「インサイト」がとった戦略とは?
ホンダにとって最大の課題は「アメリカ市場でハイブリッド車が売れない」ということである。早い時期からシビックにハイブリッド仕様を設定していたのだけれど、プリウスと比べたら全く勝負にならない販売台数でしかなかった。「それなら」とプリウスより安価な先代インサイトを作ってみたが、やはり成功しなかった。
シビックとインサイトの苦い失敗によってホンダが得た結論は、
- プリウスのように専用ボディのハイブリッド車であり
- なおかつプリウスと同じくらいの価格設定とし
- さらにプリウスより立派、高級に見えて
- 燃費良いクルマならイケるだろう
というもの。実際、新型インサイトを見ると、その通りになっている!
環境車とは思えない高級感あるデザインと走り
まず車体。シビックをベースにしながら全長4675mm×全幅1820mmと、長さで25mm、幅も20mm大きくしてきた。見た感じが、シビックがベースと思えないくらい雰囲気も違う。加えて現行プリウスは実際のボディサイズより小さく感じる上、世界規模でデザインの評判が良くない。それを受け、新型インサイトは、プリウスより大きく高級に見せようという狙いは成功した。
燃費も大いに期待していいだろう。世界TOPクラスの熱効率を実現したエンジンを採用した結果、先行発売されているアメリカでのEPA燃費(アメリカ政府公認燃費。日本の国交省認定燃費と違い極めて実際の燃費に近い)を見ると、プリウスと全く同じ22km/L。プリウスの燃費はアメリカでも素晴らしいと評価されている。
ハイブリッドシステムは、セレナやノートに採用され大ヒットしている日産『eパワー』と同じ。発電用エンジンで電気を作り、その電気でモーターを駆動するというものだ。eパワーより優れているのは、高速走行になるとエンジンで直接駆動するモードを持つこと。高速巡航時はエンジン直接駆動の方が燃費面で有利だからだ。
新型インサイトも基本的にモーターで走るため、eパワーと同じく電気自動車のように滑らかな加速をする。それでいて高速走行すると燃費が悪くなるeパワーと違い、全ての速度域でプリウスと同等の燃費を実現しているということだ。
以上、ここまで読んで「新型インサイトいいね!」と思ったのではなかろうか。そうしたら、ホンダの狙い通りです。
新型インサイトは、なぜ高い?
しかし! 唯一にしてけっこう厳しい「う~ん!」が価格。アメリカにおける新型インサイトの価格は、前述の通りプリウスより安価な設定。ほぼ同じ装備内容のグレード同士を比較すると、プリウス287万円に対し、新型インサイトの『EX』で279万円といった具合(2018年12月時点)。プリウスより安くなければ戦えない、という判断なんだと思う。
ところが最近のホンダの流れを見ると、日本で生産してアメリカに運んだクルマより、高く売る傾向がある。新型インサイトも例外ではなく、日本の『EX』は349万9200円という価格なのだった。ナビを標準装備しているとはいえ、アメリカまでの運送費やアメリカでの輸入関税(2.5%)を考えたら実質的に40万円くらい高い。
当然ながら日本でもナビなどの装備を合わせたとしても、プリウスと比べ40万円くらい高価。加えてトヨタ陣営はプリウスと同じハイブリッドシステムを採用し、プリウスよりずっとカッコ良い新型カローラを間もなく追加してくれる予定。
新型インサイトは、なぜ高い? 新型カローラより40万円も高ければ勝負にならないと思う。
シビック、クラリティPHEV、CR-Vといった最近のホンダ車は全て割高感が強い。せっかく良いクルマを作っても、高い価格を付ければユーザーからすれば買いにくくなる。新型インサイトもアメリカと同じくプリウス並の価格設定だったらショッピングリストに載せてもいいと思うが、割高なクルマは買った後の値落ち大きいため魅力薄いです。