アドバイス1 生活コストが現状のままなら住宅購入はほぼ不可能
まず、試算の前提として、この時点で候補にあがっている住宅を購入し、ご主人が単身赴任になったとします。住宅については、頭金なしで物件価格全額を借り入れるとして、諸費用はどうされる予定でしょうか。おそらく、100万~150万円の諸費用が別途発生するはず。貯蓄が現在120万円ですから、親御さんからの資金援助等がなければ、これも借り入れることになります。したがって、いただいたデータでは、借入額3500万円で毎月の返済額は10万7000円(35年返済、全期間固定1.5%)となっていますが、借入額を100万円加算します。これで毎月の返済はおよそ11万円。現在の家賃より3万8000円、住宅コストがアップします。
さらにランニングコストとして、固定資産税が月にならして1万円。さらに将来の修繕費用も考慮しておきます。マンションであれば修繕積立金によって用意されますが、一戸建てですから、自身で計画的に準備しておく必要があります。これを月1万5000円とすれば、先の住宅ローンと合わせて、実質の住宅コストは月6万3000円上昇します。
さらにご主人が単身赴任となった場合、生活コストは4万円アップするとのことですから、全体で約10万円生活費が上がるということになります。それは、支出が現状と変わらないのであれば、毎月10万円の赤字(貯蓄性のある保険の保険料も支出とみなす)を意味しますから、1年後に貯蓄も底をつきます。雪ん子ママさんがいわれるとおり、住宅購入は無理といわざるを得ません。
アドバイス2 忍耐をともなう家計管理で貯蓄ペースを生み出す
では、支出を見直せば、購入は可能でしょうか。ただし、用意すべき資金の優先順位で言えば、まず教育資金となりますので、先に教育資金の備えを考えます。学資保険は3本加入。満期金の合計額は900万円。大学は私立文系ならかかる費用はざっと400万円、理系なら540万円ほど。平均して1人500万円とすれば、3人で1500万円。大学の費用がかかる最後の年が下のお子さん21歳(大学3年)のときですから、学資保険以外に毎月3 万円貯蓄できれば、20年間で720万円。結果、学資保険の満期金と合わせて1620万円となり、想定した大学資金は足りることになります。
そう考えると、先の生活費10万円アップに加え、月3万円の教育費の積立が必要となります。すなわち、毎月13万円、現状の家計から捻出しないといけないということです。
それでも、数字的には不可能ではありません。それだけ世帯年収が高いからです。年収にすれば1000万円近いのではないでしょうか。しかし、同時にそれだけ使ってきた生活を続けているわけですから、減らすことは容易ではありません。脅かすわけではありませんが、少なくとも貯蓄習慣が身に付くまでは、忍耐の連続だと思われます。
具体的に考えてみます。まず、奨学金の返済があと3年半で終わります。自動車ローンの完済時期はわかりませんが、一般には最長でも10年ですから、これもあと7~8年で終わるでしょうか。ただし、児童手当も徐々に支給額が減り、14年後にはなくなります。それである程度相殺されるなら、少なくとも毎月の収支については、奨学金や自動車ローンの完済後も変わらないと考えていいでしょう。
そうなると、それ以外の生活コストをどれだけ削減できるかですが、まず固定支出となる保険の見直しは必須となります。ご夫婦ともに加入されている終身保険は払済保険に。それと、ご主人加入の収入保障保険は解約します。持ち家となり、住宅ローンを組むことで団体信用生命保険にも加入しますから、死亡保障は逓減定期保険だけでも必要最小限は確保できています。あと、子ども共済も必要性は低いので、こちらも解約。これで、保険料が月1万8000円削減できます。
他の生活コストについては、基本的には優先順位の低い順に削ることになります。おそらく雑費の10万円、趣味娯楽費の3万円、食費の8万円、このあたりに手を付けることになるはず。この3つの費目の合計が21万円ですから、半分に減らすことができれば10万円を貯蓄に回すことができます。しかし、実際は頑張っても7万円くらいでしょうか。
もちろん、それでも大変です。家計簿を付けて、支出のひとつひとつの必要性を考える。楽しむ部分を削るとストレスが溜まりますから、創意工夫をしてお金をかけず楽しめる方法を見つけ出す。そのような地道な日々の努力が必要でしょう。
アドバイス3 リスクを考慮すれば住宅コストは下げるのが賢明
毎月の家計から捻出できるのは、月8万~9万円が限度であるなら、頼れるのはボーナスしかありません。理想は半分貯蓄。これで年間100万円が貯蓄に回りますから、月割にして毎月の貯蓄と合わせれば16万~17万円。そもそも13万円貯蓄をしても、住宅ローンと教育費に消え、手持資金はまったく増えないことになります。これでは老後がままなりません。上乗せとして月3万~4万円貯蓄できれば、ご主人定年までの26年間で1000万円前後は貯蓄できます。退職金がご主人を800万円程度として、雪ん子ママさんは500万円程度ですから、すべて合算して2300万円。このくらいは老後資金が用意できることになるわけです。資金的には、定年後も夫婦とも働くことになるでしょうが、それでも老後資金のベースはできます。
ボーナスから半分貯蓄することについては、自動車ローンや学資保険の年払い分が終われば、半分貯蓄は比較的無理なく達成できるでしょう。それまでは大変ですが、そこを越えれば、住宅購入も見えてきます。
それでも、リスクはあります。夫婦とも収入がずっと維持されることが、この試算の前提となっています。したがって、健康を害して減収になれば、マネープランそのものが大きく変わります。
雪ん子ママさんはまだ若いですが、ご主人が単身赴任となれば、仕事に加えて、家事、子育てもこなさなくてはなりません。お母さんが手伝ってくれるとは言え、かなりの重労働です。家計管理ともに健康管理も大きなポイントとなります。
また資金的にもクルマの買い替えが定年までにあと数回発生します。支出としてはある程度まとまった額になるはず。お子さんの進路も、あくまで高校は公立を想定しています。
そう考えれば、やはり住宅コストをもう少し下げることで、こういったリスクを軽減したいところ。例えば、中古物件にして物件価格を1000万円下げることができれば、毎月のローンは約8万円。35年間、毎月3万円、住宅コストを下げることができるわけです。ローンの完済がご主人69歳であることも考えれば、検討する価値は十二分にあります。
相談者「雪ん子ママ」さんから寄せられた感想
具体的に数字で示して頂き、現状で住宅を購入することは不可能であることや、教育資金もこのままでは不足するという現実を知りました。また家計の改善すべき点が多々あることもよくわかりました。今まで無計画にお金を使い過ぎていました……。保険や家計管理を見直し、住宅購入という目標に向けて貯蓄を頑張りたいと思います。この度はありがとうございました。教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。近著に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/清水京武
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