ミュージカル

発表!2022 All About ミュージカル・アワード

前年の傑出した舞台・人を、ミュージカルガイドの松島まり乃がご紹介。2022年はコメディから人間ドラマまで、多彩な傑作が誕生し、コロナ禍の出口が見えてきた今、改めて生の舞台の醍醐味を印象付けました。今回も一部、受賞コメント動画があります!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

少しずつ公演が増え、コロナ禍で中止された舞台の復活も見受けられる中で、コメディからヒューマン・ドラマまで、多彩な傑作舞台が誕生した2022年のミュージカル界。あらためてライブ・エンタテインメントの意義を印象付けた舞台・人々をご紹介します。今回も一部は受賞コメント動画付きですので、あわせてご覧下さい!(同時受賞の場合は五十音順で掲載)
<目次>

作品賞:『ガイズ&ドールズ』

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

華やかなダンスに心躍るメロディ、恋のときめき、ふんだんな笑い…。ミュージカル・コメディの要素を網羅した名作が、ブロードウェイで注目の演出家マイケル・アーデンを迎えて新生。舞台機構を活かして一つの建物をマルチに使いながら(美術=デイン・ラフリー)、2組の恋模様を澱みなく、かつ起伏豊かに描き出しました。

有村淳さんのカラフルな衣裳を着こなしたキャストも“腕利き”揃い。美声の“追いかけっこ”が楽しい冒頭のフーガに、アンサンブル・キャストが文字通り街を“体現”する中で主人公たちが観光を繰り広げる「ハバナ」(振付=エイマン・フォーリー)など、どの場面も目が離せません。

とりわけ、他愛ない夢物語が皆を巻き込み、劇場を揺るがすビッグ・ナンバーとなってゆく「座れ、船が揺れる」は圧巻。幕切れはおおらかで肯定感に溢れ、漸くコロナ禍の出口が見えてきた今、手探りの中で新たな時代へと踏み出そうとする人々への、最高のエールとなったと言えましょう。
 

再演賞:『next to normal』

『next to normal』写真提供:東宝演劇部

『next to normal』写真提供:東宝演劇部

双極性障害を患う女性と家族の葛藤という現代的なテーマを描き、日本では2013年に初演された本作が、上田一豪さんによる新演出、2チームのキャストで上演。シアタークリエ『TENTH』(2017年)で本作のダイジェスト版を手掛けた上田さんにとって、満を持してのフル・バージョン演出です。

池宮城直美さんによる、“家”をモチーフとした抽象的かつダイナミックなセットの中で展開するのは、治療で疲弊しきったヒロインとその家族の“ぎりぎり”の日々。それぞれの思いが噴出し、交錯の果てに新たな一歩が踏み出されるまでが、安蘭けいさん、望海風斗さんが率いる精鋭揃いのキャストによって、人間ドラマとしてのコクと豊かな音楽性を両立させながら描かれます。

人間の脆さも弱さもさらけ出した彼らがラストに横一列に並び、歌う姿は崇高なまでに美しく、織りなすコーラスはパワフル。痛みや迷いを抱えながら生きる全ての人々への、連帯のメッセージが響く作品となりました。
 

スタッフ賞:勝柴次朗(『COLOR』照明)&上田大樹(『COLOR』映像)、小林香(『SHOW-ism Ⅺ BERBER RENDEZVOUS』)、村中俊之(『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』作曲)

『COLOR』撮影:田中亜紀

『COLOR』撮影:田中亜紀

交通事故ですべての記憶を失った青年が、不安と戦いながらも周囲に支えられ、新たな人生へ踏み出してゆく……。草木染作家・坪倉優介さんの手記を舞台化した3人芝居で、作品タイトルでもあり、主人公が草木染を通して探求するテーマでもあるのがCOLOR、“色”です。ロビーから劇場空間へと足を踏み入れた観客がまず目にするのは、舞台上に映し出されたとりどりの色。アースカラーを重ね合わせ、滲ませたような色彩がえもいわれぬあたたかさであるだけに、開幕直後に色彩ががらりと変わり、母親が慟哭する光景は衝撃的です。

この舞台を染め上げたのは、照明の勝柴次朗さんと映像の上田大樹さん。“会場の舞台空間はほとんど上田さんの世界観で、その空間をサポートしているのが照明です”(勝柴さん)とのことですが、上田さんは“勝柴さんは、いつも柔軟に照明と映像のバランスを上手に取ってくださるので、ここはこんな映像が入りますが、後は助けてください……といった場面が多かったです”と振り返り、あうんの呼吸の連携がうかがえます。

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『SHOW-ism Ⅺ BERBER RENDEZVOUS』写真提供:東宝演劇部

『SHOW-ism Ⅺ BERBER RENDEZVOUS』写真提供:東宝演劇部

小林香さんが“ショー、つまりライブパフォーマンスだったらなんでも自由に作っていこう”と創造性を発揮して作・演出、2010年の第一作『DRAMATICA/ROMANTICA』を皮切りにさまざまな形態で上演されてきたシリーズ、SHOW-ism。

第11弾にあたる『BERBER RENDEZVOUS』では、砂漠の真ん中で“人間とは何か”をテーマに映画を撮ることになった女性たちが、時に反目し、時に共感しあいながら数本の短編映画を創り上げていくさまを、目くるめくショー・シーンを織り交ぜながら展開。柚希礼音さん、美弥るりかさんはじめ魅力的なキャストそれぞれの個性を活かしつつ、懸命に生きる女性たちの生を祝福し、いっぽうで俯瞰の視点から“今”の人間世界にメッセージを放つ舞台を創り上げました。

特に、3代にわたる女性たちの命のリレーを、壮大なスケールで描くくだりは圧倒的。コメント動画では小林さんが、本作の創作意図やキャスト一人一人についてのコメント、“ミュージカルを作る仕事”に興味のある方へのアドバイスなどをたっぷり語っていますので、ぜひ御覧下さい。

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『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ』写真提供:東宝演劇部

『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ』写真提供:東宝演劇部

日本のオリジナル・ミュージカルが海外展開を含め、ますます飛躍していくにあたって不可欠なのが、“耳に残る音楽”。ロングラン中の全てのミュージカルに、観客が思わず口ずさみたくなるようなメロディが含まれているといっても過言ではないでしょう。

その点で大きな可能性を感じさせるのが、村中俊之さんによる『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』の音楽。クラシックをベースに、シーンや役柄に応じてさまざまな音楽的ボキャブラリーを駆使し、“キャラ立ちした”ナンバーを紡ぎながら、豊かな音楽世界が創り上げられています。

オルゴールのような懐かしさに満ちた母のナンバー「Casa Nostalgia」、アムドゥスキアスとエリザの声が妖しく絡み合う「Tango To Sin」、パガニーニの絶唱「アンコーラ」など名曲揃いですが、なかでも出色なのが冒頭。中世の吟遊詩人風に語り出したアムドゥスキアスが徐々に声を浮揚させ、“踊れ悪魔のロンド……”と歌うくだりは、中川晃教さんの声を得て、“悪魔”の実在に十分すぎるほどの説得力を与えました。
 

主演男優賞:井上芳雄(『ガイズ&ドールズ』)、小林啓也(『ラブ・レター』)

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

昨年は『リトル・プリンス』の飛行士/キツネ役でも好演した井上さんが、“主演俳優の輝き”を存分に見せたのが、『ガイズ&ドールズ』のスカイ役。初登場シーンでは“凄腕ギャンブラー”の風格たっぷりに現れて気ままな生き方を語り、“罪びと”を装って堅物のサラをハバナへ連れ出そうとするくだりでは、緩急自在の話術で彼女を説得、“一か八か”の世界を生き抜いてきた男のしたたかさを印象付けます。

しかしサラの人柄に触れてからは、自分でも予想もしなかった内面の変化に戸惑うさまを、繊細に表現。そしてクライマックスのナンバー「俺のレディ・ラック(幸運の女神よ)」では、恋のために途方もない賭けに出た高揚感が、その歌声と全身から放たれ、ひりひりするほどスリリングな一場が誕生しました。一面的でない、襞のあるヒーロー像が、往年の名作を一段と魅力的に見せたと言えるでしょう。
『ラブレター』写真提供:音楽座ミュージカル

『ラブ・レター』写真提供:音楽座ミュージカル

歌舞伎町で汚れ仕事を請け負うサトシは、昔馴染みのナオミに出会い、数十年前の出来事を振り返る。兄貴分の吾郎の偽装結婚相手が病死したと聞き、遺体を引き取りに向かった吾郎とサトシは、遺品の中に一通の手紙を発見。それは吾郎に宛てた、彼女からの感謝の手紙だった。なぜ、この出来事がサトシの中でよみがえったのか……。

『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』などで知られる音楽座ミュージカルが、浅田次郎さんの短編小説をもとに、2013年に初演した“死者が生者を励ます物語”、『ラブ・レター』。その22年版で主人公サトシを演じたのが、小林啓也さんです。恵まれない環境で育ち、無為に日々を過ごしてきた男がある真実に触れ、生まれ変わってゆくさまを、小林さんは演技を超越した迫真性をもって体現。ナオミとの再会の意味を知って打ちのめされるも、“生きていることの偶然性”をかみしめながら立ち上がろうとする姿が、多くの観客の心を揺さぶりました。
 

主演女優賞:五所真理子(『美女と野獣』)、望海風斗(『ガイズ&ドールズ』)

『美女と野獣』©Disney  撮影:荒井健

『美女と野獣』(C)Disney  撮影:荒井健

ディズニー・ミュージカル『美女と野獣』が、舞浜公演を機にリニューアル。上海公演を踏襲した今回は、ベルがいくつかの場面で読書のために眼鏡をかけ、女性に教養は無用というガストンとの価値観の違いが浮き彫りになったり、新曲「チェンジ・イン・ミー」で心境の変化を吐露するなど、ヒロインの造型がさらに細やかになっています。

今回、この役にみずみずしく命を吹き込んでいるのが五所真理子さん。気品ある佇まいと温かな歌声が役に相応しいばかりでなく、村人たちとのやりとりの随所に本への愛情があふれ、ビーストに対しても、心の距離が縮まってゆく過程を丁寧に表現しています。特に『アーサー王伝説』の読み聞かせの中で彼の孤独を知り、はっとする姿が出色。明確に“共感の誕生”が見て取れ、今回の『美女と野獣』が、より対等に“孤独な二つの魂が惹かれあう物語”にシフトしていることが確認できます。だからこそ、襲撃され、倒れたビーストに対してベルは心からの言葉をかけ……。思わず心寄り添わせ、共に“奇跡”を願いたくなるヒロイン像です。
『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

14年間煮え切らない婚約者に対して、遭遇の度に結婚をアピールするもするりと逃げられてしまう……。約70年前の初演時も今も、“じゅ、14年……!?”と驚きの声が上がりそうなのが、アデレイド。『ガイズ&ドールズ』の二人のヒロインのうちの一人です。今回、この役を生き生きと造型したのが、望海風斗さん。

ナイトクラブのショーでは思い切り、コケティッシュな“可愛いらしさ”を振りまきますが、そこにはこびではなく“エンターテイナー魂”が見えるのが爽やか。婚約者ネイサンとの丁々発止のやりとりも、ベースにゆるぎない愛情があるからこそ、コミカルに映ります。彼女が懸命に、あの手この手でネイサンから決断の一言を引きだそうとする姿に、誰もが心の中で応援せずにはいられないでしょう。そんなアデレイドが終盤にもう一人のヒロイン、サラと出会い、意気投合して新たな展望を見いだすナンバー「結婚しよう 彼と」は楽しくも清々しく、並行して描かれていた二つの恋物語が、美しくクロスする瞬間となりました。
 

助演男優賞 松原剛志(『キンキーブーツ』)、村井良大(『スラムドッグ$ミリオネア』)

『キンキーブーツ』(C) Marino Matsushima 

『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima 

演劇における冒頭シーンの大きさが改めて印象付けられたのが、3年ぶりに上演された『キンキーブーツ』。英国の田舎町に生まれたチャーリーが、父の死によって家業の靴工場を受け継ぎ、ドラァグクイーンのローラの力を借りながら会社を立て直そうとする……という物語は、松原剛志さん演じる若き日の父が、少年チャーリーに語り(歌い)掛けるシーンから始まります。

息子に滔々(とうとう)と靴の魅力を語る松原さんの歌声は明朗で力強く、この父が自身の仕事に誇りを抱いていることは明らか。次に登場するローラの父が、美しい靴を愛する息子に対して否定的であるのとは対照的です。

長じて、靴に興味のなかったチャーリーが“仕方なく”会社を受け継ぐも、次第にクラフトマンシップに目覚めてゆく背景には、彼の記憶の奥底に“あの頃の父”の姿があり、それが無意識のうちに彼を鼓舞していたのかもしれません。冒頭に“父”の在り方がくっきりと示されたことで、本作が友情のみならず父と子の物語でもあることも意識され、フィナーレの二組の父子の再登場が、より感慨深いものに見えた観客も少なくないことでしょう。
『スラムドッグ・ミリオネア』写真提供:東宝演劇部

『スラムドッグ$ミリオネア』写真提供:東宝演劇部

現代インドを舞台に、社会の底辺に生まれた少年が貧困と児童搾取の荒波に揉まれながら、運命に挑んでゆく。ベストセラー小説を音楽劇化した『スラムドッグ$ミリオネア』で、主人公ラムの竹馬の友サリムと、後にラムに関わる薄幸の少年シャンカールの二役を演じたのが村井良大さんです。

今回の舞台版では主に、サリムが脱走シーンなどアクティブな場面、シャンカールはドラマ・パートで活躍。特に後半のキーパーソンであるシャンカールを、村井さんはユーモラスな表現を交え、ステレオタイプな“気の毒な少年”ではない、リアリティーある人物として体現しました。ソロ・ナンバー「シャンカールの魂」では、彼の純粋さ、“8歳の子ども”感を表現するため、キーを上げて歌った村井さん(参考記事)。叶わぬ夢に手を伸ばすようなはかないファルセット・ボイスが強い印象を残し、今も世界の各地に実在しているかもしれない、“シャンカールのような子供たち”に思いを馳せさせました。
 

助演女優賞:美弥るりか(『クラウディア』)、尹嬉淑(『春のめざめ』)

『クラウディア』写真提供:アミューズ

『クラウディア』写真提供:アミューズ

岸谷五朗さんと寺脇康文さんが主宰する演劇ユニット「地球ゴージャス」の代表作の一つ『クラウディア』が、18年ぶりに再演。戦いに明け暮れる世界で生まれる愛の物語を、サザンオールスターズの楽曲にのせてエネルギッシュに描く本作で、女剣士、織愛(オリエ)を颯爽と演じたのが美弥るりかさんです。

仲間たちが“芸術的”と称賛するほどの剣豪、という設定にふさわしい、シャープで滑らかな立ち廻りもすこぶる魅力的ですが、特筆すべきは“目”による表現。“永遠に戦い続けること”が運命づけられた世界で、人を斬り続けることに疑問を持った織愛は、やがて“愛”という概念を知り……。折々に虚空を見つめるその目の強さが、煩悶しながらも生きる道を見出そうとする織愛の思いを物語り、終盤の思いがけない行動に説得力を与えます。剣によって生きてきた織愛が最後に見せる姿は、愚かしくもあり、美しくもある人間という存在に、確かな希望の光を投げかけました。
『春のめざめ』写真提供:レプロエンタテインメント

『春のめざめ』右奥が尹嬉淑さん 写真提供:レプロエンタテインメント

思春期の少年少女たちが保守的な世界で、大人の無理解の犠牲となってゆく……。19世紀末ドイツの物語を、ダンカン・シークのロック・テイストの楽曲で描くミュージカル『春のめざめ』が、奥山寛さんの新演出で上演。2チームのうち、ウェスト・チームで“大人の女性”役を演じたのが尹嬉淑さんです。

娘からの性についての質問をはぐらかす母親、面倒な生徒を排除する教師、知人の子供に助言を求められ、理解者を装いながらも当たり障りのない言葉しか返さない女性……。子供たちに正面から向き合い、守る存在になり得ていない諸役を、大人のそつのなさ(あるいは狡さ)をのぞかせながら演じ分ける尹さんですが、特に見逃せないのが幕切れです。取り返しのつかない事件が起こり、喪失の大きさに愕然とする大人たちの愚かしさを、一瞬の動きの中に凝縮。世の“親たち”はもちろん、全ての大人たちが“子どもたちに寄り添うこと”を改めて胸に刻み付けずにはいられない、忘れ難い光景です。
 

ベスト・フレンズ賞:林翔太&田村芽実&岡田奈々(『弥生、三月-君を愛した30年-』)

『弥生、三月―君を愛した30年ー』©ミュージカル「弥生、三月 -君を愛した30年-」/撮影:岩田えり

『弥生、三月―君を愛した30年ー』(C)ミュージカル「弥生、三月 -君を愛した30年-」/撮影:岩田えり

30年に渡る男女の絆を、4人の俳優と二人のダンサー、ピアノの生演奏で綴るミュージカル。序盤で描かれるのは、高校時代の太郎、弥生、サクラが無邪気に夢を語る姿です。しかし、サッカー部の太郎の活躍を心の支えに闘病していたサクラは、二人の願いもむなしく夭逝。太郎と弥生はそれぞれに挫折続きの人生を送りますが、胸の奥底にはかつてサクラから贈られた“いつまでも変わらない二人でいて”という言葉があり……。

希望にあふれた高校時代と、理想からかけ離れた大人時代をコントラスト豊かに演じ分ける林さん、田村さん。そして自分の「生」を託そうとする強い思いを、一途な歌声にこめた岡田さん。3人の好演を得て、太郎、弥生、サクラの絆は、紆余曲折を経ながらも終幕まで確かに感じられ、誰もが一人きりではなく、支えあって生きているというメッセージが、シンプルに染み入ります。全てを見守る大木の幕切れの姿も忘れ難い、珠玉の新作ミュージカルです。
 

新星賞:青柳塁斗(『女の友情と筋肉』『遠ざかるネバーランド』)、生田絵梨花(『四月は君の噓』) 

『女の友情と筋肉』©女の友情と筋肉 THE MUSICAL 2022/撮影:曳野若菜

『女の友情と筋肉』(C)女の友情と筋肉 THE MUSICAL 2022/撮影:曳野若菜

"日本のミュージカルの未来を託したい若手”として今年フォーカスしたい一人目が、様々な演目で着実に経験を積み、今や確かな実力で引っ張りだこの青柳塁斗さん。

芯ではない役どころでの、求められる人物像をきっちりと演じる姿も魅力的ですが、昨年はヒロインの一人を演じた『女の友情と筋肉』で、日頃鍛え上げている筋肉美をいかんなく発揮。男優が演じるヒロインにも不思議に違和感はなく、“筋肉もりもりだけど心優しい”女子たちの友情物語を爽やかに演じ切りました。

一方、女子高校生の心の闇を描く『遠ざかるネバーランド』では、主人公のある一面を人格化した海賊フォガーテ役を、ヒロイックに体現。水泳の熱血指導をする姿も頼もしく、ミステリアスで緊張度の高い舞台に、登場の度、安堵感を与えました。動画では各作品の思い出や今後の抱負などを青柳さんがたっぷり語っていますので、ぜひ御覧下さい。

>コメント動画を見る『四月は君の嘘』写真提供:東宝演劇部

『四月は君の嘘』写真提供:東宝演劇部

二人目は、生田絵梨花さん。これまでも『ロミオ&ジュリエット』のジュリエット(2017年)、『レ・ミゼラブル』のコゼット(2017、19年)、エポニーヌ(21年)等の大役をつとめてきましたが、『四月は君の嘘』では日米の才能がコラボしたオリジナル・ミュージカルに挑戦。ピアノに挫折した高校生、有馬公生を再び音楽に目覚めさせる天才ヴァイオリニスト、宮園かをりを、可憐ながら張りのある声とまばゆいほどの輝きをもって演じました。

実はかをりは病気を抱え、余命いくばくもないという設定ですが、だからこそ生田さんのかをりは生命力に満ち、一秒も無駄にすることなく人生を生き切っています。手招きをする仕草など、公生にしばしば見せるちゃめっ気の表現も、何ともキュート。今後彼女がどのような作品にめぐり合い、新たな輝きを見せてゆくのか、大いに注目されます。
 

アンサンブル賞『スラムドッグ$ミリオネア』

『スラムドッグ$ミリオネア』写真提供:東宝演劇部

『スラムドッグ$ミリオネア』写真提供:東宝演劇部

スラム生まれの少年ラムが、出場したクイズ大会で全問正解を成し遂げた背景には、どんな事情があったのか……。2005年に出版以来、50以上の言語に翻訳されたベストセラー小説『ぼくと1ルピーの神様(原題Q&A)』が、瀬戸山美咲さんの台本・演出で舞台化。目まぐるしくうつろう物語を、12名のキャスト(アンダースタディを含めると14名)が、劇団のような一体感と芝居心をもって演じ切りました。

とりわけ、メインキャスト以外の7名は、一人6役以上を担当。捨て子のラムを愛情深く育て、その後ラムが過酷な状況にあっても人間性を保ち続ける“原点”となった神父役の吉村直さん、慈善家の仮面の下に欺瞞(ぎまん)を隠すマダム役の池田有希子さん、出世がかなわない憂さから酒とDVに走ってしまう研究者役の辰巳智秋さんら、それぞれに重要な役どころで印象を残しつつ、主人公がその半生で関わってきた人々を生き生きと演じ分けます。何より、大国インドの“人いきれ”感が、この人数で醸成されているのが驚異的。演劇の可能性が改めて感じられる舞台となりました。

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