『道』
12月8~28日=日生劇場『道』の見どころ フェデリコ・フェリーニの映画『8 1/2』をもとにしたミュージカル『ナイン』を、ブロードウェイと日本で演出したデヴィッド・ルヴォーが、再びフェリーニ映画を舞台化。大道芸人と少女の旅を描いた『道』(1954年)を、音楽劇として日本で初演します。
主人公の大道芸人ザンパノを演じるのは、草彅剛さん。映画版ではアンソニー・クインが野性味たっぷりに演じたザンパニを、草彅さんがどう表現するか。純粋無垢な魂を持つ少女ジェルソミーナ役には、オーディションで選ばれた蒔田彩珠さんが初舞台で挑戦。また彼女を巡り、ザンパノと対立する綱渡り芸人イル・ムット役には海宝直人さん、舞台版オリジナルのサーカス団長モリール役には佐藤流司さんら、多彩な顔触れが集結。緻密な舞台作りに定評のあるルヴォー演出のもと、どんな世界を作り上げるか、注目されます。
観劇レポート:“あまりにも不器用”な愛の寓話
舞台奥にはオンステージシートが70席あまり。左右にはバンドが配され、緩やかにアクティング・スペースを囲い込みます。江草啓太さんによる親しみやすくもコンテンポラリーな味わいの楽曲を、コロス的に存在する俳優たちが歌う中で物語は進行。(そのため、メインキャストが歌う機会はあまりありません)。貧しい家に生まれたジェルソミーナが、わずかな金で大道芸人のザンパノに買われ、芸の助手として方々を旅する姿が描かれます。
粗暴なザンパノはジェルソミーナを手荒く扱い、絶望のなかで彼女は綱渡り芸人のイル・マットに励まされる。騒動の後、逃げることもできたのに自分を待ち続けたジェルソミーナに、ザンパノはかすかに心を開きかけるが……。 筋肉隆々の体格と野太い声でザンパノを演じる草彅さん。殺気すら漂うこのザンパノにははじめ、観客が共感できる要素は何一つ無いのですが、ふとした一瞬に彼の心の揺らぎが覗き、ジェルソミーナとともに希望を抱かせます。彼女を海辺に連れて行き、海で泳いで見せるシーンではコンテンポラリーダンス的な身体表現を披露。ザンパノの心が水の中でほどける、美しい情景となっています。 いっぽうのジェルソミーナ役・蒔田さんはぎこちなくも心の中で愛を育む様を“静”の芝居の中でまっすぐに表現。イル・ムット役の海宝直人さんは表情豊かにザンパノやジェルソミーナに語りかけ、ドラマに躍動を与えます。狂言回し的に詩的なナンバーを歌うモリール役・佐藤流司さんの台詞にキレの良さ。そして“ジェルソミーナにだけ見える”という設定のクラウン役・フィリップ・エマールさんは登場の度、おかしみを纏いながらも場の空気をしゅっと変えてゆく様が見事です。ザンパノたちが旅の間に出会う様々な人々を演じ分けながら歌い続けるコロス(アンサンブル)も、個性豊かで魅力的。 あまりにも不器用な、愛の寓話。シンプルな物語ではありますが、ラストの破壊的な(音楽というより)ノイズは、寓話と呼ばれることを拒むようなリアルさに満ちています。演出家、そして出演者たちがここに何を込めようとしたのか……。じっくり考えたくなる舞台です。
*次頁で『サムシング・ロッテン!』をご紹介します!