祖業のECをはじめとしたインターネット関連事業や証券・銀行の金融事業は好調を続けていながら、引き続き基地局整備の投資に追われるモバイル(携帯電話)事業が4928億円の赤字となり、大きく足を引っ張っていることが明確です。 これまで強気一辺倒だった三木谷浩史社長も、2023年2月14日に開いた決算説明会ではモバイル事業の分離上場や外部資本の活用を示唆するなど弱気ともとれる発言が目立つようになり、平成生まれのビッグカンパニーの行く末に、注目が集まるところです。
楽天を襲う「三重苦」の正体
楽天を苦しめているものは、大きく「3つの難題」であると考えます。1つは赤字の直接的な原因である基地局整備への膨大な投資。2つ目は業界を襲った官製値下げの影響による収益環境の悪化。そして3つ目は、先行3キャリアに比べて「つながりの悪い通信環境=プラチナバンド問題」です。これらが複合的に絡み合って、赤字幅は年々増加の一途をたどっているという悪循環に陥りつつあるのです。まず各問題を簡単にさらってみましょう。
1つ目の難題:基地局整備への膨大な投資
基地局整備への膨大な投資ですが、22年度は約3000億円を費やしました。この投資の影響により、有利子負債は22年12月期でモバイル事業参入前の1.8倍にあたる1兆7607億円にまで膨らみ、またフリー・キャッシュフローは1兆2100億円のマイナスになるなど、苦しい台所事情がうかがわれます。楽天の電波人口カバー率は2022年に98%を超えたと発表されていますが、「ここから99%までの1%が地獄の苦しみ(大手携帯キャリア幹部)」と言われるようにまだまだ終息は見えず、23年度も基地局整備に同水準の投資を見込む現状からは、他事業の利益は流失し新たな資金調達も必要になる、赤字の蟻地獄状態は続くのです。
2つ目の難題:収益環境の悪化
2つ目の難題、モバイル事業の収益環境も深刻です。楽天は先行3キャリアの寡占により価格談合状態にあった携帯電話業界をブレイクスルーする第4のキャリアとして、国の認可を得て2020年春にサービスを開始しました。しかし、基地局整備の遅延でサービス開始が半年遅れ、「つながらない携帯」との印象付けとも相まって、いきなり大苦戦を強いられます。さらに不幸は続き、同年秋に「携帯電話料金は4割値下げする余地がある」を持論とする菅義偉氏が総理大臣に就任し、先行3キャリアの官製値下げが断行されました。おかげで価格破壊役であったはずの楽天は一層の値下げを余儀なくされ、収益環境が一気に苦しくなったのです。
このあおりで始めた1ギガ利用まで無料の「0円プラン」は、契約者数を増やすことには寄与したものの、収益を生まない契約者の増加でARPU(アープ/1契約者あたりの月平均収入)は約750円にまで下がりました(ちなみに、ドコモは約4000円程度)。
2022年夏に「0円プラン」を廃止してARPUはようやく上昇に転じたものの(昨年7~9月は約1451円)、「0円プラン」廃止に伴う契約者の大量解約とイメージダウンにより契約件数は450万件台で伸び悩み状態にあり、単月黒字化に向け三木谷社長が掲げる目標契約数1200万件かつ目標ARPU3000円への道は、遥かに遠いと言わざるを得ない状況にあるのです。
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