健康でも若くても起こる物忘れ……お酒を飲むとひどくなるのはなぜ?
またさっきと同じ話をしてる……? お酒を飲むと、なぜたった今したことを忘れてしまうのでしょう
お酒に酔うと、物忘れが起こりやすくなります。特に、ついさっきしたことを覚えていないとか、何かしようと思っていたことを忘れてしまった……といったことが増えます。焼き鳥を注文したばかりなのに、それをまったく覚えておらず、同じものを注文して、何本もの焼き鳥がテーブルに並んでしまうこともあります。
似たような物忘れは、お酒を飲んでいない日常でも起こることがあります。例えば、何かを取ろうと冷蔵庫の前まで来たのに、扉を開けたとたん何を取りに来たのかわからなくなってしまったり、料理中に魚を焼いているのをうっかり忘れて焦がしてしまったりした経験はありませんか。
こうした典型的な物忘れは、脳の「ワーキング・メモリー」がうまく働かないために起こります。
ワーキング・メモリーと前頭前野の関係
「長期記憶・短期記憶とは違う「作業記憶」とは…家事や仕事に不可欠な役割」で解説したように、一連の作業をこなすために自分が行った作業結果を一時的に覚えておく記憶のしくみが、ワーキング・メモリーです。何らかの論理的思考や、複雑な作業を遂行するために必要な情報を一時的に記憶するのに利用されます。そして、このワーキング・メモリーを担っているのが、大脳皮質の前頭前野です。
前頭前野は、私たち人間がとくに発達させた、もっとも進化した脳の部分です。詳しくは「クイズが得意なら「賢い」のか?人間らしさと前頭前野のはたらき」をご覧ください。前頭前野はワーキング・メモリーだけではなく、思考力、判断力、集中力、理性、人格などにも関係していて、非常に優秀な脳の部位とも言えますが、実は大きな弱点が2つあります。
一つは、脳の中で、年をとると最も衰えやすい部分だということです。私自身もそうですが、年を取ると「若い頃はこんな失敗しなかったのに…」とぼやきたくなるような物忘れをしてしまうことが増えるのは、加齢に伴って前頭前野が衰えるからです。
前頭前野はお酒に弱い! 脳の特徴を知った上で、楽しいお酒を
もう一つは、お酒に弱いということです。お酒に含まれるアルコール(エタノール)は、麻酔薬と似たような作用を示し、脳の神経を麻痺させることによって、いわゆる「酔い」を生じますが、脳全体を一様に麻痺させるわけではありません。「お酒で酔う仕組みは未解明?お酒と麻酔薬の共通点」でも解説しましたが、脳の中には、たくさんお酒を飲んでもなかなか麻痺されにくい部分と、少しお酒を飲んだだけでも麻痺されてしまう部分があります。前頭前野は、脳の中でもっともアルコールに敏感で、お酒を飲み始めると最初に麻痺されます。お酒を飲んで前頭前野が麻痺されると、前頭前野が担っていたワーキング・メモリーが使えなくなるのは当然ですね。居酒屋で同じ焼き鳥を繰り返し注文してしまうような失敗は、前頭前野のワーキング・メモリー機能が働かなくなり、自分がすでに注文していたことを覚えていないために起きるのです。お酒を飲むときには、ぜひこの脳の仕組みも頭の片隅において、大きなお酒の失敗をしてしまわないように気を付けましょう。