知らずに恨みを買うこともあれば、時代と共に価値観が変わり失言トラブルになってしまうケースは誰にでもある

知らずに恨みを買うこともあれば、時代と共に価値観が変わり失言トラブルになってしまうケースは誰にでもある

気づかずに恨みを買っていることもあれば、価値観の変化に伴い、過去のうっかり発言・行為が、今になってトラブルになってしまうこともあります。

最近では、大学時代の恨みを原因に傷害事件が発生したことも記憶に新しいでしょう。また東京五輪でも、過去のハラスメント行為が明るみになり関係者が辞任したり、金メダリストへの問題行為が発覚した政治家が炎上、それに対する丁寧とは言えない謝罪でさらに炎上するなど、さまざまな問題が起こりました。

過去の失言・過失はなぜ許されにくいのか。謝罪したいときの注意点や、許したいのに気持ちが収まらない人への対処法をご紹介します。
 

許した方が幸せなのに!? 過去の失言が許されにくい3つの理由

皆さんには、許せない相手や出来事というのはあるでしょうか。なんとなく体感でわかっていると思いますが、許すことは精神的な健康だけでなく、身体的な健康のためにも良いことです(Baskin& Enright, 2004)。なのに、なぜ私たちは、過去にこだわって「許せない」と思ってしまうのでしょうか。

許せない理由(1)損をしたくないという感情
許すということは、被害を受けたのに、それを回復させたり補償を求めたりといった権利を放棄することともいえます。被害をうけた損失の状態を維持したくないという感情は、許すのを難しくします(Kearns & Fincham, 2004)。

許せない理由(2)また被害に遭ってしまう可能性が高まるから
許すことでナメられてしまうと、同じ人からまた被害を受ける可能性だけでなく、その姿を見た別の人からも同様の被害を受ける可能性も高くなります。抑止の意味でも、被害の回復や厳罰を望み続けてしまう気持ちは、皆さんも想像できるのではないでしょうか。

許せない理由(3)責任の所在を誤解されるのではという恐れ
許すことで「相手の責任なのに、自分にも責任があったように思われてしまう」ことも起こり得ます。周囲の目を気にする人の場合、寛容な対応にとどめそうに思いますが、周りにどう思われるかを考えるからこそ「責任の所在を誤解されるようなことはしたくない」という気持ちになる人もいるのです。

ご紹介した3つの理由の共通点は、根底に本人も気づいていない恐れがあることだと思います。謝罪する側はこれらを緩和するような伝え方を心掛ける必要があるでしょう。

しかし、謝罪はうまくいかないことも多いと思います。その理由の一つに、加害者側が過失を全面的に認めるのが難しいということが挙げられます。
 

加害者が過失を認めにくい理由とは

10年ほど前のことになりますが、加害者側の研究のためにさまざまな文献にあたっていたことがあります。そのときに気づいたのは、加害者が全面的に過失を認めることは難しく、むしろ稀ともいえるのではないかということでした。手記などでは、不快な思いをさせられたことを理由に、加害者が被害者を批難するケースも珍しくありませんでした。

加害者にとって謝罪は、無意識のうちに弁解や正当化が頭に浮かんできやすい状況。考えを改めずに、自己防衛に走ってしまう人もいるでしょう。

そもそもコミュニケーションとは相互作用が大きいものですので、「自分は悪いかもしれないが、相手にも非がある」と考える人もいると思います。なかには共感性に乏しく、自己愛が強いために、自分の非を認めにくい性格特性の人もいます。いずれにしても、過失を認めるというのは簡単なものではないと思った方が良さそうです。

そんな中で自分がやってしまったことに気づくというのは、素晴らしいことだと思います。先ほど、許すのが難しい理由をご紹介しましたが、謝罪には許す感情を促進する効果があります。勇気を出して、謝罪の気持ちを伝えてみましょう。
 

許すことの難しさは「謝罪」で緩和される 

謝罪は「許すことの難しさ」を緩和する

謝罪は「許すことの難しさ」を緩和する

許すことの難しさは、加害者側からの「関係を修復するための働きかけ」により緩和されます。謝罪は、加害者からの働きかけの一つです。謝るときのポイントについてはこちらの記事で詳しくご紹介していますので参考にされてください。

被害者が許すのが難しい3つの理由をふまえて、
  1. 被害の回復
  2. 再発の防止
  3. 責任の所在の明確化
を意識しながら、気持ちを言語化していくのも重要です。

最近はネット上で「自分が考える正義」を振りかざす人たちも多く、彼らの意見を「世論」だと考える人たちもいます。「叩かれる」という状況を避けたいと思うのは当然ですが、どう謝罪しても全員を納得させることは難しいと考えたほうがいいかもしれません。

個人的には、当事者でない人にまで謝罪するというのは、コミュニケーションの歪みも出やすく、事態をよりややこしくする一因でもあると考えています。まずは被害者の方に謝罪の気持ちを伝えることに注力し、知る権利を主張される方向けには、その後、発表を行うという順番をお勧めしています。

【参考記事】
謝罪の言葉・謝り方……ビジネスで使える謝罪の仕方とNG例文集
 

許したいと思ったときの3つの対処法

許るのは難しいが許したいと思う人もいる

許すのは難しいが、許したいと思う人もいる

繰り返しになりますが、許すことは被害を受けた方のメンタルの健康のためにも、身体の健康のためにも有用です。許したいと考える人は、どのようにすれば「許しの難しさ」から解放されやすくなるのでしょうか。筆者がお勧めするのは以下の3点です。

(1)結果的な問題解決に目を向ける
相手からの謝罪や補償が十分でなくても、結果的に問題が解決しているのであればそちらに意識を向けてみましょう。「許せない」と思い続けているときよりも、少し心が軽くなると思います。

(2)「よくあることだ」と一般化してみる
自分がされたことは「特別ひどいこと」のように感じがちです。善悪は一旦横に置いて、あえて「よくあることかもしれない」と考えてみることで、気持ちが楽になる人もいます。実際に似たようなことをされている人、もっと大変な被害に遭ってしまった人を思い浮かべてみるのもよいでしょう。

(3)相手の苦しみを想像してみる
決していい方法だとは思いませんが、加害者の苦しむ様子を確認することで許しに至るケースもあります。世の中には後悔や反省をしないタイプの人もいますが、過去を悔い改めたいと考えるタイプの人もいます。想像力を働かせることで心身が軽くなるのなら、やってみるのもおおいに結構だと思います。
 
さまざまな価値観のある人間が一緒にいる以上、トラブルが起きてしまうこともあると思います。誰もが被害者になる可能性もあれば、加害者になってしまう可能性もあります。なかには許すべきでない出来事というのもあると思うのですが……。人は間違いを犯す生き物です。多くの人ができるだけ寛容に、心の健康を保てることを願ってやみません。

【参考文献】
・Baskin, T. W. & Enright, R. D. (2004). Intervention studies on forgiveness: A meta‐analysis. Journal of Counseling & Development, 82 (1), 79-90.
・Kearns, J. N., & Fincham, F. D. (2004). A prototype analysis of forgiveness. Personality and Social Psychology Bulletin, 30(7), 838-855.
 

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