女性配偶者の呼び方、現在のスタンダードは「妻」
配偶者の呼び方、現在のスタンダードは「妻」。「嫁」「家内」は、パートナーにも周囲にもよい印象を与えないかも?
そしてこちらが、「妻」の別の呼び方の一例です。
- 嫁・嫁さん …… 息子の妻
- 奥さん …… 他人の妻
- 家内 …… 家の中(で暮らす人)
- かみさん …… 主に商人や職人などの妻・山の神様
- 女房 …… 朝廷に仕える女官・妻(中世以後)
- ママ・お母さん …… 母親
けれど、これらの呼称のルーツや本来の意味まで含めて考えると、誤用であったり、引っ掛かりを感じさせたりするものもありますから、地域性の高いものを除き、使う場面はかなり限定されるはずです。
ここからは、国語教員・図書館司書を経て、現在は作文を始めとするライティングや情報リテラシー教育のアドバイザーとして活動する高橋真生が、女性配偶者の呼称についてより詳しく解説していきます。
「妻」以外の呼称を、あえて使うときに注意すべきこと
正式な呼称である「妻」ですが、堅苦しく取り澄ましたイメージを持つ人もいることから、「嫁」や「奥さん」など別の呼び方を求められる場面もあるようです。
誤った表現ではありませんし、聞く側の慣れもありますから、そのまま「妻」を使ってよいのですが、あえて別の呼称に置き換えるのであれば、注意したいポイントが2つあります。
1つめは、複数人の会話。その場にいるほとんどの人が「嫁」「家内」と言っているとしても、全員がその呼び方を許容できるとは限りません。特に、さまざまな立場の人が集まっているなら、カジュアルな場面であっても、「妻」を用いるのが適切です。
2つめは、配偶者本人が嫌がっている呼び方をしない、ということ。
テレビなどの影響で多用されがちな「嫁」、閉塞感と優劣を感じさせる「家内」など、ある呼称に心理的な抵抗がある女性は少なくありません。
また、「かみさん」は女性神である山の神からきているとも言われているため、大切にしている印象があるかもしれませんが、口うるささや嫉妬心を揶揄する言い方でもあるので、こちらも嫌がる人はいます。
「妻」がなじまないというのはある程度リラックスした場面でしょうから、「妻の〇〇(名前)」(2回目以降は〇〇)など、名前で呼ぶ方がスマートかもしれませんね。
日本で、相手の気持ちや雰囲気を察して話すことを求められることが多いのは、確かです。けれど、その「思いやり」を、多数に合わせるためではなく、不快な思いをしている人や戸惑いを感じる人に向けてみてはいかがでしょうか。
今話している相手の配偶者を何と呼ぶか
目の前にいる人の配偶者については、目上の人なら「奥さま」、友人なら「奥さん」と呼ぶのがオーソドックスでしょう。「奥さん」は「他人の妻」という意味です(ですから、自分の配偶者を「奥さん」と表現するのは誤りです)。
「奥」には屋敷の奥の方という意味もあり、公家や大名の正妻など、普段は奥にいてめったに顔を合わせない、身分の高い人を指していました。女主人に対して使用人が使うことばでもありましたが、今はさほど気にする必要はありません。
「奥」に、家庭に閉じ込められているというイメージを持つ人もいますので、問題がないとは言い難いのですが、今のところ、他に適切なことばはないかと思います。
もちろんご本人が、「パートナー」など、フラットな意味合いが強い呼び方をしている場合は、「パートナーの方」と相手に準じるのがよいでしょう。人によっては「〇〇さん」とファーストネームで呼ぶ方がいいこともあります。
また、「〇〇さんのお宅では」「〇〇さんのご家族は」など、あえて「妻」に該当することばを使わない方法もあります。
ニュートラルな「パートナー」、これからの呼び方はどうなる?
配偶者の呼称というのは、時代や文化に影響を受けるため、そもそも揺れのあることばです。近年でも、家族関係や価値観の変化に応じて変わりつつありますが、正式な「妻」という呼称であっても、今の多様な家族のあり方を受け止めることができていない、というのが実情です。ですから、それらの形に配慮した、別の呼称が必要であることは明らかでしょう。
たとえば「パートナー」は、今は非日常的で主張の強いことばに聞こえてしまうかもしれませんが、婚姻関係や相手の性別に左右されませんし、外国人と日本語でやりとりする場合にも使いやすいので、今後主流となる可能性があります。
時代や文化に影響を受ける配偶者の呼称、これからの新常識は「パートナー」?
自分の配偶者をどう呼ぶか、それは、「ことばだけの小さな問題」「なんとなく使っているだけで、深い意味はない」という方も多いのかもしれません。確かに、大切なのは、相手を尊重する気持ちです。
けれど、ことばには考え方やライフスタイルが反映されるものですし、そこに抵抗を感じている人がいるのは、知っておきたいことです。社会の変化に応じて、より実態に合うよう、ことばも見直していく必要があるのではないでしょうか。
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