テレワークによって増えた「座りっぱなし」の時間
テレワークで在宅勤務となり、座った状態が長時間続くことも
シドニー大学の研究(2011)※1によると、調査対象20カ国・地域の平均的な座位時間は300分/日であったのに対して、日本は420分/日と2時間も長く、最も座っている時間の長い国・地域の一つであると指摘されています。ただでさえ座ることの多い日本の生活習慣に加えて、テレワークによる在宅勤務が可能となると、その時間は大幅に増えていると考えられるでしょう。
「座りっぱなし」で増大する健康リスク
「座りっぱなし」は健康に悪影響を及ぼすことが示唆されている
一度椅子などにお尻をつけて座ってしまうと、臀部や大腿部は圧迫され、下肢の血流速度は急激に低下します。時間とともに血液循環は滞り、血液そのものが粘性を持つようになります(いわゆる血液ドロドロの状態)。この状態が長く続くと血管が詰まりやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞、肺塞栓症(エコノミークラス症候群)などを引き起こすリスクが高まります。世界保健機構(WHO)は「座りすぎは心疾患や糖尿病、肥満、高血圧、大腸がん、乳がんなどの病気を誘発し、世界で年間200万人の死因になっている」と公表しています※3。
また「座りっぱなし」の時間が長くなると生活習慣病のリスクが高まるだけではなく、体にもさまざまな変化が見られるようになります。
《動かないことによるもの》
- 下肢の機能が低下する
- 股関節が硬くなる
- 体重増加
- 腰痛、膝痛 など
- 頸部痛、手首痛
- 肩周辺部や胸部の柔軟性低下
- 呼吸効率の低下
- ブレインフォグ(頭にモヤがかかったような状態)
- 足を組むことなどによる下肢長の左右差 など
「座りっぱなし」のテレワークで健康を維持する3つの対策
「座りっぱなし」による健康リスクを少しでも減らすにはどうしたら良いでしょうか。ここでは生活習慣を少し見直すだけで改善が期待できる対策を3つご紹介します。
《対策1》30分ごとに立ち上がって2分以上動く
仕事の合間に立って体を動かす時間をとりましょう。できれば30分ごとに(少なくとも1時間に一度)トイレ休憩や飲み物を補充する、軽くストレッチを行うといった活動を2分程度行います。短い時間であっても「座りっぱなし」の姿勢をとり続けないようにすることが大切です。仕事に集中して忘れそうなときはスマホや時計を使って時間を知らせてもらえるリマインド機能を活用しましょう。会議などで立ち上がることがむずかしい場合は、かかとの上げ下ろし運動をしたり、足指のグーパー運動などをしたりといった足首周りの運動がオススメです。
《対策2》できる限り良い姿勢を保つ
座っている姿勢をできるだけ良い状態に保つことも大切です。背中を丸めずに背骨をまっすぐ伸ばし、お尻全体で座るのではなく骨盤の底にある坐骨で座ることを心がけましょう。ここではできる限り良い姿勢を保つためのポイントを挙げます。
- 椅子に座るときはあごを引き、背骨をまっすぐに保つ
- 肩の力を抜いて座る。デスクワーク時は肘の角度が90度で安定する机の高さが理想的
- 膝と股関節の高さが同じ、もしくは少し膝が高くなるように調整し、臀部や大腿部への圧迫を和らげる
- なるべく背もたれを使わず、足を前方へ投げ出さない
- モニターを見る場合は上部1/3付近に目線を合わせる
《対策3》座る時間を減らし、立位で作業ができる環境を整える
机の上に手作りのちゃぶ台を設置して立位で作業をすることに
「座りっぱなし」の時間を減らすために、立位で作業できる環境を整えることも一つの方法です。スタンディングデスクの購入を検討すること以外にも、机の上にさらにちゃぶ台をのせて作業スペースの高さを調節するといった簡易的な方法でも構いません。立位と座位での作業を30分ごとに行うようすると適度に体を動かすため、「座りっぱなし」による健康リスクを回避することにつながります。また実際に行ってみると、立位の状態はすぐに体を動かしやすく、思い立ったらストレッチや運動、忘れていた家事などに取り組むことができます。
テレワークという働き方の選択肢が増えたことは、私たちの生活習慣もそれにあわせて変化が求められます。脱「座りっぱなし」で姿勢の崩れを防ぎ、健康的に活動量を増やす新習慣を始めてみませんか。
参考文献
※1)Hosi Bauman A, Ainsworth BE, Sallis JF,Hagstromer M, Craig CL, Bull FC, Pratt M,Venugopal K, Chau J, Sjostrom M; IPS Group. Thedescriptive epidemiology of sitting. A 20-countrycomparison using the International PhysicalActivity Questionnaire (IPAQ). Am J Prev Med. 2011Aug;41(2):228-35.
※2)‘Get Up!’ or lose hours of your life every day, scientist says(L. A. Times, Jan. 24, 2014)
※3)Sedentary Lifestyle: A Global Public Health Problem(2011)
※4)「座りすぎ」ケア完全マニュアル ケリー・スターレット著(医道の日本社)