世界で最もゴージャスな⁈旅物語『プリシラ』
3月9~30日=日生劇場 『プリシラ』の見どころドラァグクイーンたちの珍道中を描いた1994年のオーストラリア映画が、2006年に舞台化。16年に初演されたその日本版が、圧倒的な好評を受け、山崎育三郎さん、陣内孝則さん、(ダブルキャストの)ユナクさん・古屋敬多さんと劇場を大いに沸かせた顔ぶれで再登場します。 米国のマドンナ、英国のコミュナーズなど、80年代を中心とするポップスを物語に巧みに織り込み、キャラクターたちの心情を語らせるのが本作の音楽的特徴。ノリノリの音楽と奇抜でカラフルなヴィジュアルを追っていくだけでも楽しめますが、スピーディーな運びの中に主人公たちの葛藤を埋没させず、ドラマ部分もしっかりと表現しているのが宮本亜門さん演出の日本版です。観る側としてはリラックスして楽しみつつも、終盤に思いがけず大きな感動が得られる舞台となりましょう。
観劇レポート:時にゴージャス、時にしみじみと描かれる、“それぞれに特別な一人”讃歌 別居中の妻から息子が会いたがっていると聞き、海辺の町から砂漠の町まで、オーストラリアを横断することになったティック。ドラァグクイーンの彼は、自分に“父親”の資格があるのかと悩みながらも、生まれてから一度も会っていない息子の存在を隠したまま、トランスジェンダーのバーナデット、若いゲイ・アダムとともに中古のバス“プリシラ号”に乗り込む。 優雅さにこだわるバーナデットと、自分の魅力を隠そうともしないアダム。正反対の性格の二人の間を取り持ちながら、ティックは砂漠の町アリス・スプリングスを目指すが、折悪しくバスは故障。四方を見回しても何もなく、誰も通りかからない荒野で、3人は途方に暮れるが……。 「マテリアル・ガール」に「ゴー・ウェスト」など、ゴキゲンなポップスを日本語で歌いつつ、珍道中を繰り広げてゆくキャラクターたち。キラキラ素材満載の華やかな衣裳、躍動感あふれるアンサンブルのパフォーマンスもあいまって、彼らの旅は一見“無邪気な冒険物語”に映ります。しかし本作の原作映画が公開されたのは1994年と、まだまだLGBTに対する偏見も根強かった時代。訪れる町で手荒な歓迎を受ける度、シニカルな人生観を覗かせるバーナデットを、陣内孝則さんがユーモアと厳しさとをもって体現しています。 (ダブルキャストのうち)この日アダム役を演じた古屋敬多さんは、小気味よい身のこなしでのびのびとパフォーマンス。前回公演で目を奪った脚線美も健在で、女性から見てもうっとりするような存在であるだけに、古い価値観に凝り固まった男たちに傷つけられる悲しさが際立ちます。 そしてティック役の山崎育三郎さんは、どちらかといえば受動的で表現の難しいティック役を今回、“父親”としての内面の紆余曲折をドラマティックに見せることで、骨太に表現。終盤の息子ベンジーとの会話では思いが溢れ、ほろりとさせられずにはいられない名シーンとなりました。声高に歌い上げる作品ではありませんが、3人で歌っている時のちょっとした歌声の確かさに、芯の役者としての頼もしさが滲みます。 バーナデットの昔日の優雅なショーが忘れられないという修理工のボブを懐深く演じる石坂勇さん、そのパートナー、シンシアをエキセントリックに演じる池田有希子さん(キンタロー。さんとのダブルキャスト)、ティックの別居中の妻マリオンをおおらかに演じる三森千愛さんら、共演陣もそれぞれに“いい味”。 体は小さくとも大きく、寛容なハートを持ったティックの息子ベンジーに“未来の社会かくあるべし”との作り手たちの願いが投影されているかのような幕切れを経て、カーテンコールでは一転、全員がオーストラリアに因んだとある扮装にて登場、客席は大盛り上がりに(この間は撮影OK)。華やかな中にも時にしみじみと感じさせるもののある、良質のエンタテインメントとなっています。 *公式HP
*次頁で『夢の続き』をご紹介します!