「勉強しない日本の大学生」、学生のせいではない? 日本のシステムのそもそもの問題点とは
きっと多くの大学生や社会人が人生で最も勉強した時期を思い出すと、一部の理系学部や大学院生を除けば「中学校や高校時代の受験時」と答えるだろう。そして大学時代は勉強よりもサークルやアルバイトなどに時間を費やしていた記憶もあるはずだ。
これだけ多くの日本人に「大学時代は勉強しなかった」という共通体験があるということは、この要因が「日本の大学生は勉強しない」という学生の個人的な問題だけにとどまらないのは明らかだろう。
学生時代はアメリカの大学に留学し、現在は日本の大学の授業プログラムの開発や教員向けのファシリテーション研修をしている立場から、「日本の大学生が勉強しなくなる理由」について考察する。
「学部」よりも「志望大学合格」をまず目指す受験制度
日本の大学受験が、受験時に大学だけでなく学部も決めて受験する制度が影響している。受験生は事前に模試などを通じて自分の偏差値を知り、その偏差値で合格できる範囲の大学の中から志望大学を選ぶ。大学を選ぶ基準はさまざまだが、出来るだけ知名度があり社会的評価の高い大学を選ぶ傾向にあるのは昔も今も変わらない。そのため、どうしても入りたい大学がある場合は、同じ大学の複数の学部を「滑り止め」として受験する。どの学部かに受かれば、晴れて念願の「◯◯大生」を名乗れるからだ。
正直その学問が本当に4年間かけて勉強したい分野なのかなど、受験時には考えていられない。とにかく第1志望の大学に入ることが生徒、保護者、教員、塾講師の共通の目標となってしまっていることが多い。そのため、その学部で学ぶ学問に興味のない状態で入学してしまった場合は、残念ながら大学での学びのモチベーションは高くない。
そもそも学問に触れたこともない18歳に、大学4年間を通じて膨大な時間と莫大なお金を費やして学ぶ学問の選択・決断を強いるのは酷なことである。
アメリカの大学では入学時に学部は決めず、最初の2年間は幅広い一般教養分野を学び、大学3年次に専攻を決めるというシステムの大学が多い。また在学中に学部の変更や他大学への編入なども比較的し易く、学生の学びへの志向や興味の変化に柔軟に対応している。
日本の大学の受験制度は、かつての日本の終身雇用制度にも似ている。まるで定年までずっと勤め上げる会社や仕事を、まだ社会人経験もない22歳の若者が決めなければいけなかったように、大学選びだけでなく4年間の学びの分野の意志決定までも18歳に強いているのだ。
大教室で行われる「聞いていなくてもいい授業」
次に、物理的な要因として1番大きいのは、大学の授業が「大教室+大人数」で行われることだろう。中学校・高校までは30~40人のクラスで、授業で居眠りをしていれば先生に注意をされた。しかし、100人を超える大学の大教室での授業は寝ていても注意をされることもない。多くの教員は学生が聞いていてもいなくても、一方的に話し続けるスタイルで授業をするので、90分もの長時間、集中してその長い話を聞き続けるのは大人でも厳しいだろう。
そして昔と違って現代の学生の手元には魅力的な情報発信をしてくれる端末がある。高校時代では禁止されていた授業中のスマートフォンも、大教室では使い放題。なかなか授業に集中してくれない学生たちの状態に、大学教員も頭を悩ませている。
これは大学教員の採用制度にも原因がある。大学教員という職種は「研究職」として採用される。小中高の先生は教育学部を出て教員免許を持った「教育者」として現場に立つが、大学教員はその専門分野の「研究者」であるというアイデンティティーがあるため、「研究」が本業であるという認識の人が多い。採用時も論文などの研究実績が問われるため、授業などの「教育活動」に対しての取り組み度合いは教員によって差がある。
そのため授業中の居眠りも、むしろ授業へのモチベーションが低い教員にとっては都合がよく、授業中うるさく騒がれるよりも静かに眠ってもらっていた方がいいのだ。
大教室で興味のない学問についての話を延々と聞かされて、眠っていてもスマホを見ていても注意されなければ、人は誰でも勉強しなくなるだろう。
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