足がむくむのはなぜ? むくみのメカニズム
多くの人が悩む「むくみ」。身体の中の水分や老廃物が皮下組織に過剰に溜まることで起こると知られていますが、体内のどんな水分がなぜ溜まってしまうのかを説明できる方は少ないのではないでしょうか。
むくみの原因となる水分は、元々は血液です。心臓を出た血液は、動脈を通って全身の細胞へと向かいます。血管はどんどん枝分かれして細くなり、最後は細い毛細血管になります。この動脈側の毛細血管を通っている際に、皮下組織の組織間隙に染み出した液体がむくみの原因となる水分の元になります。
この水分は細胞に酸素や栄養を運び、細胞からは二酸化炭素や老廃物を受け取る代謝を行います。その後は通常80~90%が静脈側の毛細血管に吸収されて、再び血液になります。そして静脈側に吸収されなかった残りの水分は毛細リンパ管に吸収され、「リンパ液」という呼び名に変わります。そして、何らかの理由で静脈とリンパ管で十分吸収しきれなかった水分が、むくみを起こしてしまう水分になります。
この仕組みを知っておけば、適切なむくみ改善法についても、より理解しやすくなると思います。まずは一般的な2つの方法について、見てみましょう。
1. マッサージなどによるむくみ改善法……リンパに対するアプローチ
むくみのセルフケア法としてよく知られている方法です。余分な水分をリンパ液としてリンパ管へと流します。皮下組織の水分を集めるリンパ管は皮下に分布していて、途中でリンパ節を通過します。リンパ節を刺激したり、皮膚をさするようなマッサージを行ったりすることで、リンパの流れがスムーズになるようにサポートします。また、昼間でも足をなるべく高くして伸ばして座ったり、横になれる状況なら横になって同じく足を少し高くしたりして、身体に対する重力の影響を少なくするのも効果的です。2. 運動によるむくみ改善法……静脈に対するアプローチ
リンパのケアも大事ですが、実際の水分移動ではそのほとんどを静脈が行っています。静脈の血流が十分に機能していることがとても大切だということは、上記で解説した静脈とリンパの割合からもお分かりいただけるでしょう。血液の循環がよくなれば、それに引っ張られる形でリンパの流れもよくなるのです。そこで大事なはたらきとなるのが「筋ポンプ作用」です。静脈やリンパ管はどちらも、それ自体の運動だけでは血液やリンパ液を移動させる働きは弱く、ほとんどの機能を受動的運動に任せています。その受動運動に大きな影響を与えるのが筋肉の運動です。静脈やリンパ管の内側には、逆流防止の弁が付いていて、筋肉が収縮することで圧迫を受けると、中の血液やリンパ液は一方向に移動するという仕組みになっています。このような働きを筋ポンプ作用とか、筋ポンプ機能と呼びます。
この筋ポンプは、当然ながら筋肉を収縮させなければ働きません。ですから、長時間座りっぱなし・立ちっぱなしの状態では機能しにくく、むくみが起こりやすくなります。逆に言うと、適度に運動することが静脈の流れを良くし、むくみの改善につながります。
マッサージや運動を頑張ってもむくみが解消しない理由
上記のようなマッサージや運動を行っても、むくみが改善せずに悩んでいる方は多いようです。ケアを頑張ってもむくみが改善しない場合、筋肉の疲労により、筋ポンプ作用の働きが低下してしまっていることが考えられます。運動によって静脈やリンパ管の流れは良くすることができますが、そのためには筋肉がきちんと収縮し、静脈とリンパ管を圧迫してくれなくてはいけません。しかし、筋肉が緊張したり疲労したりしていると固くなり、十分に収縮しなくなってしまいます。筋肉が十分に働かなくなれば、筋ポンプも作用しにくくなり、静脈の流れは悪くなります。こうなってしまうと皮下組織に残される水分は増え、リンパ管がより働かなくてはならなくなります。しかしリンパ液の流れも筋ポンプが作用しなければ増えてくれません。このようにして、むくみが改善しにくくなる悪循環が生まれてしまうのです。
むくみの根本解決のために筋肉疲労を回避! まずは靴の見直しから
むくみやすい状態を根本的に解決するためには、筋肉の疲労を回避することから始める必要があります。ふくらはぎの筋肉疲労に大きな影響を与えるのが「靴」です。足に合っている靴を履きましょうと言ってしまえば簡単ですが、サイズや形だけ足に合っている靴なら、筋ポンプとして大事な働きを持つふくらはぎの筋肉を疲れさせないかというと、そうではありません。まず避けるべきなのは、足の筋肉の疲れを招きやすい「足の裏が靴と接する面の小さい靴」です。
靴のタイプは関係ありません。ヒールのあるパンプスや、ヒールのフラットなバレエシューズ、ビジネスシューズやスニーカーなど、どんな靴でも可能性があります。その理由は、足と、靴の設計が関係しています。足は全て曲線で出来ています。靴の形の基礎となる木型も同様に全てが曲線です。しかし靴は、足と接する面に、足ほどの曲線を持って作ることは出来ません。体重を支えるために必要な強度を靴に持たせるために、それから、製造しやすい靴を作るために、靴単体で足裏をフィット、サポートさせることはとても難しいことだからです。
靴には様々な製法があり、中には足裏をサポートする構造を持って製造できる方法もありますが、かなりカジュアルな見た目のものになるため、靴全体の中ではかなり少数派の形になってしまいます。見た目を損なわずにむくみにくい靴を履くにはどうすればよいか。その悩みに答えてくれるのがインソールです。
靴を「足をサポートできる靴」に変えるインソール活用法
足裏をサポートする機能が不足している靴の機能不足を補うのに有効なのが「インソール」です。インソールにはオーダーと既製品があります。オーダーは目的に合わせて設計できますし、既製品には様々な機能があります。むくみ改善のためだけにいきなりオーダーはハードルが高いかもしれませんので、まずは既製品を試してみて、ある程度効果が実感ができてから検討するようにしてもよいかもしれません。既製品を試す場合、ふくらはぎの筋肉疲労を軽減してくれるものの選び方の目安として、「足裏のアーチをどのようにサポートしてくれるか」を見るようにしましょう。なるべく広くアーチを支えてくれる形をしていて、かといってアーチを持ち上げすぎていない物を選びましょう。アーチのバランスはとても繊細です。持ち上げればいいというものではありません。持ち上げすぎてバランスが崩れると、別のトラブルにつながりかねないのです。
まとめ
すでにリンパマッサージなどを行っているものの、つらいむくみが改善されない場合、毎日の靴環境を見直してみてください。足裏にフィット感を感じられる靴を選んだり、足裏を適度にサポートできるインソールを使用したりすることで、姿勢を保つための筋肉の疲労が軽減でき、筋ポンプの機能を発揮しやすい環境を作ることができます。また、筋ポンプは歩かなければ機能しません。そもそもほとんど歩かないという方は、少しずつ歩くところから始めましょう。動くことでリンパは休んでいるときの10倍も活動するそうですよ。■参考文献
1)伊藤隆著 解剖学講義 南山堂 1983
2)廣田彰男著 むくみが消えるリンパマッサージ マキノ出版 2005年
3)廣田彰男著 正しいリンパ浮腫の診断・治療 日本医事新報社 2017年
4)廣田彰男監修 リンパ浮腫の手技とケア 学研メディカル秀潤社 2012年