飲酒・アルコール

お酒で冷え対策は逆効果!アルコールに体を温める効果はない?

【大学教授が解説】冷え対策のお酒や、冬の熱燗で体を温めるのは、実は逆効果です。極寒の地でウイスキーやウォッカなどの強いアルコールを飲んで助かる、というのは、あくまでもフィクションなのです。お酒で体温は上がるのか、体が温まった感じがしたり、顔が赤くなったりするのはなぜなのか、わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

お酒で体は温まる? 冷える? 飲酒と体温の意外な関係

冬の屋外でホットワインを飲む女性

お酒を飲むと体がポカポカすると、アルコールに体を温める効果があると思っていませんか? 実は逆効果です


寒い冬の日に、熱燗を飲むのを楽しみにしている方もいらっしゃることでしょう。ほどよく温めたお酒を飲めば、体がポカポカと温まる感じがしますね。
 
また、暑い夏にキンキンに冷えたビールをグイっと飲むのも格別です。のどの渇きが癒されて、体がスッと冷え、暑さが吹き飛ぶ感じがします。しかししばらくすると体が温まってきて、冷たいビールがさらに進む、なんてこともありますね。
 
お酒を飲むと、体は温まるのでしょうか。それとも、冷えるのでしょうか。飲酒と体温のおもしろい関係について、ご紹介します。
 

お酒で体温は何度上がる? エタノールの分解による熱と体温

まず、熱燗や冷たいビールを飲んだ直後に、体が温かくなった、冷えたと感じるのは、単にお酒の温度がそのまま伝わっているだけで、効果は一時的なものです。問題はその後です。
 
一般に、私たちが食べたり飲んだりしたものは、胃や腸で消化され、栄養分が吸収されます。吸収された栄養分が体の中で代謝されるとき、その化学反応に伴って、熱が発生します。とくにタンパク質を摂取した場合には、肝臓におけるアミノ酸の代謝に伴って熱がたくさん発生します。
 
飲酒時にも同じことが起こります。お酒に含まれるエタノールは、胃や腸から吸収された後、肝臓で代謝されます。エタノールが肝臓で分解されるときには熱が発生するので、体の中が温かくなります。
 
では、お酒を飲むと、どれくらい体温が上がるのでしょうか? 興味のある方は、お酒を飲む前と飲んでいる最中に、体温計を使ってはかってみてください。意外なことに、体温はほとんど変わりません。私たちの体には、体温を36~37度程度に保つ仕組みが備わっているからです。
 

お酒を飲むと顔や手足が赤くなるのは、実際に体が温まるからではない?

お酒によって体の中で熱が発生すると、脳の視床下部にある体温調節中枢が「熱い」と判断し、熱を体の外へ逃がそうとする体の反応を引き起こします。詳しくは「視床下部の役割は?自律神経系、内分泌系を調節する重要な機能」をご覧ください。

例えば、皮膚の血管を拡張させて、体表面にたくさんの血液を流し、熱を体表面から外気へ逃がそうとします。また、皮膚からたくさんの汗を出し、汗の蒸発によって体表面から熱を失わせようとします。
 
お酒を飲んで体が温まったように感じるとき、顔や手足が少し赤みを帯びるのは、このためです。顔や手足の皮膚近くの血管が拡張すると、血管の中を流れる赤い血液の色が透けて見えるようになります。そのために皮膚が赤みを帯びて見えるのです。
 
ちなみに、本論から少しそれますが、お酒を飲んだときに顔や手足が赤くなるのには、もう一つ理由があります。エタノールが肝臓で分解されてできるアセトアルデヒドに血管を拡張させる作用があるからです。詳しくは「お酒に強くなる方法はあるのか?強い人と弱い人の違い」をご参照ください。

お酒に強い人は、アセトアルデヒドができてもすぐに酢酸まで分解できるのでその影響は少ないですが、体質的にお酒に弱い人は体内にアセトアルデヒドが溜まりやすく、この血管拡張作用によって顔や手足が真っ赤になってしまうのです。
 

「アルコールで冷え対策」はあり? 寒さしのぎの飲酒は逆効果!

「お酒を飲むと体が温まる」というイメージがあるため、映画やドラマでは、極寒地で寒さしのぎのためにお酒を飲むシーンが登場することがあります。しかし、これは大きな誤解です。寒いところでお酒をたくさん飲むと、かえって体が冷えてしまうので、危険です。
 
通常私たちが寒さにさらされた場合、脳の体温調節中枢は体温を維持するため皮膚の血管を収縮させ、体から外気へ熱が逃げないようにします。血管が収縮した状態では、血管の中を流れる赤い血の色は見えません。寒いときに顔や手足が白くなるのはこのためです。
 
ところが、お酒をたくさん飲むと、皮膚の血管が拡張するため、体温調節中枢が皮膚の血管を収縮するように指令を出しても、血管は拡張したままで、体から外気へ熱がどんどん逃げてしまいます。外気にさらされた皮膚だけでなく、急速に体の芯まで冷やされてしまいます。

さらにお酒をどんどん飲み続けると、そのうち脳が麻痺されてきます。体温調節中枢まで麻痺してしまうと、体温が維持できなくなり、体は冷える一方です。場合によっては、生命が脅かされるほど危険なので、寒さしのぎのつもりでお酒をのむのは止めるべきです。猛吹雪の極寒地でウォッカやウイスキーなどのアルコール度数の強いお酒を飲んで助かるといった映画やドラマのシーンは、あくまでもフィクションですので、真似しないでください。

日常でも、寒い季節にお酒を飲むときは注意が必要です。お酒を飲むと体温調節がききにくくなりますから、温まったと感じても、しっかり服を着て防寒することが健康のためには大切です。
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