お酒に酔うと、物が二重に見える? 飲酒で見え方がおかしくなる不思議
お酒を飲むとなぜ物の見え方がおかしくなるのか
お酒を飲んで酔っ払った人に対して、ピースサインをして「この指何本に見える?」とたずねると、3本とか4本と答えることがあります。
1つの物体が2つに見えることを、専門用語では「複視」といい、さらに二種類に分けられます。片目で見たときでも二重に見えるのであれば「単眼複視」、片目それぞれだと正常に見えるのに両目で見たときだけ二重に見えるのは「両眼複視」です。単眼複視は目の問題ですが、両眼複視は脳の働きの変化によって起きます。
もともと目が悪くない人でも、泥酔すると、脳の一部が麻痺するために、両眼複視になりやすいのです。その理由を理解するためには、まずは物を見るしくみについて、簡単に理解しておく必要があります。
私たちは左右2つの目がありますが、片目を閉じると階段の上り下りが難しくなったりしますね。これは、私たちは両目を使うことによって、物の奥行きが分かるようになっているからです。
私たちが両目で見た映像情報は、最終的に大脳皮質の後頭葉にある一次視覚野と呼ばれる部分に送られ、そこで初めて「見えた」と知覚されます。このとき、体の中心から左半分の視野の映像は右脳の視覚野に、右半分の視野の映像は左脳の視覚野に、投影されます。詳しくは「視神経の半交叉・視覚伝導路の仕組みをわかりやすく解説」で解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
左右それぞれの目でとらえた2つの映像をうまく重ね合わせないと、物は1つに見えない…複雑な視覚のしくみ
さて、あなたの目と脳が正常であれば、顔の数十センチ前に1本指を立てて注視すれば、1本にしか見えないはずです。ところが、指から視線をはずして遠くをボーっと見ると、指が2本に見えてくるでしょう。つまり、左右の目で見た映像が脳の中で重ね合わされたときには1本に見えますが、重ね合わせることができなかったときには2本に見えてしまうのです。眼球の周囲には、眼球を動かすための筋肉がたくさんついています。私たちが左目で見た映像と右目で見た映像を重ね合わせるためには、これらの筋肉を動かして両目の向きをちょうどよい位置に合わせる必要があります。普段何気なく行っていますが、私たちがこれを達成するためには、ものすごく精巧なメカニズムが脳で働いています。
右目と左目で捉えた情報は、一次視覚野から前頭葉に送られます。前頭葉では、どれくらい両目の向きを修正すれば2つの映像を重ね合わせることができるかが判断され、左右の眼球を適当な向きに動かす指令が出されます。この調節を何度も繰り返すことで、やっと右目と左目の映像が一つに重なって見えるのです。
前頭葉はアルコールに弱い! 見え方がおかしくなる前に、飲酒はほどほどに
「お酒で酔う仕組みは未解明?お酒と麻酔薬の共通点」で解説したように、お酒に含まれるアルコール(エタノール)は、麻酔薬と似たような作用を示し、脳の神経を麻痺させることによって、いわゆる「酔い」を生じます。しかし脳全体を同じように麻痺させるわけではありません。脳の中には、たくさんお酒を飲んでもなかなか麻痺されにくい部分と、少しお酒を飲んだだけでも麻痺されてしまう部分があります。前頭前野を含む前頭葉は、脳の中でもっともアルコールに敏感で、麻痺されやすいのです。詳しくは「お酒を飲むと物忘れがひどくなるのはなぜ?アルコールに弱い前頭前野」で解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。お酒を飲んだときに前頭葉がうまく働かなくなると、両目からの映像のずれを判断することが難しくなります。泥酔して複視状態になった人の目をよく観察すると、眼球の位置が一定せず、ぐらぐらしていることに気づきます。その結果、右目と左目にそれぞれ映った1本の指を重ね合わせることができず、2本に見えてしまうというわけです。
両眼複視は脳のはたらきの危険信号です。できればそうならないうちに、お酒を飲む手を止めるようにしましょう。