そこで、映画ライターの筆者が候補作の紹介と共に予想もしてみました! まずはアカデミー賞のプチ解説から。
<目次>
そもそも「アカデミー賞」とは?
「アカデミー賞」は、アメリカの映画芸術科学アカデミーによる映画賞。授賞式の前年度、1年間にアメリカ(主にハリウッド)で公開された作品の中から、映画芸術科学アカデミーの会員たちの投票によって受賞作が決められます。映画芸術科学アカデミー会員は、プロデューサー、監督、撮影監督など技術スタッフ、美術スタッフ、脚本家、俳優など映画に関わり、映画界に功績のある人で構成されています。つまり映画制作に携わっているスタッフや俳優たちが同業者の中から、優れた作品や人物を選ぶというわけです! ちなみに会員になるには映画芸術科学アカデミーの招待が必須で、招待された本人が了承すれば会員になります。日本人で招待された映画人は多く、映画監督では、北野武、是枝裕和、河瀨直美、新海誠、片渕須直、細田守、押井守、大友克洋、三池崇史など。
俳優は渡辺謙、真田広之、菊地凛子、イッセー尾形などです。2021年度『ドライブ・マイ・カー』で国際長編映画賞を受賞した濱口竜介監督と主演の西島秀俊も招待を受けたそうです。
アカデミー賞のことを「オスカー」という理由
アメリカのアカデミー賞が「オスカー」とも呼ばれているのは有名ですよね。これは受賞者に贈られるトロフィーの通称なのですが、このトロフィーがなぜ「オスカー」と呼ばれているか。一説によると、アカデミー賞事務局のスタッフがこの像を見て「私のオスカーおじさんにそっくりだわ」と言ったことがきっかけとか。ハリウッド都市伝説みたいなエピソードで真実は謎ですが、もう定着しちゃっているので、今は誰も「なんで?」と疑問を持たないと思います。
授賞式中継のお楽しみはコレ!
アカデミー賞授賞式は、開幕前のレッドーカーペットからワクワクさせてくれます。多くのスター俳優たちのドレスアップした姿はもちろん、ミーハー心を刺激するのは「誰をエスコートしているか(エスコートされているか)」というカップルウォッチング!そして授賞式が始まると、ホストやプレゼンターの軽妙なトークや主題歌賞候補の歌唱なども楽しみです。
とはいえ一番ワクワクするのは、受賞作品や受賞者発表の瞬間ですけどね。この一瞬にドラマが凝縮されているのです。
アカデミー賞作品賞候補作をご紹介! 受賞作品を予想してみた!
では、『第95回アカデミー賞』作品賞候補作をご紹介しながら、受賞予想もしたいと思います。★3つが本命、★2つが対抗、★1つが大穴です。
※カッコ内は日本公開の情報
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022年12月16日より公開中) ジェームズ・キャメロン監督の大ヒット作『アバター』の続編。1作目が成功しているので、続編へのハードルは爆上がりしていましたが、見事に期待に応えてくれました。
★★『イニシェリン島の精霊』(2023年1月27日より公開中) アイルランドの小さな離島・イニシェリン島で、親友から突然絶交された男と絶交した男の諍いを描いた物語。島の美しさと裏腹に、心がすれ違う男2人の姿をシニカルなユーモアを包みながら描いています。キャラクターの描き方が秀逸。
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(2023年夏公開)
2010年、宗教コミュニティーの中で性暴力にあった女性たちが、男たちが不在の間に自分たちのこれからの人生について話し合うという“ディスカッション”がメインの人間ドラマ。女優のサラ・ポーリー監督作。
★★★『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2023年3月3日公開) 潰れそうなコインランドリーを経営しているヒロインが、突然、別世界へ飛び、カンフーマスターとして活躍するなど、次々と別な人生へと飛びまくるというマルチバースな世界観はもはやカオス! ミシェル・ヨーのアクションも最高にかっこいい。
『エルヴィス』(2022年7月1日公開) エルヴィス・プレスリーが無名の歌手からスーパースターへと突き進んでいく物語。エンターテインメント業界の闇を見せつつ、その中でもがきながらも輝き続けたエルヴィスの魅力を余すところなく描いています。ステージの素晴らしさは圧巻。
『逆転のトライアングル』(2023年2月23日公開) 乗客は全員セレブという豪華客船が転覆! 無人島に流され、食料も着替えもなく、スマホも使えない最悪の状況の中、トイレ係がサバイバル能力を発揮するというブラックコメディ。カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作です。
『西部戦線異状なし』(Netflix配信中)
ドイツの同名小説の映画化作品。1930年代に映画化、その後ドラマ化もされ、本作は3度目の映像化。一人の若者が戦場で多くの死と直面し、心も体も衝撃を受けていく様を描いた戦争映画。国際長編映画賞候補にもなっています。
『TAR/ター』(2023年5月12日公開)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、初の女性首席指揮者のター。才能を高く評価されながらもかつての弟子が自殺したことでキャリアに危機が。ケイト・ブランシェットの鬼気迫る名演は、長尺(158分)を感じさせない作品だと高評価。
★『トップガン マーヴェリック』(2022年5月27日) トム・クルーズの大出世作『トップガン』の続編。天才パイロットが今度は教官に。操縦席にカメラを設置して撮影した映像は酔いそうなくらいスリリング! 本物を追求し続けるトム・クルーズ渾身の作品です。
『フェイブルマンズ』(2023年3月3日公開) スティーヴン・スピルバーグが映画と出会った少年時代、いじめに遭っていた学生時代、そして家族との苦い関係を描いたプライベートな作品。愛のために家族を捨てた母親の存在感が強烈。
【予想】
本命は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』。マルチバースものですが、マーベル映画に比べると明らかに低予算。でもアイデア次第でこんなに面白い映画が作れるんです。映画業界を目指す人たちの希望の星となる作品だとも思います。
『イニシェリン島の精霊』は演出、脚本、演技が完璧な傑作。アイルランドの戦争を背景に描かれた男2人の絶交物語は、時代を反映した作品。
そして『トップガン マーヴェリック』! これぞスクリーンで体験してほしい映画。ハリウッドの底力をトム・クルーズが見せてくれました。期待を込めて!
監督賞はこの人だ!
【予想】★★★:マーティン・マクドナー『イニシェリン島の精霊』
★★:ダニエル・シャイナート、ダニエル・クワン『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
★:リューベン・オストルンド『逆転のトライアングル』
トッド・フィールド『TAR/ター』
スティーヴン・スピルバーグ『フェイブルマンズ』
作品賞と監督賞が分かれそうな気がするんですよね。マーティン・マクドナー監督は『スリー・ビルボード』(2017)で『第90回アカデミー賞』の作品賞候補に。オリジナリティのある完成度の高い作品を作り上げる監督として、本作は決定打になったのでは……というわけで個人的には本命。 対抗は、いちばん勢いある『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のダニエル・シャイナートとダニエル・クワン。下馬評では本命なんだけど、まだ受賞は早くない?って思います。
大穴は、北欧の天才監督リューベン・オストルンド。作品を発表するたびに賞レースに乗ってくる実力派。痛烈な風刺劇はクセになる面白さだし、オストルンドにしか作れない世界観で評価は高いと思います。受賞の可能性は薄いと思いつつ、大穴にしてみました!
主演男優賞はどんでん返しあるかも?
【予想】★★★:コリン・ファレル『イニシェリン島の精霊』
★★:ブレンダン・フレイザー『ザ・ホエール』
★:オースティン・バトラー『エルヴィス』
ポール・メスカル『aftersun/アフターサン』
ビル・ナイ『生きるーLIVING』
前哨戦(ゴールデングローブ賞など全米の各映画賞)で、圧倒的に強かったのがコリン・ファレルとブレンダン・フレイザー。 ブレンダン・フレイザーは、しばらく表舞台から姿を消していましたが『ザ・ホエール』で感動的なカムバック。実にエモーショナルなお芝居で心を鷲掴みにしますから、映画ファンの間では大本命だと思います。
ですが、筆者は『イニシェリン島の精霊』のコリン・ファレル推し! 愚かなお人好しが親友の絶交宣言で混乱する様をユーモラスに見せていて、名演だったと思います。 前哨戦後半にグイグイと頭角を現してきたのは『エルヴィス』のオースティン・バトラー。有名スターを自分のものにした実力は本物! 意外と逆転劇があるかもしれません。
主演女優賞はアメリカ俳優組合賞を制したミシェル・ヨーが本命
【予想】★★★:ミシェル・ヨー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
★★:ケイト・ブランシェット『TAR/ター』
★:ミシェル・ウィリアムズ『フェイブルマンズ』
アンドレア・ライズボロー『To Leslie(原題)』
アナ・デ・アルマス『ブロンド』
主演女優賞はミシェル・ヨー、ケイト・ブランシェットの一騎打ちといわれています。アメリカ俳優組合賞を受賞して勢いに乗るミシェルか。それとも、出演作全てで名演技を見せ、『TAR/ター』でも彼女しか演じられない芝居で圧倒しているケイトか……。
とはいえ、個人的にはミシェル・ヨー推し! パワフルでドラマチックな芝居で圧倒していましたから。アジア人初の主演女優賞を獲得してほしい! ケイト・ブランシェットはすでに主演女優賞、助演女優賞を受賞した経験がありますから「今回はミシェル・ヨーに譲って~」という気持ち。 ミシェル・ウィリアムズは、スティーヴン・スピルバーグの自伝的映画でお母さん役。すごいインパクトがあったので大穴で。
助演男優賞はキー・ホイ・クァン一択
【予想】★★★:キー・ホイ・クァン『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
★★:ブレンダン・グリーソン『イニシェリン島の精霊』
★:バリー・コーガン『イニシェリン島の精霊』
ブライアン・タイラー・ヘンリー『その道の向こうに』
ジャド・ハーシュ『フェイブルマンズ』
助演男優賞はキー・ホイ・クァンが大本命。『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)に出演していた少年が、中年になって、メジャーシーンにカムバック! マルチバースで妻(ミシェル・ヨー)を支える夫としてさまざまな顔とアクションを見せてくれて、とても魅力的! 対抗は『イニシェリン島の精霊』のブレンダン・グリーソン、大穴はバリー・コーガン。グリーソンは絶交のきっかけを作る老年の男ですが、芝居に説得力と迫力があり、作品を力強く締めてくれています。バリー・コーガンは英国の若手演技派。親に虐待されている青年の複雑な心情を繊細に演じていて印象深かったです。
助演女優賞はベテランに受賞してほしい
【予想】★★★:ジェイミー・リー・カーティス『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
★★:ケリー・コンドン『イニシェリン島の精霊』
★:アンジェラ・バセット『ブラック・パンサー/ワカンダ・フォーエバー』
ステファニー・スー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
ホン・チャウ『ザ・ホエール』
本来ならば前哨戦で強さを発揮している『イニシェリン島の精霊』のケリー・コンドンですが「この作品で初めて見た」という人が多そうで、そこが不利かも? 閉鎖的で未来を描けない島の暮らしに絶望している主人公の妹役。映画を見た人の共感度が高いのは彼女の芝居あってこそ。 でも本命は思い切ってベテランのジェイミー・リー・カーティスに。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の中で一番笑わせてくれるのが彼女。喜劇は受賞が難しいといわれているけど、これまでの功績がものを言うのではないかと。実際に、この作品で『第29回アメリカ俳優組合賞』最優秀助演女優賞を獲得しています。 『ブラック・パンサー/ワカンダ・フォーエバー』のアンジェラ・バセットは圧倒的な貫禄で大穴の存在。彼女を尊敬する俳優たちは多く、大逆転劇があるかもしれません。
アカデミー賞授賞式をLIVEで観よう
『第95回アカデミー賞』授賞式はWOWOWで生中継されるので、ぜひ見ていただきたいです。3月13日(日本時間)7時30分よりレッドカーペットの模様、スタジオでは候補作、候補者の紹介、番組ホストとゲストの予想などLIVEでお送りします。
レッドカーペットを歩くスターたちへのインタビューもあり、授賞式が始まる前から大いに盛り上がりますよ。
生中継では同時通訳、同日夜に字幕付で授賞式の模様が再放送されるので、昼間見損ねても夜ゆっくり鑑賞できるから安心! ぜひ、華やかな授賞式をお楽しみください。
【WOWOW放送スケジュール】 『生中継!第95回アカデミー賞授賞式(同時通訳版)』
3月13日(月)午前7時30分~
『第95回アカデミー賞授賞式(字幕版)』
3月13日(月)午後10時~