出生前診断
広い意味での「出生前診断」は、妊娠中に胎児に異常がないかどうかを調べることを指します。一般の妊婦健診で行っている超音波検査も、胎児の発育や骨格・心臓などに異常がないかを見ているので、広い意味では出生前診断に当たります。また、超音波検査で行う出生前診断の方法として、11~12週頃に胎児の首の部分に肥厚がないかをみる方法があります。狭い意味での出生前診断は、高齢妊娠など染色体異常のリスクが高い妊娠において、妊娠の早い段階で先天的異常の有無を調べることを指します。これまでに行われてきた出生前診断の方法は、「トリプルマーカーテスト(またはクワトロマーカーテスト)」「羊水検査」「絨毛検査」です。いずれも妊婦側の希望があった場合のみに、任意で行う検査です。
新型出生前診断は、従来の出生前診断に加えて、最近可能になったもの
「新型出生前診断」はマスコミがつけた仮の名前であり、医学的に正確には「無侵襲的出生前遺伝学的検査(むしんしゅうてきしゅっせいぜんいでんがくてきけんさ,non-invasive prenatal genetic testing; NIPT)」、あるいは「母体血細胞フリー胎児遺伝子検査(ぼたいけつさいぼうふりーたいじいでんしけんさ,maternal blood cell-free fetal nucleic acid (cffNA) test)」と言います。
妊娠10週以降に血液検査で行います。採血を受けるだけなので、妊婦や胎児への負担やリスクが少なく、検査自体は簡単に受けられてしまいます。ただ、結果に異常があった場合は、診断を確定するために羊水検査や絨毛検査が必要となります。
新型出生前診断で分かること、分からないこと
新型出生前診断で分かるのは、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーのみであり、そのほかの染色体異常の有無は分かりません。陽性的中率、つまり検査で「異常があります」という結果であった場合に、実際に異常がある割合は75~95%なので、結果に異常が出たから必ず異常があると確定できるものではありません。陰性的中率は99.9%なので、結果に異常がなければ、上記3つの染色体異常はほぼないと言うことができます。
検査の対象となるのは、35歳以上の高齢妊娠・本人または夫が染色体異常保因者・染色体異常がある子どもを産んだことがある人などの条件に当てはまる場合です。妊娠した人全員に行う『スクリーニング検査』とは全く異なるものです。
この検査を受けるにあたって注意すべきなのは、検査ですべての異常が分かるわけではないということです。先天異常の赤ちゃんは、100人に3~5人程度の頻度で生まれてきます。染色体異常症は新生児のおよそ0.6%に確認されると言われています。新生児の染色体異常症のうち、ダウン症候群、18トリソミー、13トリソミーが占める割合は3分の2程度ですから、この検査で分かる異常は先天異常のごく一部なのです。
検査を受けて「異常なし」という結果であっても、「先天的な異常がない赤ちゃんが生まれてくる」ということとイコールではないということを理解しておく必要があります。
「異常があった場合」について説明を受け、夫婦で話し合ってから検査を
新型出生前診断の前にはしっかりと説明を受け、夫婦で話しいましょう
最近は、郵送検査でこの検査を受け付けたり、事前のカウンセリングなしで検査だけを行っているクリニックもありますが、十分なバックアップ体制がない病院で検査を受けることはお勧めできません。
また、高齢妊娠を心配して、家族が「検査を受けた方がいいのではないか?」と促すようなケースも散見されます。検査の結果が思わしくなかった場合に、心身の負担を抱えることになるのは妊娠したご本人です。検査を受けるかどうか、そしてその結果をどう受け止めるかは、妊婦本人とそのパートナーだけが決めることであり、周りが「検査を受けた方がいいのでは?」と促したり、検査の結果を聞いて出した結論に対して意見を言ったりすることは絶対に控えるべきことだと認識する必要があります。
検査を受けるかどうかは、まず遺伝カウンセリングを受けてからじっくり検討することをお勧めします。検査自体は負担の少ないものですが、けっして「気軽に」受けるものではないということを理解しておきましょう。
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