メキシコで有名な「モレソース」
メキシコには、チョコレートを使った料理ソース「モレ」があります。メキシコ料理がお好きな方にはお馴染みですね。 私も日本国内のメキシコ料理店で、チキンにチョコ入りのソースをかけた「モレ・ポブラーノ」をオーダーすること度々。スパイシーでコクのある不思議なソースを味わいながら、いつか現地で食べてみたいと思っていました。そんなわけで先日、モレの故郷、メキシコの街「オアハカ」へ! しっかり現地でモレ体験してきました。ここではその経験をみなさんにシェアします。
「モレ」とは?
まずご存知ない方のために「モレ」とは何かをお伝えします。メキシコで「モレ」はソースの総称です。現地表記は「Mole」。日本では「モレ」または「モーレ」と表記され、メキシコ料理店やラテンアメリカの料理店で出会えます。日本では「モレ=チョコレートやスパイスを使ったメキシコの料理ソース」として話題になることが多いですが、モレはソース、なので現地にはチョコレートを使わない「モレ」も沢山あります。
オアハカには7種の「モレ」がある
例えばモレが有名なオアハカ州には、7種の代表的なモレがあります。
- モレ・ベルデ(緑のモレ)
- モレ・コロラディート(赤のモレ)※チョコレート使用
- モレ・アマリージョ(黄色のモレ)
- モレ・ネグロ(黒のモレ)※チョコレート使用
- モレ・チチーロ(辛味が強め)
- モレ・マンチャマンテル(フルーティな風味)
- モレ・アルメンドラド(アーモンドベース)
「チレ」は大小様々、ピーマンやシシトウのような辛くないものから、鷹の爪やハバネロに似たものまであり、メキシコの市場(メルカド)には、何十種類も山積みになっています。
その中から黒のモレは黒っぽい「チレ」を数種類使用、赤のモレは赤っぽく、黄色のモレは黄色っぽく仕上がる「チレ」を使用。緑のモレはハーブの葉やグリーントマトを加えています。ソースの色が名前の由来であるだけでなく、「モレ・マンチャ・マンテル」は「テーブルクロス汚しのモレ」という意味があり、食べ散らかしちゃうくらい美味しい、という意味があります。 チキン、ポーク、またはお魚や野菜にモレを合わせ、ライスかトルティーヤと一緒にいただきます。
チョコレートを使う「モレ」は3種類
チョコレートを使うソースとして日本で有名なのは「モレ・ポブラーノ」(ポブラーノ=プエブラ州の、という意味)ですが、あと2つ、同じくらい有名なものがあります。それは「モレ・ネグロ(Mole negro)」と「モレ・コロラディート(Mole coloradito)」です。オアハカは「チョコレートの街」といわれる地なので、チョコレートを使った「モレ・ネグロ」「モレ・コロラディート」はモレのスター的存在! かつてモレは「メタテ(石の台)」と「マノ(石の棒)」という道具で、唐辛子やナッツ、スパイスなどを、手作業でゴリゴリとすりつぶして、各家庭で作られていました。
タパチュラのチョコレート店では、伝統的な作り方を拝見。 「メタテ」と「マノ」は、古代からカカオ豆をすり潰し、チョコレートを作るために使われた道具としても有名です(「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」のロゴにも使われていますよ。つながりましたか?)。
現地で「モレ・コロラディート」作りを体験
「本場のモレの味と本格的な作り方」を体験すべく、私はオアハカでお料理レッスンに参加しました。教えてくださったのはオアハカ在住のノラ先生。高級住宅街にあるリゾートホテルのようなご自宅でのプライベートレッスンです。レッスンは、まずは地元のメルカード(市場)へ行き、お買い物するところから始まります。 メキシコ料理の奥行きは、食材の多様さ、種類の豊富さにあります。売り場で会話しながら、手際よく旬の素材を買い物をするノラ先生。お買い物を終え、キッチンで、さぁ、モレに使う材料を広げると…… こんなにたくさん!!!
トマト、バナナ、チレが4種類、ゴマ、オニオン、ガーリック、クルミ、アーモンド、干しぶどう、プルーン、スパイスが数種(オレガノ、タイムなど)、とろみを出すためのパン、地元のカカオを使ったチョコレート。使われるアイテムの数が、私の想像の3倍以上で驚いてしまいました。しかもよーくご覧ください。これらの素材が全部入っているなんて、体に良さそうですね。 ちなみにチレの種類は
- Chile Ancho Coloradito (チレ・アンチョ・コロラディート)
- Chile Guajillo(チレ・グアヒージョ)
- Chile Pulla(チレ・プージャ)
- Chile Chipotle Meco(チレ・チポートレ・メコ)
お味は、といえばそんなに辛くないのです。主役はメキシコ独特の素材の風味。チレの爽やかでフルーティな風味が、ナッツやスパイス、ガーリック、カカオと複雑に絡まり合い、酸味、苦味、甘みはバランスよく整っています。本場のモレは、お肉とベストマッチで感激。私はすっかり「モレ」ファンに!
モレの今、そしてスタイル
「モレ」をより理解していただくために。「モレ」は使う材料がかなり多いので、少量では効率が悪いのです。大量に作るのが一般的。オアハカ在住のガイド、佐藤さん曰く「例えば500人分とか作るんですよね」。……え??500人?!と驚く私に届いたのがこの写真。 凄い!ほんとだった!
お祭りではこんな光景が今も当たり前だそう。家庭でも作るときは大量に。1年分くらい保存できるので、たくさん作ってストックしておくのです。
また、今は市場で、すでに出来上がった「モレ」を好きな量だけ買うこともできます。少し食べたい方や忙しい方向けですね。 スーパーには、パックに入った出来合いの「モレ」も豊富に揃っています。パックを開けて温めれば出来上がり。手軽さゆえに「今の若い世代は、モレを最初から作れない人が増えているのよ」なんてお話も現地で聞こえてきました。
モレ体験のまとめ
メキシコで「モレ」を堪能した私は、チョコレート、カカオの全く新しい顔に出会った気がしました。東京でいただくたびに「モレ」は、めずらしい素材の組み合わせのように感じていましたが、実はモレに入っているのは、メキシコではごく身近な素材ばかり。
チョコレートもそうです。メキシコではキッチンに当たり前のようにチョコレートが置いてあるので、料理に入れてみたくなるのもよくわかる距離感。カカオの産地でもあるので、カカオそのものが身近。チョコレートを入れたソースが家庭料理となり定着するほど、チョコレートが日常的な存在なのです。
この記事を参考に、ぜひ日本でもモレソースをレストランなどで召し上がってみてください。そしてできればいつか、本場のモレを体験してくださいね。私もまたメキシコを訪れたいです。
■追記・インフォメーション■
ノラ先生のお料理の美味しさは、大袈裟でなく、群を抜いていました。
私と同じ体験をしたい方は、こちらのメールアドレス(メキシコ観光WEBサイト)へ日本語で連絡してみてください。日本語ガイドもつけられますが、先生は英語が流暢なので英語でも可能です。グループレッスンもOK、メキシコの食文化がリアルにわかります。
<市川歩美が体験したメキシコのチョコレート・カカオ記事> あわせてお読みくださいね。
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