日本の高校生は「超優秀」? それを担保している日本の教育環境とは
OECDが実施しているPISAと呼ばれる国際的な学習到達度調査では、各国の15歳(日本では高校1年生)を対象に、数学的リテラシー、科学的リテラシー、読解力の3分野について3年ごとに調査している。
2018年の調査結果で日本は、OECD加盟国(37カ国)の中で数学的リテラシー1位、科学的リテラシー2位、読解力11位だった(※1)。読解力は順位を落としているものの、数学と科学の分野では世界トップクラスだ。
学力の面から言えば、日本の高校生は世界的にも優秀であると言えるが、果たしてそれだけなのだろうか。実は私たち日本人とって当たり前の教育環境が、世界的には大変稀なことで、日本の高校生をある意味の「ハイスペック人材」として育て上げていることが分かる。
暗記と計算で鍛えられた高い情報処理能力
「日本人は計算が得意」というのは海外共通のイメージかもしれない。私自身もアメリカ留学中に買い物で簡単な計算を暗算でしたところ、ルームメイトから驚かれたことがある。アメリカでは数学のテストで計算機を持ち込んでいいというのは有名な話で、対して日本人は小学校から高校までテストではひたすら暗算と筆算を繰り返す。その土台を担っているのが小学2年生でマスターする「九九」である。日本の大人の誰もが、小学校の勉強で今でも役立っていることランキングTOP3にいれるだろう。この九九が日本人の計算力、暗算力を底上げしていることは言うまでもない。
また日本の教育は「暗記教育」とよく批判される。実際に学校のテスト前には夜遅くまで教科書や参考書を読みながらひたすら暗記し、テストが終われば忘れるということを繰り返した経験は誰でもあるはずだ。
多くの日本の高校生にとって、そんな暗記力を最大限に発揮しなければいけないのが大学受験である。国公立大であれば最大9科目、私大でも3科目、自分の興味あるなしに関わらず大量の情報を決められた期間内に脳にインプットするという大仕事をしている日本の高校生は本当にすごい。他の国々と比べて、一般入試に限っては18歳の時点で覚えておかねばならない情報量が圧倒的に多いのだ。
このような背景もあって、日本の企業が採用活動で高学歴と言われる偏差値の高い大学の学生を評価する傾向にあるのは、大学が有名だからではなくその学生に18歳の大学入学時点で高い「情報処理能力」があると判断できるからである。
部活動で身につけた団体行動力
日本の高校生のすごいところは学力だけに留まらない。中学校・高校で最も強く経験として残っているのは「部活動」だという大人も多いだろう。日本では部活動の加入率が、中学生で9割、高校生で7割(※2)。学校の放課後や休日に教員指導の元でここまで課外活動がある国は世界的にも珍しい。海外では生徒がそれぞれ学校外の地域クラブに所属、活動も競技ごとのシーズン制で3年間1つのチームに所属し続けるということは少ない。
日本で中学校・高校の部活動を経験した人であれば誰でも実感していると思うが、3年間かけて競技力だけでなく、礼儀やチームワークなど団体行動力もみっちり鍛えあげられる。毎年、甲子園でひたむきにプレーする高校球児をテレビで見ると、こんな若者たちがいればこれからの日本も安心だと思ってしまうのは私だけではないはずだ。
それだけ日本の教育における部活動の役割は大きい。その影響を最も受けるのが高校生までの年代である。大学に行けば同じ競技を部活動ではなくサークルなどの場で継続する選択肢も出てくるので、教育的な要素はまた異なってくる。
企業の採用活動において体育会などで部活動経験を積んできた学生が評価されるのは、それだけ部活動が社会に出てから必要な基礎力育成に有効であると実証されているからである。
日本の高校生は部活動を通じて、学力以外の社会に出てから必要な力を養われていることも大きな強みの1つである。
そんな世界的ハイスペック人材を無駄にしないために
ここまで世界的に見ても日本の高校生は “超優秀” であるとベタ褒めしてきたが、なぜ両手を挙げて賞賛できないのであろう。それはその“優秀さ”が一過性だったり、それをその後うまく活かし切れていなかったりするからではないだろうか。理系など一部の学部を除いては、日本の大学生はとにかく勉強しないことで有名だ。「勉強しない」というのは若干語弊があり、「勉強しなくてもいい」という方が正しいかもしれない。興味のない授業は教室で寝ているか、オンラインであれば画面をオフにしておけば良い。実際に学びがあるかどうかは関係なく単位がもらえる状況が、多くの大学の教育現場で起こっている。サークルの活動も部活動ほどの強制力はないので、テキトーに飲み会だけ参加している学生も多い。
そんなお気楽な学生生活を完全否定するつもりは全くないが、18歳からいきなり日々全力で勉強しないと卒業が危うい海外の大学生たちに、一気に追い抜かれてしまっても仕方がない。
日本の高校生たちに必要なのは、人生のハンドルは自分たちが持っているということを我々大人たちが教えてあげることではないか。覚えなさいと言われたことを必死に覚えるだけではなく、何を学びたいか、知りたいかを問うこと。与えられた練習メニューを文句1つ言わずに取り組むことも大事だが、今どんな力を伸ばしたくて、そのために今何をすべきか?と考えてもらうことも必要だ。
そうすることで、例え高校まで自分たちを鍛え上げてくれた環境や恩師と離れても、その後の人生でも自分自身で自分を磨き上げ続けていくことができるはずだ。
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<参考>
※1:OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント(文部科学省・国立教育政策研究所)
※2:第2回 放課後の生活時間調査 -子どもたちの時間の使い方[意識と実態](ベネッセ教育総合研究所)