認知症

認知症に伴う「徘徊」はなぜ起こる?特徴・原因・対処法

【認知症の専門家が解説】認知症の周辺症状として起こる徘徊。事故やけが、行方不明になってしまう危険もあり、家族や介護者を悩ませますが、認知症の徘徊行動は、背景として本人に何らかの目的があることが多いです。認知症で徘徊が起こる原因と、適切な対処法・対応法について、わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

認知症の周辺症状として起こる「徘徊」…行方不明届は年間1万人以上

認知症による徘徊への対処法は

「会社に行かなくては」「家に帰ろう」…認知症に伴う徘徊は、本人が出ていこうとする目的を理解することが大切です

認知症の周辺症状の一つに「徘徊(はいかい)」があります。徘徊とは、あてもなくうろうろと歩き回る行動のことです。事故やけがなど様々な危険を伴いますし、遠くまで外出して行方不明になってしまう方もいます。

今の日本で、認知症が原因で行方不明になったと警察に届け出があった人の数は、年間1万人以上と発表されています。警察が把握していない例を含めると、認知症の方の徘徊はもっと多いでしょうから、大きな社会問題と考えるべきです。

なぜ認知症による徘徊が起こるのか、徘徊を防ぐにはどうしたらいいのかなど、一緒に考えてみましょう。
 

認知症の徘徊はなぜ起こる? 徘徊には「目的」がある

実は私は、認知症の方の行動を「徘徊」と呼ぶのは、あまりふさわしくないと思っています。なぜなら、一般的な「徘徊」は「目的もなくうろつく」ことをさしていますが、認知症の方は「何か目的があって」動き回っているからです。

認知症における徘徊の成り立ちについて、ちゃんと目的と理由があって起きているということを知っておくことは非常に重要です。なぜなら、起きる理由がわかれば、適切な対策をとりやすくなるからです。
 

徘徊の原因となる、認知症による不安・多動・見当識障害・記憶障害

「徘徊」の背景には、「不安」、「多動」、「見当識障害」、「記憶障害」などがあり、それらが複雑に関わり合っていると考えられます。とても多くのパターンがあります。

たとえば、「不安」を解消しようとして体を動かそうとする反応として、「多動」が生じます。じっとしていられませんから、家の中にいても何かをしようとして動き始めるわけですが、「記憶障害」があると、自分が何をしようとして行動したのかその目的さえわからなくなります。また、「見当識障害」があると、家の中の部屋でさえ迷い、結果的にただうろうろと歩き回っているような状態になってしまいます。

「見当識障害」と「記憶障害」があるために、今自分がいる場所が自宅ではないと思ってしまって、「早く家に帰らない」と言って、家から出てしまう方もいます。

自分はまだ若くて仕事をしていると勘違いして、仕事に行こうとして外に出てしまう方もいます。そして、外出先で道に迷うとともに、もちろん仕事先は見つからず、さらには探している途中でそもそも何を探していたのかさえ分からなくなり、ただただ歩き続けることになります。

さらに悪いことに、昼と夜の区別がつかないうえ、疲れるという感覚も鈍くなっていることも珍しくありません。身体的に問題が無ければ一切休もうとせず、一晩中かけて歩き続け、想像以上に遠くまで行ってしまう方もいます。
 

アルツハイマー、レビー……認知症の原因疾患による徘徊傾向の違い

認知症の原因疾患は実にたくさんあり、成り立ちが違います。そのため、原因疾患によって分類される認知症では、それぞれ特徴的なパターンの徘徊が認められます。

脳神経変性疾患のアルツハイマー病を原因疾患とする「アルツハイマー型認知症」の場合は、記憶障害と見当識障害が先行して生じますので、道に迷いやすくなります。また、その際の焦りと不安が症状を増悪させます。

レビー小体病を原因疾患とする「レビー小体型認知症」の場合は、幻視が生じるため、実際には存在しない人影を追いかけて、そのまま徘徊してしまうことがあります。

脳卒中後の後遺症として生じる「脳血管性認知症」では、特に夜間に軽い一過性の意識混濁、つまり「夜間せん妄」が生じ、それに付随した妄想や見当識障害によって、夜中の徘徊が起こりやすいようです。

大脳新皮質の前頭葉と側頭葉の変性が著しい「前頭側頭型認知症」の場合は、精神の安定を求めるために同じ行動を繰り返す(常同行動)という特徴があります。この特徴が「決まった時間になると家の中を決まったコースで歩く」「大雪でも散歩に出かける」のように「歩き回る」と受け取られる行動にでれば、徘徊の一種とみなされます。同じ行動を繰り返すので、日ごろの行動パターンを把握していれば、ある程度予測可能です。
 

認知症による徘徊への対策法は? やめさせることは可能か

徘徊を繰り返す認知症患者のご家族の中には、外出しないように家のカギを厳重にかけるなどの対策をとる方もいらっしゃるようです。しかしこの対策法は一時しのぎに過ぎず、根本的な解決にはなっていません。

記憶障害や見当識障害などの認知症の中核症状は、脳の器質的障害によって生じているので、進行を食い止めることは困難ですが、徘徊は、あくまで「周辺症状」であり、すべての認知症患者にみられるわけではありません。また、同じ人でも、起こるときと起きないときがあります。つまり、環境や精神状態の影響を受けて、徘徊が起きているということです。

徘徊の背景には「見当識障害」や「記憶障害」がありますが、実際のところは、認知症がどれくらい進行しているかよりも、環境の変化や、周囲の方との関りで生じる不安な気持ちの方が影響が大きいのです。

つまり、無理やりやめさせようとするよりも、ご本人が不安やストレスを感じている要因は何かを検討し、それを解消すべく環境を見直したり、話し方を変えたりするだけでも、徘徊は減ると思われます。
 

認知症による徘徊への具体的な対応法・徘徊を見つけたらすべきこと

まずは、怒らないことです。目を離したすきに外出しようとされた場合、「勝手に出かけちゃダメじゃない!」などと注意したくなりますが、残念ながら、認知症の状態では、ご本人が言われたことを理解して反省し、言動を改めることは難しくなりますから、いくら注意しても意味がありません。それどころか、厳しく叱責されると、嫌な気持ちだけが残ります。中には、叱られた経験がもとで、その場所から逃げようとして、逆に徘徊に及ぶ方もいます。

ですので、怒るのではなく、どうして歩き回るのかたずねてみて、話してくれたらしっかり聞いてあげましょう。いろいろ会話しているうちに、ヒントが得られることがあります。本人の気持ちが分かれば、その原因を取り除いてあげることができるでしょう。理由が分からなかったとしても、自分に共感してくれる人の存在が確認できると、不安が和らぎ、状況が好転する可能性は高いでしょう。

また、散歩や体操など、日中に適度な運動ができれば、体内時計が整い、夜よく眠れるようになりますから、深夜の徘徊を防ぐことにつながります。

本人にやれることを仕事として分担してもらうのもいいでしょう。住んでいるところで決まった仕事を任せられると「自分の居場所はここなんだ」と認めることができ、「家に帰る」などということはなくなると思われます。

患者さんによっては、「デイサービス」を利用することが解決の糸口になることもあるようです。「迎えに来てもらって、出かける」という体験が、自宅を自分の居場所だと認める助けにもなりますし、規則正しい生活リズムをつくるのにも役立ちます。

徘徊が起こる理由は人それぞれです。徘徊という行動だけに目を向けるのではなく、徘徊につながっているご本人の気持ちを理解できるよう、丁寧に対応するように努めましょう。
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