中学受験を終えた子の「燃え尽き症候群」

受験して入った中学で成績が落ち、その後長らく浮き上がって来られない生徒は「深海魚」と表現される

受験して入った中学で成績が落ち、その後長らく浮き上がって来られない生徒は「深海魚」と表現される

ひと昔前に流行った「燃え尽き症候群」という言葉の意味を調べると、「ある目的に対して献身的に努力した人が、目的を達せられなかった際に徒労感や無力感に苛まれること。 あるいは、たとえ目標を達成したとしてもそのあとに生じる虚脱感を指す場合にも用いられる」とあります。

中学受験においては“後者のパターン”に燃え尽き症候群という言葉を用いるケースが多いように感じます。なぜそうした現象が起こってしまうのでしょうか。
 
中学受験の受験年齢は11歳から12歳、人の成長という観点からいうと「まだまだ子ども」という年齢でしょう。その子どもに一日4時間も5時間も受験勉強をさせるわけです。夏期講習や冬期講習など学校がお休みの期間には、12時間近く勉強する子もいます。これはあくまでも一日の勉強時間であって、講習の延べ勉強時間ではありません。中学受験をしたことのない人たちからすると、正気の沙汰とは思えませんね。でもそのくらいやっている子はやっているのです。すさまじい世界です。
 
それだけの時間を中学受験にかけていて、もし第一志望に合格できなければどうなってしまうでしょう。心が壊れてしまうでしょうか。案外そうはなりません。私の塾でも卒業生を対象に、毎年「中1英数準備講座」を開講していますが、第一志望に合格した子もダメだった子も、明るく元気にその講座に通ってくれます。全く平気というわけではありません。合格発表の日には泣いて過ごすことが多いですが、2~3日もするとケロッと立ち直って学校に行ったりします。何カ月も落ち込んでしまうのは、ごく一部の子と保護者だけです。
 

危ないのは、生活に慣れて学習内容も難しくなる「魔の第二学年」 

1年生のときの緊張感や新鮮な気持ちの中だるし、学習内容が難しくなる「魔の第二学年」

1年生のときの緊張感や新鮮な気持ちが中だるみし、学習内容も難しくなる「魔の第二学年」

こんなふうに聞くと、ならば燃え尽き症候群は中学受験には無関係なのでしょうか。実はこの現象が色濃く出てくる危険な時期というのがあります。それが中学2年生です。私たち教育者達はこれを「魔の第二学年」と呼んでいます。

1年生のうちは新しくスタートした私立中学での生活に心が弾みます。5月頃からは部活動もスタートしさらにやる気に満ち満ちてきます。しかも中学1年生の学習内容はとても簡単なため、学習にも余裕があります。燃え尽き症候群などとは無縁の生活です。

しかし中学2年生になりますと、私立での生活にも段々慣れてきます。あんなにウキウキした電車通学や最寄駅からの徒歩もマンネリ化してきます。さらに学習内容もどんどん難しくなってくる。特に私立中学の場合には、高校2年生までに通常カリキュラムの高3までの範囲を終わらせるため、カリキュラム進度が公立中学よりもずいぶん速いのです。そのため中2でおいていかれるケースが出てきます。

中だるみと相まって、モチベーションが下がりやすい、それが「魔の第二学年」です。
 

「深海魚」になる生徒は、ギリギリで入学するから落ちこぼれるのか?

中学2年生になってから成績が急落した生徒は、その後長らく浮き上がってこられない状態が続くことがあります。これを「深海魚」などと表現します。実にうまい表現ですね。ほぼ同じくらいの学力の子が入学してくるわけですから、一度深海魚になってしまうと、なかなか浮き上がってこられません。

私立中学の場合、高校まで基本的にはエスカレーターですから都合6年間同じ学校に通うわけです。また進学校の場合は学業成績がクラス内での発言力を決めるケースが多いため、深海魚の生徒はどんどん居場所を失っていくことになります。
 
ネットで「深海魚」と検索すると、いろんな塾の先生がこれについて論評しています。その多くが「実力以上の中学に無理して入学させるべきではない」とか「ギリギリで入学すると落ちこぼれる」といった論調になっています。しかし本当に深海魚になりやすい生徒は、その学校にギリギリでなんとか合格した生徒でしょうか。私はこの考え方に懐疑的です。
 
上の論調の多くは、「進学校(特にトップ校)のカリキュラム進度は速いので、付け焼き刃の受験勉強で入ってきた生徒はカリキュラムの進む速さについていけない」と主張しますが、カリキュラム進度が速いのは何もトップ校だけではありません。どこの私立であろうとも、私立中学に通うということは「高3までの範囲を高2までに終わらせる」のです。トップ校だから何か特別な教育が施されていると考えるのは大きな誤りです。深海魚になる原因は、実はほかのところにあるのです。
 

「余裕をもって合格した生徒」こそ要注意

ギリギリで合格した生徒は自分が「ギリギリ」と知っていますので、入学後はおくれを取らないように頑張ります。特に算数と数学は「数字を使う」という点ではよく似た科目に思われがちですが考え方が全く異なるため、算数が苦手であっても数学が得意になるということは実はよくあります。

むしろ算数がバリ得意で、中学受験も圧倒的な算数の力で合格したような生徒ほど、数学で苦労したりします。何を隠そう私もその一人でした。ですから、余裕をもって合格した生徒ほど「魔の第二学年」には注意が必要なのです。
 
また余裕をもって合格した生徒の中には、中学受験時に「あまり勉強しなかったのに合格できちゃった」生徒が一定数います。こういう生徒も要注意です。「オレは勉強しなくても何とかなっちゃうぜ」なんて甘く考えてますので、一気に置いていかれます。こういうタイプの生徒は基本あまり勉強しないので、どのレベルの私立中学に入っても落ちこぼれる危険性があります。

逆に付け焼刃だろうが何だろうが、目いっぱい努力をして合格した生徒は安心です。努力をすることをいとわないわけですし、何より「努力は裏切らない」ということを知っているわけですからね。
 

中学受験するなら、保護者はさまざまな可能性の覚悟を

中学受験後、わが子が「深海魚」になってしまう可能性だってある

中学受験後、わが子が「深海魚」になってしまう可能性だってある

そして最後にもうひとつ。私は「深海魚になってもいいじゃない」と考えます。「え!? そんなのダメでしょ?」と保護者の皆さんならそう思いますよね。高い学費払ってるんだからちゃんと勉強してよね、そう感じるのは当然のことでしょう。

しかし敢えて私は「私立に通学させるのだから、そのくらいのことは覚悟しなさい」と言いたいのです。
 
深海魚になった生徒が浮き上がってくるために必要なのは、ズバリ「時間」です。時間さえかければ必ず浮き上がってこられます。

私も中2でまさに「深海魚」となり長らく浮上できませんでした。しかし幸いなことに私は部活にいそしみ、また中3の夏休みに京都までの自転車旅行に出かけるなど青春を謳歌することができました。それもこれも私の両親が私の学業のことについては、あまりうるさく干渉してこなかったからです。何度か学校に呼び出されていたようで、本当はさぞやきもきしたことだろうとは思いますが、それでも口うるさくは言ってきませんでした。そうこうするうちに高1の時に習った「指数関数・対数関数」との相性が良かったため、一気に数学の成績を挽回できました。
 
周り、特に保護者の方に「ダメなやつだ」「ガッカリだ」などと言われると、どんなにポジティブな人間であっても気持ちは下がっていくでしょう。自分を愛せずにコンプレックスを抱くようになるでしょう。そうなったら浮き上がってくるのは難しい。でも中学受験の難関に打ち勝った力はあるわけですから、前向きに努力をすれば学力が上がらないはずはないんです。「僕は12歳が頂点だった」だなんて、絶対にありえないことです。
 
中学受験を目指すということは、保護者の皆さんが様々なことを覚悟することだと思うのです。受験勉強までの期間には「志望校を変更しなくてはいけなくなるかもしれない覚悟」「第一志望に合格できないかもしれない覚悟」もあったでしょう。そして受験が終わっても、「せっかく受かった学校をやめたいと言い出すかもしれない覚悟」「中学で深海魚になるかもしれない覚悟」など、様々な覚悟を決めて中学受験は臨むべきものだと思います。

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