運動と健康

激しい運動で風邪をひきやすくなる?運動と免疫力の関係

【アスレティックトレーナーが解説】運動のし過ぎで風邪を引いてしまった経験はありませんか? 運動は生活習慣病予防や肥満予防にも有効ですが、負荷が高すぎる激しい運動によって免疫力が低下し、風邪をひきやすくなるという研究報告があります。適切な運動強度と運動量の設定法、疲労回復とのバランスについて解説します。

西村 典子

執筆者:西村 典子

アスレティックトレーナー / 運動と健康ガイド

激しい運動は健康に悪い? 免疫力低下で感染症リスクが高まることも

運動習慣と免疫力・風邪の関係

運動習慣がある人は健康的に見えるもの。一方で運動のし過ぎが免疫力を低下させることもあります

日頃から運動習慣のある人は体が丈夫で、健康的なイメージを持たれがちです。ところが適度な運動強度を超えて激しく体を動かすことが続いたり、運動不足の人がいきなりハードなトレーニングを始めたりすると、体力的な疲労が蓄積し、体の免疫力が低下して風邪などの感染症にかかりやすいと言われています。

アスリートレベルでの運動を行う人、レクリエーションレベルでの運動を行う人、在宅などで座っている時間の長い運動不足傾向の人について、5ヶ月間追跡したある研究では、上気道疾患の発生率を調べたところ、アスリートレベルで運動を行う人が運動不足傾向の人よりも感染症の発生率が高かったと述べています※1。また免疫力の指標として唾液などに含まれるSIgA(分泌型免疫グロブリンA)という物質は激しい運動によって低下することが示されています※2。

特に気温が低くなる寒い時期は空気が乾燥しやすく、感染症を引き起こすウイルスが活発に活動しやすい時期とも重なります。体の免疫力が保たれていれば、たとえウイルスなどの病原体が体内に侵入したとしても、感染・発症のリスクはある程度抑えられますが、免疫力の低下した状態では感染症にかかりやすくなることが懸念されます。
 

免疫力低下をセルフチェック! 兆候を知る3項目

運動によるメリットは枚挙に暇ありません。例えば運動を行うと筋線維が一時的に傷つきますが、傷ついた筋線維は修復されることで以前よりも太く強くなるというメカニズムがあります。これによって全身の血流が促され、体の状態がより良い状態に保たれる傾向にあります。しかし運動後は一時的に体力が低下し、回復にはある程度の時間がかかります。

免疫力の指標となるSIgAを実際に測定することは難しいですが、体のコンディションを示す兆候を知っておくと感染症への備えにつながります。免疫低下のサインとされているものを3つ紹介します。
 
  1. 休養をとった後のコンディションはよいか。疲労感が軽減されているか
  2. 寝つきや寝起きは良いか。質の良い睡眠がとれているか
  3. 口の中が乾く、唾液が粘つくといった口渇感はないか

以上の3項目で引っかかるものがある場合は休養を優先させ、体力的な回復をはかることが大切です。
 

健康な体づくりは「運動・休養・栄養」のバランスが大切

運動後、数日間にわたって筋肉痛が残ることがあるように、体の状態もまた運動によって一時的にダメージを受けている状態といえます。運動は健康増進に役立ちますが、体力的な疲労から回復する休養時間をとることもまた大切です。さらには疲労回復を促すバランスの良い食事も必要となってきます。運動不足だからといって張り切って体力レベルを越えたハードな運動を行うと免疫力の低下を招くことがあります。

運動は体力レベルにあったものから始め、少しハードな運動を行った後は十分な休養・栄養をとるように心がけましょう。あわせて体の免疫力を下げないように生活習慣を見直すこと、手洗いや消毒、うがいといった一般的な感染症対策を行うことが、感染症への備えにつながることも覚えておきましょう。

■参考
※1)Luke Spence, Wendy J. Brown, David B. Pyne. Incidence, etiology, and symptomatology of upper respiratory illness in elite athletes. Medicine and Science in Sports and Exercise.39:577-586.2007
※2)清水 和弘.免疫力-SIgA が免疫力の大きな鍵を握っている. National Strength and Conditioning Association Japan.26:18-23.2019

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