公立の小中学校にも「習熟度別授業」が浸透してきました。しかし実はこの習熟度別授業には、学術的に効果があるという研究もあれば、そうでないという研究もあります。「習熟度別授業を導入すれば、差の問題は解決する」というほど話は単純ではないようです。そこで問題の解決のヒントとなるのが「個別最適な学び」という発想です。

文科省の令和3年の答申では、目指すべき新しい時代の学校教育の姿として「全ての子どもたちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」が提言されています。習熟度別授業とは違う「個別最適な学び」とはいったい何なのでしょうか。
 

なぜ公立小中学校で「習熟度別授業」がうまくいかないのか?

公立小・中学校でも「習熟度別授業」のようなものはあるが……

公立小中学校でも「習熟度別授業」のようなものはあるが……

公立の小中学校でも、子どもの習熟度に応じて適切な指導を行ってほしいという声があります。いわゆる「できる子」と「できない子」との習熟度の差は、子どもや保護者の悩みの種となっているからです。

なぜこれまで個に応じた指導、つまり「個別最適な学び」が実現しなかったのでしょうか。ひとつに日本では、できる子とできない子に分けて授業をすることが、いらぬ劣等感につながるからという危惧があるためです。欧米では、習熟度に応じて最適な授業を受ける方がむしろ公平という考え方もあります。しかし日本の学校には「同じ学年で同じ内容の授業を受けることが平等」という考えが根強く、少々ハードルが高いといわざるを得ないという状況なのです。

もちろん、現在では公立の小中学校にも習熟度別授業があります。いわゆる少人数授業を組み合わせ、「うさぎさんコース(基礎+発展)」と「かめさんコース(基礎のみ)」に分けて授業を行う方法です。東京都の例では、単元テスト(レディネステスト)等を活用しながらも、生徒の理解度や技能等の習熟度、そして、生活習慣や学習意欲、生活指導上の課題等までも十分に考慮してコース分けを行っています。単純にテストの点数によってコースを分けているわけではないのです。

もちろんこのような配慮は必要ですが、「何を判断基準にコース分けを行っているのか」がかえってわかりづらいという側面もあります。さらにこれらのコースを“どの先生”が受け持つのかということが必ず問題になります。残念ながら現実問題として、教え方のうまい先生もいればそうでない先生もいます。このため、教え方がうまい先生が「うさぎさんコース」を受け持つ場合、基礎学力が十分ではない子でもそちらのコースを希望する子が多くなってしまいます。もちろん、逆のケースも考えられます。
 
つまり「うさぎか、かめか」という授業の進め方でコースを選ぶのではなく、「担当の先生がだれか」で選ぶことになってしまうのです。このようなことも習熟度別授業が必ずしもうまくいかない原因のひとつとなっているのです。
 

習熟度別授業に代わる「個別最適な学び」とは?

では、習熟度に関係なくみんなが一律に同じ授業を受け、同じ課題に取り組めばよいのでしょうか。答えは、明らかに「ノー」です。

学習に関する研究では、正答率が8~9割くらいの課題が最も学習意欲が高まるとされています。しかしあくまでも平均の正答率のため、子どもによって最適な課題は異なります。そこで重要になってくるのが「個別最適な学び」という視点です。
 
個別最適な学びとは、習熟度に応じて、学習者が最も適切な種類や難易度の課題に取り組むという考え方です。子どもがそれぞれに最適な課題に取り組むという方法もあれば、授業そのものはみんな同じように受けるが習熟度に応じて取り組む課題を変えるといった様々な形態が考えられます。

例えば、算数の授業で一つの例題をみんなで解いた後、「わかった」という子はより複雑な課題に取り組みます。一方で例題だけでは「わからなかった」という子は、例題と似た問題にさらに取り組みます。こうして授業の中で「みんながわかる」ということを達成可能にします。
 
また、英語の授業で「What 〇〇 do you like?(どんな〇〇が好きですか)」という新しい表現を学んだとします。授業の中で多くの子がそのような表現をわかったとしても、いまいちwhatやwhoなど疑問詞の違いがわからないという子もいれば、そもそも疑問文の作り方がわからないという子もいます。このような場合、疑問詞や疑問文から復習する子(これまでに学んだ単元にさかのぼって取り組む子)もいれば、〇〇にあたる表現がほかにないか考える子(発展的な課題に取り組む子)がいてもいいはずです。
 

個別最適な学びを可能にする、AIの普及 

そして今それを可能にするのが、AIやタブレットといった「ICT(情報通信技術)」の活用です。実際、一部の学校や学習塾、通信教育では、AIを搭載したタブレット学習が取り入れられています。これは学習者の習熟度に応じて出題する問題の難易度を変える学習法です。

例えば、小学4年生が算数の「わり算のひっ算」を学ぶとき、ひっ算の手順がよくわからない子には、AIはその手順が身につくような課題を中心に出題してくれます。またそもそも商が立てられないとか、途中の計算を間違えてしまう子には、九九や基本的な計算問題を出題してくれるのです。漢字が得意な子には教科書では習っていない熟語を出題したり、苦手な子には前の学年にさかのぼって出題したりといった、個別最適なドリル学習も可能です。

このようにAIが学習者の習熟度、つまずきに応じて出題内容を変えてくれるのです。
 
さらにこうしたAIの特長は、学習者の習熟度を判断して個別最適な課題を提供できるだけではありません。出題された問題はすぐに採点もしてくれるため、学習者へのフィードバックが可能です。

また、どの子がどんな問題を解けたか解けなかったりしたかといったデータも蓄積されるため、教師や親などの指導者がデータをその後の指導に活かせる点もメリットの一つです。
 

個別最適な学びは「協働的な学び」も実現する

AIの普及による「個別最適な学び」は「協働的な学び」も実現する

AIの普及による「個別最適な学び」は「協働的な学び」も実現する

今後はこのような個別最適な学びによって、子どもがつまずいて学習に遅れが生じるという心配は少なくなるでしょう。そして、ここで紹介した個別最適な学びとは、いわゆる個別指導のように個々に丁寧に指導することにとどまりません。

従来の学習観では、子どもは教師によって教えてもらう「受動的な学習者」という存在でした。しかし、個別最適な学びが浸透することにより、学習者自身がその内容を選択して決定するという主体性が尊重されるようになります。つまり子どもは「能動的な学習者」という存在になるのです。このような学習観に立つことで、学習者同士が教えたり教えてもらったり、さらにお互いの学習活動から学んだり、学習者の個性を活かしながら協働的に学んだりといった活動がますます重要になってきます。いわゆる学び合い、つまり「協働的な学び」です。
 
これからの学校は、学びの主体である子どもが自らにとって最適な学習とは何かを判断しながら、自律的(自立的)に進められるように支援することが求められます。それはつまり、子どもたちが学び方を身につけることにより、主体的に学習するようになることを意味しているのです。

【参考情報】

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