人気企業の採用で、経験や実績以上に考慮されていること
実績や経歴以上に相性が大事
職場でも、相性のいい上司や部下、同僚はいるし、そうでもない相手もいるだろう。自分と似たタイプの人と相性がいいと考える人もいるし、逆に自分とは全く異なる特徴を持つ人に魅力を感じて積極的に交流することが多い人もいる。このように、本来相性とは個人的なものである。
では企業にとって、会社と相性のいい社員とはどういう意味を持つのだろうか。一言でいえば組織文化に合う社員ということであるが、採用の現場では、それを採用される本人だけでなく、面接官が評価をすることがある。社員一人ひとりの性格や個性とは別に、企業には、長い年月をかけてつくられた組織文化がある。同じ業界であっても組織文化が全く異なることも少なくない。
例えば、常に新しい提案をしなければ評価されない組織文化をもつ会社もあれば、新しいことを始めるにはいろいろな承認を重ねて取らなければならず、どちらかといえば変化が少ない保守的な組織文化をもつ会社もあることだろう。後者の会社は職場環境が安定しているともいえるし、急な変化や競争を煽られるような雰囲気が社内にはないということでもある。
職場にいるほとんどの同僚が中途採用組である会社と比較して、生え抜き社員(新卒で入社以来、その会社1社しか知らない社員)中心に構成された会社では、組織文化は大きく異なるかもしれない。どちらが自分にとって心地いいか、その感じ方には個人差があるだろうが、採用の時点で面接官も同様の判断をしていることがある。
もちろん、相性のいい社員ばかりでは様々な観点でイノベーションが起きにくいから、あえて多様な経歴の人材を集めている会社もある。しかし、多くの既存の社員と相性がいい社員を採用することを好み、その結果、似たような経歴を持つ、いわゆる同僚間で価値観を共有しやすいタイプを中心に中途採用をしている会社は多いのである。
つまり、中途採用の現場では、会社は自社の組織文化にあう社員を採用したいと考えるものであり、その方が会社と入社する本人の双方にとってプラスであるとみなしているのだ。こうした判断には合理的な面も多く、比較的似た特徴を持つ協調性の高い社員が集まることで、会社のビジョンに対して意思が統一しやすくもなる。あえて負の側面をあげるとすれば、社員間で同調圧力が強まる可能性はあるかもしれない。
人気企業には、通常の企業よりも多くの応募者が集まる。経験や実績、そして能力の面でのマッチングが高い応募者の数には限界はあっても、本人の考え方や性格などでは、面接官から見て、会社の組織風土との相性がいいと思える応募者はある程度いるに違いない。
だからこそ応募条件が多少満たされていなくても、企業にとって、同僚として一緒に働きやすいと思う人物であれば、採用するための検討を進めることは実際にあるものだ。応募条件を超えた経験と実績があり、能力が高いが、組織文化との相性に懸念があった人物を採用した結果、その採用が失敗に終わった経験は、人気企業であっても過去に持っているものである。人気企業だからこそ、応募者が勝手にいいイメージを持って応募してくることも多く、そうした応募者の中には組織文化との相性が良くない人も含まれてくる。
このようなミスマッチが起きやすい背景があることから、人気企業の採用では、新規で採用する候補者が自社の組織文化と相性が合うかどうか、思いのほか重視しているのである。
先行きが不透明な時代にあり、事業のグローバル化が進む中、多様な人材を採用することを目指す企業は多いが、長年蓄積した組織文化との相性を考慮しない採用には難しさがあり、企業のスローガンと現実の中途採用の成果に大きな隔たりがあるということは珍しくない。
個人が転職をする際、事前に持っていた会社に対する印象が、面接官の応対ひとつで覆された経験を持つ人は少なくないことだろう。面接官一人が会社を代表するわけではないが、各企業には異なる組織文化があることは意識した上で、転職活動をする際は複数の面接官との出会いの中で、自分にとって良い職場となりそうかどうか、慎重に判断をすることが大切である。
人気企業には確かに応募者が殺到しているが、求められる経験と実績、能力は、他の一般企業とさほど差があるわけではない。むしろ組織文化との相性がより強く求められていることから、募集要件に多少満たない場合でも、それだけで諦めることなく応募してみるといいだろう。