お酒で言動が変わるのはなぜ? 脳に作用するアルコール

アルコールの脳への影響

飲酒後に心や行動に様々な変化が現れるのは、アルコール(エタノール)が脳に作用するためです

私たちは普段、空気の存在を意識しません。しかしいざ高い山に登ったりして息苦しくなると、普段吸っている空気のありがたみを感じます。子どものころは親のありがたみが分かりませんが、大学生になって一人暮らしを始めたり、自分が結婚して子どもをもつと、急に親の気持ちが分かるようになります。

同じように、私たちは健康なときは、体について考えることは少ないものです。しかし、いざ病気になってしまうと、自分の体はどうなっているのだろう、どうして病気になるのだろう、どうすれば治せるのだろうと、その仕組みを知りたくなります。脳に関しても同じです。「なぜか頭がボーっとする」「不安でよく眠れない」「物忘れがひどくなった」などの不調を感じると、頭の中の仕組みや、脳の働きに関心がわくのではないでしょうか。

しかしわざわざ病気にならなくても、脳の仕組みを学ぶことは可能です。身近なよい教材の一つが「お酒」です。お酒はほとんどの大人が飲んだことがあるでしょう。自分で酔うほど飲んだ経験がない人でも、お酒を飲んだ人がどのように変わるかは見聞きしたことがあるはずです。実は、お酒を飲んだ時に現れる心や行動の変化の多くは、お酒に含まれるアルコール(エタノール)が脳に作用した結果です。つまり、どうしてそのような変化が起きるのかを探ることで、私たちの脳が普段何をしているのかが見えてくるというわけです。

お酒に関する情報は、銘柄紹介や文化の解説、飲み過ぎによる肝臓への害などが多く見られますが、ここでは「お酒と脳の関係」に焦点を絞ります。お酒を飲んだ時に現れる心や体の変化がなぜ起きるのかを考えることによって脳の仕組みを学んでいただきます。そのために、多くの方が体験したり見聞きしたことがあると思われる、お酒にまつわる数々の話題を通して、私たちの脳の中身を覗き見てもらいたいと思います。
 

ビール、ワイン、テキーラ……種類によっても異なるエタノール含量

まず基本事項として、お酒には何が含まれているのかを確認してみましょう。お酒というと日本酒をさすこともありますが、ここではアルコール飲料すべてをさすことにします。

アルコール飲料のうち、日本酒は米、ビールは麦、ワインはブドウを原料として作られます。これらの原料は共通して糖分を豊富に含んでおり、水と酵母(微生物の一種)を加えて発酵させることによって糖からアルコールが生まれます。したがって、お酒の大部分は水です。おいしいお酒を作るには、水選びが重要と言われます。天然水に含まれるミネラル分の違いが発酵の進み方やお酒の味を左右するという説もあり、「銘醸地に名水あり」「名水ありて銘酒あり」といった格言もあります。

そしてもちろんお酒にはアルコールが入っています。工業用に使われるアルコールにはメタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコールなどがありますが、これらは毒性が強いので飲んではいけません。お酒に入っているアルコールは、エタノール(エチルアルコールとも言う)です。エタノールは、比較的毒性が弱いので、適度に飲んで楽しむことができるのです。

ちなみに酵母には、ブドウ糖や果糖からエタノールを作り出す力があるので、果汁に酵母を加えれば発酵が進みますが、主にデンプンを含む米や麦に酵母だけを加えても発酵は進みません。そのため日本酒やビールを作るには、デンプンをブドウ糖に分解する力のある麴(こうじ)や麦芽酵素が利用されます。

エタノールの含量はお酒の種類によって違います。ビールは4~5%、ワインは10~20%、日本酒は14~16%のエタノールを含んでいます。さらに、発酵によってできたエタノールを蒸発させてからもう一度冷やして回収する「蒸留」という技術により、エタノール含量の高い蒸留酒が作られます。焼酎、ウィスキー、ブランデー、ジン、ウォッカ、テキーラなどの蒸留酒には30~70%ものエタノールが含まれています。もちろん飲む量にもよりますが、エタノール含量の多さによって、脳への作用は強くなります。
 

お酒は複雑な化合物……微妙な味や香りの違いを生む成分

私たちの味覚は、舌だけで受容される感覚であり、塩味、酸味、甘味、苦味の4種類があります。加えて、「辛い」や「旨い」といった感覚も知られています。ちなみに、「辛い」という感覚は、「痛み」の一種であり、味覚ではありません。唐辛子の主成分であるカプサイシンが知覚神経を刺激したときにその感覚が生じるのですが、舌だけではなく、体の他の場所に唐辛子がつくとヒリヒリしますから、味覚ではないということです。「旨味」の元は、昆布などの主成分であるグルタミン酸ですが、諸外国の人にはこの旨味が分かりにくいとされ、国際的な議論の中で、旨味はなかなか認めてもらえていないという事情もあります。

お酒の主成分であるエタノールはどちらかというと「辛い」という感覚を与えますが、お酒を飲んだときには、ほんのり甘味があったり、苦味があったりします。これはエタノール以外に色々な成分が少し入っているからです。

甘味の元としては、お酒の原料となる米や麦、ブドウなどに由来する糖分や、甘味アミノ酸のフェニルアラニンなどが含まれています。酸味の元としては、コハク酸、乳酸、リンゴ酸などが含まれています。苦味の元としては、チロソールという化合物や苦味アミノ酸のロイシン、トリプトファンなどが含まれています。ビール独特の苦味は、原料であるホップに由来するアルファー酸と呼ばれる化合物の味です。旨味の元としては、コハク酸や、旨味アミノ酸のグルタミン酸やアスパラギン酸などが含まれています。

それぞれの種類のお酒には、これ以外にもたくさんの化合物が混じり合って、独特な味と香りを醸し出しています。お酒の好きな人たちは、こうした化合物の配合によって生じる微妙な味や香りの違いを楽しんでいるのです。
 

お酒には脳が入っている? 先人の知恵から作られたアルコール飲料

最後にもうひとつ、脳科学者の視点で見ると、お酒にはとても大切なものが入っています。それはずばり「脳」です。「えっ、そんな馬鹿な! お酒に脳みそが混じっているなんて話聞いたことがないぞ」と思われたことでしょう。

お酒の歴史は単純なものではありません。私たち人間は、長い歴史の中で、米、麦、イモ、ブドウなどの食物が特別な環境条件におかれると発酵することを見つけました。しかもそれを研究し、発酵の仕組みを解き明かし、飲料として利用するようになりました。発酵物の中から要らない物を取り除いたり、複数の発酵物を混ぜて新しい味をつくりだす技術も開発し、よりおいしい飲料へと改良しました。また、お酒を使って生活を楽しむ文化も生み出しました。これはすべて私たち人間の脳が成し遂げたことです。

今私たちが飲み、脳に作用するお酒には、人間の脳が生み出した「知恵」がたっぷり入っているのです。今夜お酒を飲むときに、「これには脳の産物がいっぱい詰まっているのだな」と思いながら飲むと、格別な味がするかもしれませんよ。

これから皆さんが体験したことがあるお酒にまつわる様々なエピソードを交えながら、お酒と脳の関係を解き明かしていきます。
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