脳科学・脳の健康

SPECT、PETとは…血流変化もわかる脳画像検査法・そのメリット・デメリット

【脳科学者が解説】SPECTやPETなどの診断技術によって、私たちは脳の神経細胞の活動度」まで知ることができます。CTやMRIなどの画像検査で、脳の形や腫瘍の有無などを見ることができても、脳の健康状態までは分かりません。がんや脳梗塞、アルツハイマー病などの早期診断にも役立つ、SPECT、PETの特徴、メリット・デメリットを分かりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

SPECTやPETで分かる! CTやMRIでは分からない「脳の機能的変化」

脳画像検査技術・SPECT・PET

脳の健康状態やはたらきを知るためには、ただ脳の形が分かるだけでは不十分です。SPECTやPETによる画像検査が脳画像検査技術が役立ちます

「体を傷つけないで、体の中がどうなっているのか診断できるようにしたい。」そんな医師たちの願いを叶えるべく、今ではCTやMRIが開発され、病気の診断が大きく進歩しました。しかし、CTやMRIは、体の中の様子を知ることができると言っても、基本的には組織の形態を観察できるだけです。たとえば、脳の中で海馬が委縮しているとか、血管に動脈瘤ができているなどは分かります。しかし、脳の機能を担う神経細胞の活動度を知ることはできません。

そうした「脳の機能的変化」を知る技術が、SPECTやPETです。いずれも体内に注入した放射性同位体から発する放射線を体外の種々の方向から計測し、コンピューターによる画像再構成を行って、人体の断層面での分布をみることができます。

たとえば、CTやMRIでがんが見つかったとしても、形だけのがん細胞の抜け殻が残っているのか、活動中のがん細胞が集まっているのかは区別できません。しかし、放射線を出すように設計されたグルコース(ブドウ糖)の類似化合物であるフルオロデオキシグルコース(18F-FDG)を注射してからその分布を調べれば、活発に増殖しているがん細胞だけを突き止めることができます。脳組織に応用すれば、神経細胞が活発に働いているかどうかを間接的に知ることもできます。

今回は、近年目覚ましい進歩をとげている脳画像検査技術のうち、CTやMRIでは知ることのできない情報を提供してくれるSPECTとPETに焦点をあて、その測定原理と特徴について解説します。
 

放射性同位体とは? 医学的にも重要な放射線の種類

SPECTとPETは、どちらも放射線を利用した測定法なので、その原理を理解するためには、少し専門的になりますが、放射線に関するいくつかの基本事項を把握しておく必要があります。

放射性同位体(radioisotope、RI)とは、ある元素が持つ同位体のうち、原子核が不安定であるために、原子核が崩壊して何らかの放射線を放出する同位体のことです。たとえば、原子番号6の炭素は、地球上に存在している98.9%が1つの原子核中に中性子を6個もったものですが、ごくわずかに中性子を7個または8個持ったものも存在します。それらは少し質量が重いですが、あくまで同じ炭素原子ですから、「同位体」と呼びます。このうち、陽子6個と中性子8個(合計した質量数は14)から成る炭素の同位体(14Cと表記される)は、不安定で、存在しても壊れてしまうので、自然界で見つかる確率は非常に低いです。そして、壊れるときに放射線を出す性質があるので、炭素の「放射性同位体」とみなされます。

放射性同位体が壊れるときに放出する放射線には、いくつか異なる性質のものがあることが分かり、α線、β線、γ線などと名付けられました。α線は、放射線の中で最も重く、他の放射線に比べると物を突き抜ける力は弱く、薄い紙一枚で止まります。しかし、重い分、衝突した部分には強く作用します。α線の実体は、陽子2個と中性子2個からなるヘリウム原子核が高速で飛び出したものです。もし、みなさんの目の前に、α線を出す放射性物質があったとしても、α線が外から体内に入ってくることはないので、怖がることはありません。逆にそういう物質を誤って食べるなどして体内に入ってしまうと、体内に蓄積(内部被ばく)するので、体に大きなダメージが生じます。

β線は、α線よりもかなり軽くて、よく飛びます。空気中では空気中で数十センチから数メートル飛びますが、物質に及ぼす作用は小さいです。透過力は大きく、紙は突き抜けますが、アルミニウムなどの薄い金属板は通り抜けられません。β線の実体は、電子です。

γ線は、電磁波の一種とみなすことができ、非常に遠くまで飛び、薄い紙や金属などほとんどの物質中を通り抜けます。止めるには、分厚い鉛や鉄の板が必要です。その実体は、光を粒子と考えるときの最小単位「光子(フォトン)」です。

もう一つの放射線が、レントゲンが発見したことでよく知られている「X線」ですが、基本的にγ線とX線の性質は似ているので、同じように扱われることが多いです。ただ区別するとすれば、両者は発生源が異なり、原子核内から放出されたのがγ線、原子核の外にある電子から放出されたのがX線です。どちらも物質を透過しやすい性質があるので、医学用途に使用されているというわけです。
 

SPECTとは……脳の血流を可視化! 脳血流分布がわかる画像診断

SPECTは、Single Photon Emission Computed Tomographyの略で、日本語では「単光子放出断層撮像法」と言います。

その名の通り、一本のγ線(=単光子)を放出する放射性同位体を含んだ薬剤(トレーサー)を静脈内注射して、しばらくした後に、測定装置(γ線カメラ)を体の周り360度(あるいは180度)回転させながら放射能の分布を測定し、得られたデータをコンピューターで画像化します。

目的に応じてトレーサーは何を用いてもいいのですが、脳の血流を可視化するためには、ヨウ素の放射性同位体を含んだ「塩酸N-イソプロピル-4-ヨードアンフェタミン(123I)」やテクネチウムの放射性同位体を含んだ「エキサメタジムテクネチウム(99mTc)」がよく用いられています。市販品があるので、実施施設ではそれらを購入して使うことになります。

これらの薬剤は、投与してから脳組織に移行した後、およそ5~8%が脳に集積し、その脳内分布は局所脳血流量に比例するため、測定された放射能のデータから脳血流分布のイメージが得られるというわけです。
 

SPECTの長所と短所……放射性物質の心配はほぼないが、検査時間は長め

SPECTの長所は、CTやMRIでは分からない体内の機能変化をとらえられることです。頭部SPECTでは、本来あるべき脳血流が減っている場所がわかります。あまり定量性はないので、たとえば「5%脳血流が増えた」などという評価まではできません。脳血流が減っているということは、血液の流れが悪くなっているわけですから、そこに脳梗塞があるか、神経細胞があまり活動していないことが推定できます。

放射性物質を体内に注入しますが、原則として安全なものが使用され、数時間で体外に排出されるので、健康被害の心配はほとんどありません。

短所は、検査に時間がかかることでしょう。通常少なくとも20分はかかり、測定中はじっとしていないといけません。また分解能が低く、いまのところ測定できるのは脳血流だけです。

CTやMRIに比べると設置施設はまだ少ないですが、わが国では市販のトレーサーが安定して入手できるので、広く普及しつつあります。しかし解像度が低く判別が難しいため、未熟な医師ではデータをしっかり読み取れず、診断に活かしきれていない場合もあるようです。
                  

PETとは……脳血流以外も測定できる「陽電子放出断層撮像法」

PETは、Positron Emission Tomographyの略で、日本語では「陽電子放出断層撮像法」と言います。

SPECTと同じように、トレーサーを吸入または静脈内注射によって体に入れて、しばらくした後に、測定装置で体内に分布した放射能を測定して、コンピュータで画像化します。脳血流以外のものについても検査を行うことができます。SPECTと違う点は、陽電子(ポジトロン)を放出する放射性同位体(11C、13N、15O、18F)を含んだ薬をトレーサーとして使う点です。ただし、測定されるのは、陽電子そのものではなく、SPECTと同じγ線になります。その原理は次の通りです。

陽電子とは、正の電荷をもつ素粒子(電子の反粒子)で、放射性同位体が崩壊するときに放出されます。体内に分布したトレーサーから放出された陽電子は、周囲にある電子と出会うと消滅し、このとき180度の方向に2本のγ線が出ます。したがって、体の周りを取り囲むようにγ線の検出器を並べ、2か所で同時にγ線を検出したときには、その直線上にトレーサーがあることが分かるというわけです。
 

PETの長所と短所……SPECTよりも分解能が高いが、国内施設はごく少数

PETの最大の長所は、様々な機能変化をとらえられることでしょう。陽電子を放出する様々な種類の放射性同位体を含むトレーサーが用意できさえすれば、脳血流だけでなく、酸素消費、糖代謝、薬物受容体分布なども調べられます。また、SPECTより分解能が高いと評価されています。

短所は、使用するトレーサーを目的に応じて自分の施設で作らなければならないことでしょう。
PETで用いられる陽電子を放出する放射性同位体は、半減期(半分が壊れてしまうまでの時間)が2~110 分と短いため、検査の直前にサイクロトロンという大型の加速器を使って施設内で作り、薬剤にくっつけたらすぐに使わなければなりません。このサイクロトロンがけっこう高価ですし、扱える技術者も多くはありませんから、設置できる施設が自ずと限られてきます。このため、今の日本でも一部の施設でしか行えないのが実態です。

なお、使用される放射性のトレーサーは、体内で速やかに分解されるので、健康被害の心配はほとんどありません。
 

頭部SPECTやPETの応用……がん・脳梗塞・アルツハイマー病診断への活用も

上述したように、組織や細胞の形態だけではなく活動度も推定できるので、頭部SPECTやPETはがんの診断には有力な武器となってきました。とくに、がん細胞だけが取り込むトレーサーを使って、術後にがんが転移していないかを全身レベルで調べるのに使われたりしています。

頭部SPECTやPETは、脳梗塞などの脳血管障害だけではなく、認知症の原因となるアルツハイマー病などの研究にも利用されています。

アルツハイマー病の場合、初期でCTやMRIの検査を行っても異常が見つからないことが多いです。進行して海馬の萎縮が認められたときには、アルツハイマー病と確定診断するのに役立ちますが、治療面から考えるとその段階では手遅れです。早期画像診断には、SPECTやPETのような機能変化をとらえられる方法が有用です。とくにアルツハイマー病では、脳血流の低下よりも脳代謝の低下が顕著なので、ブドウ糖PETが適しています。CTやMRIでは同じように見える脳萎縮でも、SPECTやPETだとその機能変化に違いのあることがわかることもあります。

残念ながら、CTやMRIに比べると、SPECTやPETはまだ十分に普及していません。アルツハイマー病などの早期診断のためにも、保険適用の見直しなどを含めて、できるだけ多くの方が気軽に行えるようになることを願います。
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