老後資金づくりは社会人になったら、できるだけ早く考えよう
<目次>人生の3大資金のひとつ、「老後資金」の準備は早いほどいい、といわれます。一般に老後資金の貯め時は「社会人になってすぐの20代」と「教育費から解放される50代」といわれますが、晩婚化により50代は教育費と住宅ローンの重圧に加え、役職定年による収入減のダブルパンチで家計の余裕はそれほどない状況です。したがって、社会人になったらできるだけ早く、手間がかからず、少額からスタートできて、金額の変更が可能な商品を活用し老後資金準備に着手しましょう。
ここでは税制上の優遇措置がある「私的年金」をご紹介します。
時間を味方にして1000万円を貯めよう!
私的年金で「老後貯金」の土台づくりをしよう
日本の年金制度は3階建てで、1階と2階が「公的年金」です。1階は20歳以上60歳未満の日本に住む人全員が加入する国民年金、2階は会社員や公務員などが加入する厚生年金です。3階は公的年金を補完する企業年金や、国民年金に加入する人が任意で加入する「私的年金」です。公的年金等として扱われ、積立期間中だけでなく受け取る時にも、税制上の優遇措置があります。私的年金は、拠出額の変更が可能で受け取り開始が原則60歳以降、と老後資金の準備にぴったりの商品設計です。時間とリスクを分散しながら、確実かつ自動的に老後資金を準備することができますが、公的年金や企業年金への加入状況によって、利用できる年金に制限があります。まずは、国民年金だけに加入している人が利用できるものから見ていきましょう。
国民年金だけに加入している人(自営業・専業主婦の人)の老後資金の作り方
国民年金だけに加入する人には、自営業者など自分で保険料を拠出している国民年金第1号被保険者と、会社員や公務員などの扶養家族になっている配偶者で自分で保険料を負担していない第3号被保険者(専業主婦)がいます。第1号被保険者と第3号被保険者とでは、任意で加入できる「私的年金」は異なります。第1号被保険者は、付加年金、国民年金基金、小規模企業共済、個人型確定拠出年金(=以下「iDeCo」とする)に加入できます。それに対して第3号被保険者が加入できるのはiDeCoだけです。
では、第1号と第3号の被保険者が加入できるiDeCoからご紹介します。
■iDeCo
iDeCoは、平成13年施行の私的年金制度「確定拠出年金(個人型)」が改正・名称変更されて、平成29年1月に施行されたものです。基本的に20歳以上65歳未満(一定の条件あり)の人が加入できます。
第1号被保険者の毎月の拠出額は、国民年金基金や付加年金などと合算して5000~6万8000円(年額81万6000円)、第3号被保険者は5000~2万3000円(年額27万6000円)です。拠出額を1年の単位で考えて、年1回以上任意に決めた月にまとめて拠出することもできます(カッコ内は拠出限度額)。
iDeCoの加入資格と掛金について詳しくはこちら
拠出金は、預貯金や投資信託、保険商品などの商品群から自己責任で商品を選び運用します。60歳以降75歳までの間に受け取る年金や一時金の額は運用次第です。掛金や60歳以降に受け取る年金・一時金には税制上の優遇措置が設けられており、運用途中で得られた利益(利子や配当、売買益)も非課税扱いです。
続いて第1号被保険者が加入できる付加年金、国民年金基金などをご紹介します。
■付加年金
最も手軽・最も少額で始めることができる年金です。国民年金保険料と一緒に毎月400円を上乗せ納付すると、国民年金(老齢基礎年金)を受給する際に「200円×12カ月×納付年数」が年金として上乗せ給付されます。20~60歳まで40年間加入した場合の上乗せ額は、毎年「200円×12カ月×40年=9万6000円」です。
これでは老後資金としては焼け石に水と思っていませんか? とんでもない。40年間付加年金を納めた場合、65歳から85歳の20年間の給付総額は192万円(9万6000円×20年)で、生きている限り給付は続きます。ちなみに40年間の付加年金の保険料総額は、400円×12カ月×40年=19万2000円です。コーヒー1杯分で将来の上乗せ年金が捻出できる、すごい年金です。
■国民年金基金
自営業者やフリーで働く人とその配偶者が加入できます。「全国」と「職能型」の2種類があり、掛金の上限は月額6万8000円です。掛金の額は、加入時の年齢や性別、選択した給付の型、加入口数なので決まります。なお、付加年金と同時に加入することはできません。
国民年金基金について詳しくはこちら
■小規模企業共済
個人事業主や共同経営者、会社の役員が加入できる退職金制度です。掛金は毎月1000~7万円(500円刻み)で、減額や増額ができます。共済金の受け取り方は、一括受け取り、分割受け取り、一括受け取りと分割受け取りの併用、の3種類あります。また、払い込んだ掛金の範囲内で貸し付け(担保・保証人不要)が受けられるという「おまけ」もあります。
小規模企業共済について詳しくはこちらへ
厚生年金に加入している人で企業年金のない人
つぎに、厚生年金に加入している人で企業年金がない人が利用できるものを見ていきましょう。厚生年金に加入している人で企業年金がない人は、前出のiDeCoに加入することができます。
掛金は、公務員等は月額5000~1万2000円(年額14万4000円)、企業の従業員は月額5000~2万3000円(年額27万6000円)と上限が低く設定されています。
なお、退職一時金制度や中小企業退職金共済制度、小規模企業共済制度は、企業年金制度の対象外です。「企業年金がない」とみなされます。
厚生年金に加入している人で企業年金がある人
厚生年金に加入している人で企業年金がある人も、iDeCoに月額5000円から加入することができます。掛金の上限額は、企業年金の種類によって次のように異なります。<企業年金の種類別のiDeCo掛金上限額>
(1)確定拠出企業年金のみ:「月額5万5000円-企業の掛け金」で2万円が上限
(2)確定拠出企業年金と確定給付企業年金を併用:「月額2万7500円-企業の掛け金」で1万2000円が上限
(3)確定給付企業年金のみ:「月額2万7500円-企業の掛け金」で1万2000円が上限
また、企業年金が確定拠出企業年金(前出の(1)(2))でマッチング拠出(※)を導入している企業の従業員は、マッチング拠出かiDeCoのどちらかを選択できます。併用はできません。iDeCoを選択する場合の掛金上限額は前出の通りです。マッチング拠出を選択する場合は次の通りです。
(1)確定拠出企業年金のみ:、企業と本人の拠出額合計の上限が5万5000円で、本人の拠出額が企業の拠出額以下
(2)確定拠出企業年金と確定給付企業年金を併用:企業と本人の拠出額合計の上限が2万7500円で、本人の拠出額が企業の拠出額以下
※マッチング拠出とは、企業が拠出する掛け金に、従業員本人が掛け金を上乗せして拠出すること。
番外編:勤め先にあるなら利用したい「財形年金貯蓄」
老後資金づくりに役立つ金融商品の番外編として、「財形年金貯蓄」についても紹介します。「財形年金貯蓄」の制度は、どの公的年金に加入していても、勤務先が制度を導入していれば、利用できます。財形年金貯蓄は、55歳未満の勤労者が加入できる商品(勤務先によります)で、預貯金型と保険型の2種類があります。預貯金型は元利合計で550万円まで、保険型は払い込み保険料累計額が385万円までは利子等が非課税扱いです。財形住宅貯蓄と併用する場合の限度額は、預貯金型・保険型とも550万円です。
財形年金の最大のメリットは、受給する年金が非課税(=確定申告不要)になることです。所得税や住民税、社会保険税の計算の基になる所得にカウントされません。
加入要件、手数料、運用のリスクなど広く検討しよう
老後資金1000万円を準備するのはハードルが高いように感じますが、20代から年金制度の3階部分に拠出し、50代で財形年金貯蓄を限度額まで積み立てると、1000万円近くまでは準備することができます。税制を味方につけるとお金を貯めるスピードがアップするので、税制上のメリットのある私的年金を取り上げましたが、デメリットとして加入条件や拠出額、解約や受け取りなどに厳しい要件が設けられています。
ご紹介した商品への加入の可否は、商品内容以外にも加入要件、積立期間、受給開始年齢、解約・減額条件、持続の可能性、手数料、運用のリスクなど多面的に詳細にわたり検討して、自己責任で判断してください。
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