定年後、思いのほかかさむ「イベント費」
定年直後の60~64歳は、子どもも自立し、生活費以外にはそれほど出費がかさむこともない……なんて考えているとしたら、大間違いです! まずは、この年代の出費について整理してみましょう。人生の中で大きなイベント費といえば、結婚式、出産、住宅購入、子どもの教育費など。これらは60代になればすべて終わっているという人も多いはず。しかし、実はまだまだイベント費の負担は続きます。家族関連でいえば、定年退職をしたときに、妻にそれまでの感謝を込めて旅行に行くことを考える人も多いでしょう。特別な記念ですから、少し贅沢な海外旅行へ2人で行くとして、予算は100万円。
また子どもが結婚をした場合には、結婚資金の援助も。子ども2人として合計200万円。さらに出産をした場合には出産祝い、孫と一緒に旅行をしたり、誕生日やクリスマス、お年玉などのイベントごとに送るお祝い金やプレゼント。孫の数に応じて出費も増えますが、だいたい200万円と見積もります。今は共働きが多くなり、仕事が忙しい母親に代わって「孫育て」をする60代もとても多い。そうでなくても、毎週末孫が遊びに来るといった場合、うれしい半面その都度ちょこちょことした出費が重なります。
まだまだあります。子どもが自立したら、ファミリータイプの車を小型車に買い替える人も多いですが、車の買い替え2回分で350万円。夫婦で70歳までは毎年1~2回は国内旅行に行こうと思うと合計200万円。そして、今住んでいる家に一生住もうと考えるなら、リフォームや修繕費用に200万円くらいは見ておかなくてはなりません。これらの概算はなんと1250万円にもなります! この額、皆さんが考えるよりかなり多いと思いませんか?
60~64歳の収支を具体的にチェック!
そんなイベント費を盛り込んで、60歳で定年退職をしたAさん(男性)のケースを見てみましょう。仮にAさんが60歳で定年退職をした場合、まず退職金は「就労条件総合調査」(厚生労働省・平成30年)の平均値である1740万円。貯蓄は「家計の金融行動に関する世論調査」(金融広報中央委員会・令和2年)の50歳代の中央値である1000万円とします。住宅ローンの残債はなし。生活費は「生活保障に関する調査」(生命保険文化センター・令和4年度)の最低日常生活費が約23万円なので、少し余裕を持たせて26万円とします。定年退職後も雇用継続で働くとして、年収を300万円程度として考えます。
Aさんの60~64歳までの収入は、「退職金+収入」で3240万円となります。しかし、長生き時代、退職金のうち1000万円は医療・介護費として別管理しておくことが大切ですので、合計額は2240万円と考えましょう。
これに対して、日常生活費は、月26万円として5年間で1560万円。さらに先ほど考えたイベント費のうち、海外旅行、自動車の買い替え(1回目)、自宅のリフォーム、子ども1人の結婚式補助、年1回の国内旅行を加えると700万円。合計で2260万円になります。ということは、退職金があるにもかかわらず、この5年間の収支はほぼトントン。手持ちの貯蓄が1000万円あっても、これでは先が不安ですね。
子どもや孫にかけるお金のバランスを考えることが大切
60代前半の人の子どもは40歳未満が多く、「終身雇用で年齢とともに給料が上がる」といった幻想は持っていない世代。結婚式や子育てにもお金をかけない、という姿勢を持ってはいるでしょう。半面、親からの援助を期待していることもあるかもしれません。現実、今の若い世代の懐事情はとても厳しいのです。図で、それぞれの年代の貯金額を確認します。 40歳未満の貯蓄現在高は726万円なのに対し、負債現在高が1366万円。純貯蓄額はマイナス640万円となり、まったく家計に余裕がありません。この状況ですと、子ども世代は、マイホーム購入や自分の子どもの教育費・おけいこ事代などを、少なからず親に頼らざるを得ないといえます。子どもや孫には快くお金を使いたい、というのが親心。でも、そういってばかりいると自分たちの生活が立ち行かなくなります。親と子、お互いのバランスが難しいところではあります。
親世代も60歳でまったく仕事を辞めてしまうのではなく、それ以降も月数万円でも働き、家計に余裕を持つといった工夫も必要でしょう。また、子ども世代への援助も、お年玉は1人5000円、小学校入学のときはランドセルを買ってあげるよ、など宣言して、親の家計に無理のない範囲で、子や孫全員に不公平のないように援助をしていくことも大事かもしれません。
自分たちの収支をしっかり把握して、定年後の仕事のこと、お金の使い方についてしっかり考えましょう。
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