認知症

アルツハイマー病でも使える人はわずか?新薬『レカネマブ』が使用できないケース

【認知症研究者・薬学部教授が解説】アルツハイマー病の新薬として正式承認された『レカネマブ』。しかしアルツハイマー病でもこの新薬を使える人はごくわずかと考えられています。その理由と、投与に必要なアミロイドPET検査とは何かを解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

認知症症状の疑い

アルツハイマー病による認知症が疑われても、誰でも新薬が使えるわけではありません(※画像はイメージ)


2023年9月25日に、認知症を引き起こす主な病気として知られる「アルツハイマー病」の新しい治療薬として「レカネマブ」が正式に承認されました。今後いくつかの手続きを経て、年内にも日本国内のアルツハイマー病の患者さんへの使用が可能になると期待されています(詳しくは「ついに正式承認されたレカネマブは「アルツハイマー病」治療の突破口となるか」をお読みください)。
 

レカネマブが投与できない3つの主なケース

できるだけ多くのアルツハイマー病の患者さんがレカネマブの恩恵を受けられるといいと思いますが、現在国内でおよそ80万人と推定されているアルツハイマー病患者さんのうち、レカネマブを使うことができるのはごく一部と言われています。主に以下の3つの理由があるためです。


1. 浮腫や脳出血のリスクがある場合は使えない
まず第一に、レカネマブには副作用もあります。具体的には、治験段階でレカネマブの投与を受けた方の脳を画像検査したところ、13%に脳浮腫が、17%に脳出血がみられたと報告されています。ですので、もともと浮腫や脳出血を生じる恐れのある方などには使えません。

2. すでにアルツハイマー病が進行している場合は使えない
第二に、アルツハイマー病が既に進行している方には使えません。レカネマブは、アルツハイマー病を引き起こすきっかけとなる「アミロイドβタンパク(Aβ)」と呼ばれる物質の悪影響を阻止することが期待される抗体医薬品なので、Aβがすでに作用して脳の萎縮が進んでしまってから投与しても遅いのです。たとえるなら、火事が起きて家が燃え落ちてしまった後に、火事の原因となったタバコの火を消しても無意味なのと同じです。

3. Aβの蓄積がある程度あると確認できない場合は使えない
第三に、アルツハイマー病は必ずしも単一の疾患とは限らず、患者さんごとに病態は幾分異なっています。一般には、Aβが脳に蓄積して悪さをすると発症すると考えられていますが、Aβの蓄積する程度と認知症症状には必ずしも相関がありません。認知症が起きているのにAβの蓄積があまり見られない方もいますし、認知症が起きる前からAβの蓄積が生じている方もいます。レカネマブは、Aβに対する抗体ですので、Aβの蓄積がある程度生じていることが確認された方でないと使う意味がありません。

これらのことを考慮するため、レカネマブを使用する前にはいろいろな検査が行われて、適した患者さんだけが投与されることになります。そして、その検査の一つが「アミロイドPET検査」です。
 

アミロイドPET検査とは……脳にどれくらいAβが蓄積しているかを調べる画像検査

PETは、Positron Emission Tomographyの略で、日本語では「陽電子放出断層撮像法」と言います。特定の放射性物質(トレーサー)を吸入または静脈内注射によって体に入れて、しばらくした後に、測定装置で体内に分布した放射能を測定して、コンピュータで画像化することで、体内で起きていることを手術をしなくても知ることができる方法です(詳しくは「SPECT、PETとは…血流変化もわかる脳画像検査法・そのメリット・デメリット」をお読みください)。放射性物質を体に入れなければならないと聞くと怖い感じがしますが、使用される放射性のトレーサーは、体内で速やかに分解されるので、健康被害の心配はほとんどないと言われています。

そして「アミロイドPET検査」の場合、とくにAβに結合する特性をもったトレーサーを注射することで、脳内にどれくらいAβが蓄積しているかを画像検査できるというわけです。

そのためにはそうした試薬が必要になりますが、実は、レカネマブが正式認可される前に、アミロイドPET検査に使うトレーサーが認可されました。具体的には、2023年8月31日に、「ビザミル静注」 (日本メジフィジックス、成分名:フルテメタモル(18F))と「アミヴィッド静注」 (PDRファーマ、成分名:フロルベタピル(18F))という2品目が認められています。レカネマブの承認を前提に、アミロイドPET検査に必要な薬も承認されたのです。

これで、新しいアルツハイマー病の治療が始まる準備が整ったように思えますが、残念ながらこのアミロイドPET検査が行える病院が、国内ではまだ限られています。今後増えていくことを期待します。
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