中学受験

「さくらんぼ計算」は分かりにくい? 上手に使うコツと応用方法

X(旧Twitter)などのSNSでも「余計わかりにくい」「暗算ができる子を減点するのはおかしい」などと、たびたび批判の的となる現代の計算方法「さくらんぼ計算」。果たしてこれは教育の「改悪」なのか、徹底考察してみたいと思います。

宮本 毅

執筆者:宮本 毅

学習・受験ガイド

「さくらんぼ計算」とは

「さくらんぼ計算」とは

分解した数をさくらんぼのように書くことから名付けられた「さくらんぼ計算」

私たち親世代が小学校低学年のころ、2桁の繰り上がり・繰り下がりのあるたし算やひき算をどんな風に勉強していたか覚えてらっしゃいますか? 「指折り数えた」「筆算を使っていた」など、様々なやり方が出てくると思います。

しかし「さくらんぼ計算でやった」という記憶をお持ちの方は、恐らくいないのではないでしょうか。X(旧Twitter)などのSNSでも「余計わかりにくい」「暗算ができる子を減点するのはおかしい」など、たびたび批判の的となる現代の計算方法「さくらんぼ計算」。

果たしてこれは多くの方が疑問に感じているように、教育の“改悪”なのでしょうか。徹底考察してみたいと思います。
 
<目次>
 

「さくらんぼ計算」って本当に最近できたの?

ところでさくらんぼ計算って、本当にここ最近出てきた解法なのでしょうか? 実はその歴史は古く、教科書で「さくらんぼ計算」という名前が使われるようになったのは、今から20年ほど前のこと。また、名称は使われなくても、その考え方は1960年代からすでに学校の教科書に取り入れられていたようです。つまり概念はずっと昔からあるものだったのです。皆さんも、記憶にないだけで、その考え方で計算問題を解いていたわけです。

では、なぜこんなにも批判が多いのでしょう。それは親世代にとってなじみが薄いこと、そして我が子が繰り上がりや繰り下がりの計算に苦労しているため、やり方が悪いのではないかと疑心暗鬼に陥ってしまっていることが要因として挙げられるでしょう。

最近の親はやや過保護で、わが子が苦しんでいる姿を見ると誰かを悪者にしたがる傾向があるのかもしれません。子どもの成績が上がらなければ、すぐに「塾のせい」「学校のせい」にしたがるような方もいらっしゃいます。「さくらんぼ計算なんてかえってわかりにくいし、それで算数嫌いになったらどう責任取ってくれるの?」という思考になってしまうのかもしれません。

でも昔も今も、小学校低学年の子にとって繰り上がり・繰り下がりは算数の鬼門です。みな苦しむのです。ですから、さくらんぼ計算のせいにせず、落ち着いて訓練させるしか道はないのです。
 

「補数」という、実は優れた考え方を基本にしている

ところで、さくらんぼ計算はどういった発想から生まれたものなのでしょう。ここで皆さんに質問です。みなさんは、たし算とひき算、どっちが楽ですか? 一般的には、たし算の方が楽と答える方が多いのではないでしょうか。

実は数の世界って、たし算の考え方をベースに作られているんですよね。例えば58という数字は、50に8を加えた数というような考え方です。50という数も10のかたまりが5つ、すなわち10+10+10+10+10ですし、8だって1+1+1+1+1+1+1+1です。もともとの数の成り立ちがたし算をベースにしているわけですから、計算する上でもたし算の方が馴染みやすいのは自明の理です。当然、ケアレスミスもひき算のときに起こりやすくなってきます。

ところでアメリカの小売店などではおつりを渡す際、日本のようにひき算で計算せず、たし算を使います。日本なら、672円の買い物をして1000円札を出すと、店員さんは1000-672と計算して328円を渡してきます。でもアメリカだと、客が6ドル72セントの買い物をして10ドル札を出してきたら、まずおつりの一部として1セントコインを3枚出してきます。これで6ドル72セント+3セント=6ドル75セントになりますので、今度は25セントコインを1枚出してきます。つまり6ドル75セント+25セント=7ドルということですね。最後に3ドルを紙幣で渡してくるわけです。これで合わせて10ドルということになります。

ヨーロッパ圏でもおおむね同様の計算方法を使っているようです。この考え方を「補数」といいます。10-2を計算するときに「2に何を足したら10になるか」を考えるわけです。「100-72」でも同様です。「72に何を足したら100になるか」を考えることで、ひき算の概念をなるべく使わずに計算を完結しているのです。

お金の計算はミスをすればこちらが損をするため、できる限り正確に行う必要がある。そのため欧米ではこの補数の考え方を導入しているわけです。
 

補数の考え方が身に付くと、こんな応用も

この補数がパッと思いつくようになると、ひき算の計算を素早く解けるようになるばかりでなく、繰り下がりのミスをほぼ防ぐことができるといえるでしょう。そもそも繰り下がりという概念をなくすことができるのですから。

例えば、645-487のようなひき算を考えてみてください。ふつうは写真のように一生懸命、筆算をして計算しますよね。ところがこの計算、やっかいなことに繰り下がりが2回も出てきます。大人だってこんな計算だとミスしてしまいそうです。
繰り下がりのあるひき算

繰り下がりのあるひき算

ところが、補数で計算することを知っている賢い子たちはどう解くかというと、まず487の下2桁である87の補数を考えるわけです。87に13を足せば100になりますので、87の補数は13となります。すると645-487の計算は645-500=145、そして145+13=158というように解くことができるわけです。

おわかりですか。645から500を引くと13だけ多く引きすぎているので、あとからその13を足しちゃおうという発想です。繰り下がりの計算を2回するよりもシンプルで計算も間違いづらいでしょう。さくらんぼ計算はこの補数を考える訓練をしてくれます。この訓練を充分積んだ子は、のちのち計算ミスをしない子に育っていくはずなのです。

またさくらんぼ計算のような「数を分解する」という考え方は、例えばかけ算にも応用することが可能です。みなさんは18×24をどうやって計算しますか? やはり地道に筆算する人が多いのではないでしょうか。しかし、さくらんぼ計算の流れをマスターできている子は、こともなげに暗算で解いてしまいます。その頭の中はこうなっているのです。まず、24を20と4に分解します。次に18×20=360、18×4=72と計算し、最後に360+72=432と計算するわけです。

中学受験でトップ校を狙っていく子の多くは、2桁×2桁レベルの計算は、ほぼ暗算でやっているのですが、その訓練段階として最初は数を分解する、いわゆる「分配法則」でかけ算してからたし算するという手法を使っています。ぜひその方法で計算の訓練をしてみてください。
 

暗算ができる子を“減点”するのは悪なのか

また、さくらんぼ計算が批判される要因として、わかりづらいということの他に、暗算がすでにできる子でも、さくらんぼを書かないと減点されたり、やり方を強制されたりすることなども挙げられるようですね。

これについては、教育とは強制されるべきものなのか、という教育の根幹に関わる問題であると私は考えます。学校の教育現場では、一人の先生が多数の生徒を相手に指導しなければなりません。生徒一人一人が好き勝手なことをやると、教師の負担が増えるばかりでなくとても非効率です。またまだ脳の発達段階が未成熟な生徒に、様々ある中から自分に合ったやり方を選択させると、間違った選択をしてしまう可能性が大きくなります。そのため、やり方はある程度統一されているべきであると私は考えます。最近は自由で柔軟な発想が重んじられる傾向が強いですが、一部の突出した才能を有する子にはよくても、大多数の子にとっては自由な発想を求められること自体が重荷になりかねません。

また、すでに暗算ができる子にとっては無駄な教育なのではという意見に対しても、将来的に2桁×2桁の暗算ができることにつながることを考えれば、決して無駄ではないでしょう。直感的に「面倒くさそう」と否定するのではなく、なぜこのやり方が効果的なのか必要なのかということを深く読みとくことも、ときには必要なことかとも思います。

さくらんぼ計算は応用範囲が広い上に、マスターすれば計算力を高められるという、非常に強力なツールです。繰り返しになりますが、小学校低学年というのは繰り下がりの計算に手こずるもの。子どもが苦しんでいるからといって、さくらんぼ計算を目のかたきにするのではなく、上手に使って訓練を積みましょう。

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