今後もパート労働者の社会保険加入は拡大する
平成28年10月から、厚生年金被保険者が常時501人以上の企業等(国の公共団体含む)に週20時間以上勤務し、月額8万8000円以上の給与を受け取る、1年以上勤続(見込みも含む)、学生でないパート労働者は厚生年金・健康保険に入ることになりました。さらに平成29年4月からは、企業等の人数要件がなくなり、労使合意があれば(地方公共団体含む)、パートの方も厚生年金・健康保険に入るよう法律が改正になりました。厚生労働省では令和元年9月までに9回の「働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会」がとりまとめられており、短時間労働者(パート)への社会保険の適用拡大についても話し合われました。
一時期、「早ければ2021年4月には変わるのでは?」と報道された、パートの厚生年金・健康保険への加入要件が月給6万8000円以上になる案については、令和2年6月の年金改正法案にも含まれておらず、見合わせになっています。
ただし、国・地方自治体などに勤務するパート(厚生年金・健康保険の適用対象)について、公務員共済の短期要件を適用する案は、令和2年6月の年金改正法案に含まれており、令和4年10月に適用される見通しです。
同じく令和4年10月には、「常用労働者が100人超の企業で2カ月以上勤務見込みのパート労働者」や今まで対象外だった「弁護士、税理士、社労士等の法律系個人事務所で5人以上常用労働者がいるところで働くパート労働者」も厚生年金・健康保険適用になります。
令和6年10月には、常用労働者が50人超の企業で働くパート労働者が厚生年金・健康保険適用、という形で順次社会保険に加入するパート労働者が増えます。
年収82万円以上で厚生年金・健康保険料が引かれるようになる?
もし、月給6万8000円以上で厚生年金・健康保険料が差し引かれた場合手取りはどのくらいになるのでしょう? 月給6万8000円(年収82万円)以上で厚生年金保険料が月額約6300円、健康保険料が月額約3900円差し引かれると、5万7800円に手取りは減ってしまいます。会社員の妻(被扶養配偶者)の場合、社会保険料分も差し引いて手取りを挽回するには、月給8万円(年収96万円)以上になるまで働かなければならないのです。
60歳以上で年金をもらいながら働いている人に影響も……
パートの社会保険拡大といえば、主婦をまず思い浮かべますが、60歳以上で年金をもらいながら働いている短時間労働者もいます。今までは週20時間の労働時間で月給6万8000円なら厚生年金保険料を払う必要がなかったので、年金(在職老齢年金)は全額受けることができました。もし、法律改正が通ったら、週20時間以上働き月給が6万8000円だと、在職老齢年金の仕組み上、年金が一部支給停止されてしまう人も出てくるでしょう。
パートの社会保険拡大で得するのは誰?
手取りが減ってしまう人もいますが、パートの社会保険対象者が拡大されるとメリットのある人もいます。パートが月給6万8000円で厚生年金・健康保険に入るようになってお得なのはどんな人でしょうか? 以下のような人が該当すると思います。●現在、パートの年収82万円(月給6万8000円)以上で働き、自分で国民年金を支払っている人
自営業者やその妻、20歳から60歳までの失業者・退職者やその妻は、原則第1号被保険者として毎月1万6610円(令和3年度)の国民年金保険料と他に国民健康保険料を支払っています。月給6万8000円のパートでも社会保険に入れれば、厚生年金は月約6300円、健康保険は月約3900円で済むのです。その上、配偶者や子どもを扶養に入れることも可能です。
パートの社会保険拡大で損する人はいる?
パート(短時間労働者)の社会保険が拡大されると「損をする」と感じるのはどんな人なのでしょうか?1. 企業等の事業主
特に中小企業は負担が重いと感じるでしょう。厚生年金も健康保険料も事業主の負担が半分あるので、パートの社会保険が拡大されると、事業主負担も増えるのです。
2. 会社員の被扶養配偶者(国民年金第3号被保険者)
会社員に扶養されている配偶者は、勤務先で自分が厚生年金・健康保険料を支払うことになれば、手取りでは損をすると感じるでしょう。しかし、パートの月給6万8000円でも1年間厚生年金に加入すれば、保険料を月額約6300円支払いますが、一生老齢厚生年金が年額約4400円増えます。その上、万一のときの障害年金も国民年金より緩い基準で請求できます。健康保険料を月額3900円支払いますが、病気、ケガなどで働けなくなったときは、傷病手当金が支給されます。
厚生年金・健康保険など社会保険料を支払うことで、個人年金と医療保険の役割を兼ねることができるのです。このようなメリットもおさえておいたほうがいいでしょう。
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