大学生の就職活動

優秀な学生を「オワハラ」せず獲得できる企業の採用はどう違う? 進む就活の“ローコスト化”で弊害も

「就職活動終われハラスメント」の略語として最近使われている「オワハラ」。なぜ日本の就活生は内定があるのに就職活動を続け、企業はそれをやめるように圧力をかけるのか? 日本の就職活動で「オワハラ」が終わらない理由について解説する。

小寺 良二

執筆者:小寺 良二

ライフキャリアガイド

圧迫面接を受ける大学生

日本の新卒採用で「オワハラ」がなくならない根本原因は?

近年「オワハラ」が社会問題になっている。企業が内定を得た就職活動生に対して、他社の選考辞退を促し、自社への入社を強要・圧力をかける「就職活動終われハラスメント」の略で、ついに政府は4月10日に経団連と日本商工会議所に「オワハラ」行為の防止を要請した。

企業が自社の内定者を囲い込む行為は今に始まったことではない。新卒採用が売り手市場だった1980年代末~90年代初めの「バブル景気」の頃には「拘束旅行」という名の内定者の囲い込みが行われた。中にはハワイなど海外のリゾート地に学生を連れて行く企業もあるなど、多くはレジャー目的による会社のイメージアップを狙ったもので、現代の「オワハラ」のような学生に圧力をかける行為とは異なるものだった。

なぜ企業はそこまでして学生の就職活動の継続を止めようとするのか? それは日本の就職活動自体が終わりたくても終われない構造になっているからだ。
 

「併願しまくり」状態になる日本の新卒一括採用

オワハラが発生してしまう一番の要因は、日本の就職活動では学生たちは同時に多くの企業の選考を受ける「併願」が当たり前だからだ。マイナビの調査によると2022年卒の文系学生男子では平均15.9社、女子では平均16.8社の選考を受けている(※1)。各社の選考は同時期に一斉に進むため、学生にとっても1社ずつ受けていては機会損失になってしまう。そのため内定を出した学生が「他の企業も選考中なので結論を待ってほしい」という状況は当然起こる。

本来であれば企業も学生が満足するまで就職活動を続けてもらい、その上での内定承諾の方がお互いに納得感があっていいのだが、なぜ他社の選考辞退を求めるほど内定承諾を急ぐのか?

それは企業が採用したい優秀な学生ほど、早期に内定を獲得する傾向があるからだ。当然その後も採用活動を継続することは可能であるが、後半になればなるほど人材の質は落ちてしまうため、採用ターゲットの学生を採用するには早期に内定付与した学生から内定承諾を得るのが最も効率がいいのだ。これが日本の新卒一括採用がオワハラを誘発してしまう一番の問題点である。新卒採用が学生にとっても企業にとっても「期間限定の1発勝負」になってしまっているのだ。
 

「就活のローコスト化」を実現したオンライン採用活動

「終わらない就職活動」に拍車をかけてしまっているのが、昨今のコロナ禍で生まれた「オンライン採用活動」である。学情の調査によると7割以上の企業がオンラインで採用活動を実施している(※2)。

以前は就職サイトで企業にエントリーした後は、会社説明会や選考に参加するために直接会社へ訪問する必要があった。その分の交通費や宿泊費は学生負担であり、選考の度に大学の授業を休む学生が出るのも問題視されていた。就職活動を継続するのはお金と時間と労力がかかるものであったが、オンラインが導入されるようになったことで会社説明会から選考まで自宅で受けられるようになった。企業によっては最終面接もオンライン面接で行うところもあり、就職活動の継続はローコスト化された。

自宅にいながら多くの企業と接点を持てるという点では学生の選択肢を広げることにもつながった反面、気軽に企業の選考を受けられるようになったことで、学生は内定を得た後も就職活動を継続することが容易になった

以前のようにその企業に何度も足を運び、実際に社員と会ったり、働いている様子を見たりできるのと、説明会から最終面接までオンラインのみで完結した状態で入社するかどうかを決断しなければいけないのとでは、圧倒的に学生の判断材料に差が出るのは明らかだ。

オンラインで就職活動や採用活動が完結できるようになった現代だからこそ、不安のために就職活動を終えることができない学生は増えている。
 

就職活動を納得して終わるために必要なこと

とはいえ内定を得ても延々と就職活動を続けていては、学生にとっても企業にとってもプラスにはならない。自分にとってベストな企業は誰も分からないし、最後は自分で決めるしかない。

企業にとってもオワハラで強制的に就職活動を終えさせたところで、その学生の納得感が低ければ入社後に早期退職につながってしまう可能性もあるだろう。学生に納得して就職活動を終えてもらうことは、人材を採用する企業にとっても重要なのだ。

そのために企業にとって必要なことは「キャリア支援型の採用活動」である。学生の印象を良くするために会社の待遇面だけをアピールするのではなく、入社後の仕事内容やその仕事を通じて経験するやりがいや大変さも含めて自己開示し、学生自身が納得して働く会社を選べる判断材料を提供する。

選考は一方的に学生の経験や能力を評価するためだけに行うのではなく、学生自身が大事にしている価値観や将来的に目指していきたい姿などを、対話を通じて見つけていくなど「キャリアカウンセリング」の要素を持って行う。実際に筆者も採用担当者向けに面接官トレーニングなどの研修も行ったことがあるが、そういったスタイルの面接ができる面接官の方が学生との関係構築ができ、承諾率の向上にもつながっている。

オワハラに頼る企業はそのプロセスに時間と労力を割こうとしていないか、やり方自体を知らないだけである。学生は自分のファーストキャリアの場所を選ぶのに必死である。その決断に必要な情報を提供し、キャリアの相談相手のような関係性を選考中に築ければ、わざわざオワハラをしなくても内定獲得後は納得して就職活動を終えてくれるはずだ。

【参考】
※1:マイナビ 2022年卒 大学生 活動実態調査 (6月)
※2:学情 プレスリリース
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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