。勉強を頑張ったところで就職活動の評価につながらないのであれば、勉強しなくなる学生が増えても当然である。
ではなぜ大学の学問や研究は就職活動での評価につながりにくいのだろうか。
日本の新卒採用は「専門性」を求めていない
日本の新卒採用の特徴の1つとして、採用する人材に対して「専門性」を求めていないことが挙げられる。特に文系学生が総合職を受ける場合は学部不問で、所属学部に関係なく応募できる。これは学生時代に文学部で英文学を学んでいようと心理学部で教育心理学を学んでいようと、入社するときは関係ないよ、会社に入ってから必要な知識や技術は学んでもらうよ、という就労経験の乏しい若手人材には大変親切で優しい採用スタンスである。その代わり、知識は持っていなくていいから、コミュニケーション力や主体性は必要なのでそこは選考で評価しますよ、と言われるから文系学生の多くは大学での学問や研究よりもアルバイトやサークルのエピソードでそれらの能力をアピールしようとする。確かに大学の勉強よりも、アルバイトやサークルの方がコミュニケーション力や主体性を発揮したエピソードが見つかりやすい。逆に学生からすると、大学での勉強をガクチカ(学生時代に最も力を入れたこと)のエピソードに使って「勉強しかしてこなかった頭でっかちな人間」という印象がつくことを避けているのかもしれない。
理系学生の場合は少し異なり、技術職を受ける場合、大学で学んだ知識や技術が入社後にそのまま実務で求められることが多い。そのため選考でも情報系であればどんなプログラミング言語を修得したのか、工学系であればCADを使ってどんな設計図を書いてきたかなど、大学で修得した技術や学びを具体的に聞かれることもある。文系学生と比べると大学の研究や授業が大変な理系学生にとっては報われるかもしれない。
しかしそれはあくまでもその分野のベースがあるかどうかの確認であり、理系人材であっても入社後に必要な知識や技術は研修やOJTでしっかり教育していくというのが日本企業の今までの新卒採用である。そのため、採用時に大学での学びや知識にそこまで重きを置いてこなかったのだ。
大学でろくに授業にも出ずに単位だけ取得して、アルバイトやサークルに時間を費やした学生が就職活動で特に損をすることなく、むしろそれらの経験が評価されてしまうというのは不公平にも感じるかもしれない。
ただ、実際には大学で真面目に授業に出て単位を取る真面目な学生よりも、多少アルバイトなどで授業は休みがちでも、友達や教授と交渉しながら上手に単位を取ってしまう要領の良い学生の方が、就活で評価される可能性は十分にある。それは企業側が入社時に求めるものが「コミュニケーション力」や「協働力」といった「勉強以外の力」だからだ。
大学での学問や研究活動の価値はどこにあるのか?
新卒採用の選考で専門分野の知識が問われないからといって、大学での学問や研究活動が無意味かというと全くそんなことはない。実は高校までの学びと大学での学びで最も違う点が1つある。それは「決められたものを学ぶ」か、「自分で学ぶことを決める」かの違いだ。中学校・高校まではほぼ全ての教科やそのテキストが決まっている。決められた分野の知識を全員が同じように学ぶのである。その点、大学は異なる。卒論を代表するように、自ら研究するテーマを決め、そのために必要な文献を探したり、授業を選んで受講したりする。高校までと違い「主体的な学び」が求められるのが大学での学問や研究活動なのだ。
ただし高校まで受動的に「これを覚えなさい」と一方的に知識や教科を押し付けられてきた日本の若者にとって、自ら学ぶテーマを決めて研究するというのは簡単ではない。そのため多くの大学生が授業や研究に面白みを感じられず、授業を休みがちになったり、場合によっては大学を中退してしまったりするのも大学現場の大きな問題となっている。
現在高校や中学でも「探求学習」と呼ばれる授業が増えてきたように、「主体的な学び」を促進する取り組みを教育現場では進めている。
実は「大学時代の勉強が楽しかった」という大学生のほとんどは、自分の興味のあるテーマを見つけ、その分野の専門家である大学教授を捕まえては質問攻めするなどの「主体的学び」をした経験があり、結果的に就職活動でも良い結果を残している学生が多い。
企業も「専門分野の知識」は求めないだけで、大学での学問や研究への取り組み姿勢、そこから得た学びは十分評価してくれるのだ。
「学問」と「チームワーク経験」の両方を良いとこ取りできる「ゼミ活動」
あえて「就職活動に役立つ大学での勉強」に関連する活動を挙げるとすれば「ゼミ」である。ほとんどの大学では大学3~4年生で小規模単位のクラスの「ゼミ」が作られる。そのゼミには担当教授がつき、卒論に向けた研究テーマなどもゼミを通じて見つけていく。ゼミには当然当たりハズレがあり、人気教授の元には多くの学生が殺到し、場合によっては選考も行われる。なぜこのゼミが就職活動に役立つのかと言うと、立場の違う人が混在する「イマイチな環境」を考慮しながらチームワークを発揮する経験が出来るからである。
ゼミに集まる学生は基本的にモチベーションは高くない。そもそも勉強に前向きでない学生の方が多く、アルバイトやサークルに時間を使いたいのにわざわざゼミに参加しているのである。そして担当教授も、当然人にもよるがそんなバラバラな意識の学生たちの学問への動機を上げようとしてくれるわけでもない。なるべく省エネで授業やゼミをこなし、自身の研究活動に時間を使いたいと思っている教授も多い。
そんな過酷な状況をだいたい丸投げされるのが「ゼミ長」である。学生から選ばれるリーダー役でだいたいは4年生が務めるのだが、毎週のゼミの運営から合宿の準備まで、教授からも他の学生たちからも相当な無茶振りをされる。だから多くの学生はゼミ長をやりたくないのだが、教授はもう毎年のことで分かっているので「この学生ならちゃんとやってくれる」という学生を指名する。
学生同士のことをだけを考えてまとめる「サークルの幹事長」と比べて、それぞれの学生の状態やスケジュール調整、教授のご機嫌やマニアックなこだわりまでを総合的に考慮しながら動かなければいけないゼミ長に求められるリーダーシップは段階が1つ上なのである。
実は過去に3社の総合商社から同時に内定を受けた男子学生がいたが、どんな派手なエピソードを持っているのかと思って聞いたところ、彼の自己PRのエピソードは意外にも「ゼミ」であった。出会った頃は既に4年生でゼミ長をやっていたが、就活中の3年生の頃から教授や4年生のゼミ長をサポートしながらゼミ全体が活性化する取り組みをしていて、彼自身も大学時代の勉強や研究はとても楽しかったと言っていた。
ゼミ長は大抵、就活がすでに終了した4年生で務めることが多いから、就活でゼミについて語りたいのであれば、3年生の段階から、ゼミ活動に主体的に参加し、学問の学びを深めながらチームワークを経験しておくとよいだろう。