働き方改革の前に健康経営
働き方改革。多くの企業で、テレワークや副業等の制度導入が進んでいす。あるいは、フリーアドレスやリフレッシュルーム等、働く場での仕掛けもされています。全ては生産性向上のため。そうです、働き方改革は第二章に入り、テーマが生産性向上となっているからです。しかし、そこで働く従業員の健康状況が優れなかったら、せっかく用意した働き方改革の制度や仕掛けも、十二分に活用されずに効果が発揮されません。プレゼンティズムという言葉を聞いたことがあると思います。プレゼンティズムとは出勤しているのに、心身の不調により十分なパフォーマンスが発揮できず、業務遂行能力や生産性が落ちてしまう状態のことをいいます。
会社に居るのに、腰が痛くて長時間椅子に座っていられない、会社に居るのに、花粉症で集中力が持続できない、そんな状態です。職場や会社を休むアブセンティズムより、このプレゼンティズムの実害の方が大きいと言われています。
つまり、せっかくいろいろと働き方改革の制度や仕掛けを施したとしても、多くの従業員がプレゼンティズム状態であると、その効果が発揮できない状態になってしまいます。健康経営と働き方改革を別物として捉えるのではなく、一対のもの、さらには、働き方改革の前に健康経営を実践して、従業員の健康維持、増進を図るべきなのです。
健康経営は心身ともに健全な状態を目指す
2008年、労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)「使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするものとする」が規定されました。ですが、年々精神疾患者、脳・心臓疾患者も増加傾向にあります。厚生労働省によれば、2016年、498人が精神疾患を発症し、過去最多の労災認定を受けました(うち過労自殺は84人)長時間労働3割(20時間未満も84人、100時間102人、160時間以上52人)。さまざまなハラスメントも後を絶たない状況となっています。実際の精神疾患の申請も、過去最多、増加傾向の1,586人となっています。
精神疾患の予防、さらには集中力の向上を目指して、五感に作用するオフィスづくりがされ始めています。以前ご紹介したグリーンの配置が進んでいます。それと合わせて、ハイレゾの自然音を流す、アロマを焚く。あたかも公園の中で仕事をしているかのようなオフィスが増えています。今回は、その中のアロマの効用につい見ていくことにしましょう。
以下の説明は、アロマを使って健康経営のコンサルティングをしている、株式会社イコア、代表取締役社長 青木恵さんに伺ったものです。
そもそも、アロマセラピーとは、その効果とは?
一般にアロマセラピーとは、薬草療法の1つで、様々な薬草の花、葉、茎、根から蒸留や低温圧搾によって集められた揮発性の精油を用いる芳香療法です。これら自然の物質である精油は、独特の香りを持ち、それは凝縮された揮発性の液体で、小さなオイルのような分子でできています。例えば、ラベンダーの場合、抽出するのにどのくらいの原料を必要とするかというと、1kgのラベンダーから6~8ml、1株のラベンダーから1.2~1.5mlしか採れない貴重なものです。1.脳への効果
鼻から嗅いだ香りは、電気信号となり、大脳辺縁系(感情脳)と呼ばれる脳の部分に行きます。ほかの感覚、視覚、聴覚、皮膚感覚、味覚などは大脳新皮質(知性能)へ行ってから大脳辺縁系に行きますが、嗅覚だけはダイレクトに大脳辺縁系に到達します。
香りだけでも気分が変わるというのはこのためなのです。大脳辺縁系へ到達した電気信号は、扁桃核、海馬(記憶をするところ※)を介し、視床下部へ伝達します。「プルースト効果」というものがあります。何かの香りをかいだときに、普段忘れていた記憶がよみがえるもので、嗅覚がダイレクトに大脳辺縁系に作用するからです。つまり、人間の嗅覚の記憶は、視覚の記憶に比べると長い間保持されやすいのです。
2.ストレスへの効果
「木の香りがストレスに効果がある」、独立行政法人森林総合研究所の実験で、ストレスが加わると唾液中に分泌されるホルモンの量を、森林浴の時と森の気温や湿度を再現した人口気象室にいる時とで比較しました。
人工気象室では1ml当り0.4ピコグラムだった量が、森林浴では0.3ピコグラムと減少したことから、木の香り成分として知られるα-ピネン、リモネンといった天然の物質が、リラックス効果をもたらしたのではないかということになりました(1ピコグラムは1兆分の1g)。
3.血圧への効果
同じく独立行政法人森林総合研究所の研究結果によれば、杉やヒノキの香りを嗅ぐと血圧が下がり、気分が落ち着くということが実証されています。杉などの木片の香りを14~16人に吸ってもらい、血圧や脳の血液量の変化を調べた結果、45秒で血圧が3~4%下がっていることがわかりました。
また、1937年にフランスの科学者であるルネ・モーリス=ガットフォセは、アロマセラピーという言葉を作り、精油には、精神安定効果があり、ヒステリーや高血圧に効果的であるということを自らの著書の中で記しています。
4.免疫への効果と自然な殺菌力
精油には白血球の中のリンパ球の生産を促進する作用のあるものや、強力な殺菌作用があるものが知られています。アロマセラピーは人工的な薬剤とは違った方法で、身体の自然の防御系を刺激します。抗生物質が開発され、医療革命が起こったのはここ120~130年の間です。ところが抗生物質に対し、耐性を持つウイルスや菌ができてきています。また、薬剤には副作用があるという問題点、医療費の高負担という2つの問題点を抱えています。
5.感染症を防ぎ、殺菌する
フランスの医師であるジャン・バルネ博士は、第二次世界大戦中に行なった研究と、1950年代から70年代にかけて精神患者の治療に主に殺菌に精油を使って効果をあげたことで、医学における精油の評価を高めました。研究の成果は、『ジャン・バルネ博士の植物=芳香療法』(1964年)という本が出版されています。
6.不安感を取り除く
1970年代にイタリア・ミラノ大学のパオロ・ロベスティ教授は、ヒステリー、鬱病にかかった患者に経口もしくは吸入によって精油を用い、精神的回復度を計測しました。精油には、不安感を取り除く効果があるという結果を残しています。
7.集中力を上げる ストレス度を下げ、眠気度も下げる
2017年のアルパイン(株)×慶応義塾大学理工学部(電通サイエンスジャム)×(株)イコアの実証実験で、長時間運転を行うドライバーの眠気や疲労を、香りによって自然な形で緩和させる目的で、精油を使った実験を行いました。その結果が下記3つの表になります。
その他の効果(アロマ環境協会のHPより)
- ペパーミント、オレンジ・スイート精油の香りが小学生の計算ミスとストレス軽減に寄与
- イラン精油の芳香浴による動脈機能改善の可能性
- オレンジ・スイート精油がもたらす就眠前不安への生理的影響
- 柑橘系精油などで片頭痛の発作回数が芳香浴で減少
- ティツリー精油などの制菌作用
- ゼラニウム、ローズオットー精油の吸入が女性ホルモンに与える影響
以上、株式会社イコア、代表取締役社長 青木恵さんのお話より。
いかがでしたでしょうか?香りは、女性のためだけのものでも、ましてぜいたく品でもありません。まずは、従業員を守るための一環として導入頂き、快適な働く環境をつくってみませんか?