DVの本質は「力と支配」

母と息子

息子を素敵な男性に育てるためのコツは「母親が溺愛しない」ことかもしれません。

自分の息子が将来パートナーに暴力を振るうなんて、多くのママは想像したことがないかもしれません。やさしくてちょっと臆病なあの子が、しっかり者で頑張り屋さんのあの子が、暴力を振るうなんてあり得ない。まして恋人や妻になんて。しかし、DV加害者の母親は口をそろえて言うのです。「まさか、あの子が」。
 
DVには殴る蹴るといった「身体的DV」だけではなく、暴言やモラハラなどの「精神的DV」、無理やり性行為を強要したり、避妊しないなどの「性的DV」、生活費を渡さない、借金を負わせる、レシートを細かくチェックするなどの「経済的DV」、行動を監視する、友人や実家とのつきあいを制限するなどの「社会的DV」などがあります。
 
DVの本質は「力」の差を利用して、相手を思い通りに「支配・コントロール」することです。育っている家庭に暴力がなくても、子どもたちは成長の過程で、学校や地域社会、メディアなどから暴力の構造を学び、それがDV加害につながっていきます。

母親は、息子が最初に出会う最も身近な女性です。息子をDV加害者にしないために、母親は何ができるでしょうか。どんなことに気をつけて育てていけばいいのでしょうか。DV加害者の常套句を元に考えます。
 

1、不機嫌な息子の機嫌を取らない

DVに限らず、すべての暴力は加害者の責任ですが、DV加害者は、「お前が俺を怒らせた」と、自分の暴力を正当化します。また、自分が怒っている理由を説明せず、突然不機嫌になったり、「胸に手を当てて考えろ」と、相手が正しく察することを要求することも珍しくありません。
 
不機嫌さをアピールして相手が自分の顔色をうかがうよう仕向けるのは、泣くことで全てのマイナス感情を訴える赤ちゃんのようです。「お腹が空いたのかな?」「おむつが濡れているのかな?」「眠いのかな?」と、お世話してもらっていた頃と同じようなやり方で、パートナーに自分のケアを要求するのは、大人としてはあまりに情けない態度です。
 
赤ちゃんの頃から面倒を見ている親には、子どもの機嫌の悪さの理由はなんとなく想像がつくこともあります。しかし、感情のコントロールは自分の責任です。相手に不満や怒りがあるなら、それを言葉にして伝えるトレーニングが必要です。
 
子どもの顔色を見て、先回りしてケアをし続けていると、子どものコミュニケーション能力は育ちません。小さい頃から「何に怒っているのか、話してごらん?」と、モヤモヤやイライラを言葉にするよう働きかけることを習慣にしましょう。言葉にできると、怒りはコントロール可能なものになります。「男は口下手な人が多い」といわれますが、単にトレーニングされていないだけです。
 

2、息子に尽くしすぎない

「女のくせに○○もできない(しない)」とパートナーをおとしめたり、「だから躾けてやっているんだ」などと、家事能力などが自分の要求レベルに達しないことを責め、暴力の正当化に使うDV加害者は少なくありません。
 
「女ならこれくらいできて当然」というのは、ほとんどの場合、自分の母親が基準になっています。ですから、家事や育児に参加するよう妻に求められると「母ちゃんはこれくらい当たり前にやって(くれて)いたのに」と、自分がないがしろにされているように感じて、被害感を募らせるのです。
 
「妻や恋人にも、暴力は振るうとまずい」ということが周知されてきたため、体に傷をつける直接的な暴力は減少してきました。一方で、正座させたまま、立たせたまま、あるいは寝かせずに「何時間も説教する」といったDVの相談が多くなってきています。これらは精神的DVであると同時に身体的DVでもあるのですが、加害者のほうが「妻に〇〇してもらえない、自分こそが被害者だ」と感じていることが特徴です。
 
息子に尽くすと親子の愛情は深まるかもしれません。しかし、女性への期待値が上がって、将来パートナーとの関係を築きにくくなります。年齢に応じて自分の身の回りのことは自分でさせましょう。「母親だから」「女だから」と家事を頑張り過ぎるのは、息子のためになりません。
 

3、男だからと優遇しない

DV加害者は、「男は女より偉い」「男である自分には特権がある」とナチュラルに思い込んでいます。
 
男女の賃金格差を見ないふりして「誰に食わせてもらってると思ってるんだ」と威張ってみたり、「家事を完璧にするなら働いてもいい」と勝手な条件をつけてみたり、「口答えするな」と反論を封じて自分の意見を無理やり通そうとしたりします。
 
世界経済フォーラムが毎年発表している、経済・教育・保健・政治分野の男女平等度を表す「ジェンダーギャップ指数2020」で、日本は153カ国中121位でした。政治と経済の部分が低く、先進国で最下位です。
 
男女が不平等な社会は「男性が下駄を履かせてもらっている社会」といえます。女子の合格率を抑えるために得点操作をした医学部不正入試問題は象徴的ですが、子どもたちの生活の中にも男女の不平等は根強く入り込んでいます。学校行事で男子が先に入場したり、男子が先の名簿順などから、子どもたちは「男が優先されるのは当然」と考えるようになっていきます。ですから、そこに「なぜだろうね?」「変じゃない?」と疑問を挟み、考える機会を持つことが大切です。
 
子どもにとって、家庭は最も身近な「社会」ですから、「男だから」という理由だけで優遇される家庭では、「ちいさな王様」が育ってしまいます。また、優秀な姉や妹と比べ「あなたは男の子なのに」と嘆いたり、息子だけに厳しく接したりすると、女性に対する敵意が生まれてしまいかねません。家庭の中を、性別に関わりなく、お互いの個性を認め合い、尊重し合う「社会」にしていくことが大切です。
 

4、男だからと暴力を見逃さない

「男の子はやんちゃだから」とか「男の子はバカだから」といった言葉を子育て中のママたちからよく聞きます。活動的な男の子を育てる大変さに共感し、ねぎらい合う場面で使われることが多く、せめてネタにしなければやってられない、という気持ちもあるのでしょう。
 
しかし、子どもは親のことをよく見ています。自分の乱暴な行いや衝動的な行動が「男とはそういうもの」と容認されている空気を読み取っています。
 
かつて、男性の政治家が「集団レイプする人はまだ元気があるからいい」という発言をして問題になりました。政治家としても人としてもありえない暴言ですが、女性を軽く見る価値観も、暴力を容認・推奨する態度も、「男だから」と暴力を大目に見てもらってきた体験がなければ出てこないでしょう。
 
「男なんだから、やられたらやり返せ」というのもよく聞きます。暴力を振るわれたら、同じように暴力で返すことを大人が奨励しているのです。しかし、暴力は人権侵害です。殴られたら腹が立つのは当然ですが、暴力ではない解決方法を一緒に考えることが、周りの大人の役割ではないでしょうか。
 
「男の子だから仕方がない」と考えてしまう時は、子育てに相当疲れているのかもしれません。息子のエネルギーに対抗できないから、あきらめようとしているのかもしれません。そんな時は、周りの人に「助けて」と言ってみませんか。身近に頼れる人がいなければ、お住いの市区町村の子育て支援課に相談しましょう。市役所などの総合窓口で「子どものことで相談したい」と言えば、担当の部署に案内してもらえます。
 

5、母親自身が、生き生きと幸せな人生を送る

「黙って俺について来い」と言う男性は一見頼もしく見えます。しかし、妻に何も相談せず意見も聞かず、家族の生活に関わる大きな決断を自分ひとりでするというのは、家族に「運命共同体」になることを強いているのと同じです。事前に何も知らされず、突然、転職やリストラの事後報告をされたり、膨れ上がった借金があることを手に負えなくなって初めて知らされたりすると、家族は困惑します。これらは「精神的DV」や「経済的DV」に当たります。
 
こうした事態の背景には、夫婦間の圧倒的な上下関係があります。父親に従属させられている母親を見て育つと、息子は母親を、ひいては女性を軽く扱うようになります。また、自分が「家長」になった時に、全てを背負い込んで、家族を従わせなければならないと思ってしまいます。

 
DV相談プラス

DVに悩んだら……

母親が息子の「女性観」に影響を与えることは多いようです。ですから、母親が幸せであること、生き生きと自分の人生を歩んでいることが大切です。息子に「一目置かれる」母親であることが、将来息子がパートナーを大切にし、より良い関係を作る基礎を作っていくのではないでしょうか。

夫がこわくて、自分らしい生き方ができていないと感じる時は、DVの専門相談にアクセスしてみましょう。あなたの人生は、あなたのものです。



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※乳幼児の発育には個人差があります。記事内容は全ての乳幼児への有効性を保証するものではありません。気になる徴候が見られる場合は、自己判断せず、必ず医療機関に相談してください。