アドバイス1 貯蓄ペースが維持されれば老後資金はまず大丈夫
家計を拝見する限り、まったく無駄が見当たりません。だからこそ、この収入で200万円超の貯蓄ができたのでしょう。立派の一言に尽きます。今後のマネープランを考える上で大きな前進は、転職し、非正規雇用から正社員になれたこと。給与は変わらないとのことですが、ボーナスが3カ月分支給されるわけですから、30万円程度は年間貯蓄を増やすことができます。生活コストが変わらなければ、年間85万円前後の貯蓄が可能。
そのペースが定年まで続くと2700万円ほど貯められますから、今ある貯蓄と合わせて2900万円。途中、クルマの買い替えが何度か発生するので、その費用を仮に300万円とすると、残り2600万円。退職金制度があれば、それを加算した額が用意できる老後資金ということになります。それは、少なくとも1500万円よりはるかに多い額です。
とは言え、老後資金がどのくらい必要かは、老後の生活費がどのくらいかかるかで大きく異なります。1500万円で足りることもあれば、不足する場合もあるでしょう。魚さんのケースは、将来の住居費など不確定な部分が少なくないですが、現在の生活費から考えて、公的年金だけでカバーできるか、超えても2、3万円かもしれません。
であれば、定年後65歳まではアルバイト等で生活費分の収入を得るとすると、90歳までの生活費の不足額は多くても1000万円程度。これに予備費(医療・介護費用、住宅費用など)として1000万円を加えても計2000万円。つまり、計算上は90歳の時点でまだ600万円余るわけです。そう考えると、貯蓄ペースが維持されるという条件付きですが、それさえクリアすればさほど老後資金については心配は要らないと考えていいでしょう。
アドバイス2 貯蓄の一部を「つみたてNISA」に充ててもいい
家計は先に触れたように、とても優秀です。ただし、加入されている養老保険、貯蓄のつもりで加入されたと思いますが、死亡保障は現時点で不要ですし、医療保障も医療共済で確保している額で十分です。さほど大きく増えないなら、元本割れしない(満期金が支払った保険料の総額を下回らない)時期に払済保険にして、浮いた保険料を貯蓄に回してもいいでしょう。今後の老後資金づくりとしては、毎月の貯蓄の一部を運用益等が非課税となる「つみたてNISA」に充てて、より増やすことを考えてもいいと思います。運用には当然リスクがともないますが、まだ老後までに十分時間があります。それが結果的にリスクヘッジにつながります。
また、老後資金づくりに特化した制度として、掛金が全額所得控除になるiDeCo(個人型確定拠出年金)もありますが、掛けた資金を引き出すのは原則60歳からとなります。その意味で、40代から始めても遅くはありません。
アドバイス3 節約だけの生活にならないことが必要
ただ、老後資金づくりよりも気になるのが、28歳独身の魚さんのご相談が「老後」だということ。確かに社会保障など、将来について不透明な部分はありますが、老後までまだ30年以上あります。将来に向けて貯蓄する意識は若い人こそ必要ですが、今から老後を必要以上に不安視し、節約だけの生活になってしまったとしたら、何かもったいない気がします。ご自身でお金をかけない楽しみも見つけているようですが、例えば月5000円、自分の楽しみのために新たに支出してもいいのでは。その分貯蓄ペースは落ちますが、それで生活がより豊かになるなら、それは「生きた」お金の使い方となります。そして、その程度の支出なら、老後資金に大きな影響は与えません。
相談者「魚」さんから寄せられた感想
ありがとうございます。すごく具体的でわかりやすいアドバイスをいただけました。採用されると思わなかったです。教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。近著に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/清水京武
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