国連が食糧難解決に「昆虫食」に注目

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ミツバチは、人類の最古の昆虫食です。


私が初めて昆虫食に触れたのは、子どもの頃に読んだ『ファーブル昆虫記』。ファーブルが「セミの幼虫」をフライパンでソテーし、「エビのように美味しい」と記していたことに衝撃を受けた記憶があります。

そしてこの昆虫食には、近年は国連も認めるほどの動きがあります。すべての人々が栄養ある安全な食べ物を手に入れ、健康的な生活を送ることができる世界を目指して活動している「国連食糧農業機関(以後、FAO)」は、2013年に『食品及び飼料における昆虫類の役割に注目する報告書』を発表しました。FAOが注目し、近年は欧米でも研究が進んでいる昆虫食には、どのようなメリットがあるのでしょう。

非営利団体昆虫科学教育館(主宰/渡部宏氏)では、西宮市や箕面市で昆虫教室を定期開催しており、8月11日は昆虫食がテーマでしたので、私も参加してみました。当日は、東大阪大学 短期大学 実践栄養学 学科長 松井欣也准教授と、昆虫の加工食品販売を手がける株式会社昆虫食のentomo代表取締役社長 松井崇氏から、昆虫食のお話を伺うとともに、コオロギ粉末を使ったクッキーの調理実習も行いました。この講座で学んだことも含めて、昆虫食について解説したいと思います。
 

昆虫食は世界各地に見られるローカルフード……1900種類以上の食用昆虫類

昆虫食は、アフリカやオーストラリア、南米、タイや中国などのアジアの伝統的な食文化の一部として継続しています。 世界では、1900種類以上の昆虫類が食用とされています。

日本でも、江戸時代に編纂された日本の食物全般をまとめた『本朝食鑑』には、「イナゴは農家の子どもが炙って喜んで食べる」と記載されていますが、他の虫に関してはまだまだわからないことがあること、虫を知らないうちに口にすると胃腸を荒らすことがあるので料理人は気をつけよ、などと記されています。

歴史的に、昆虫食と聞くと、戦争や飢饉、貧困などにより食糧が十二分に行き渡らない際の救荒食のイメージが強いかもしれません。しかし大正時代までは一般的に昆虫が食された地域もあり、長野県などでは郷土食としてハチの子やイナゴの佃煮や甘露煮が、現在でも道の駅やおみやげ屋さんなどで売られていたりします。また昆虫は、漢方などの薬用としても利用されてきました。

戦後、高度成長期を経て食糧事情がよくなり、欧米型の食事が定着するとともに、救荒食や郷土食としての昆虫食文化の影は薄まっていったようです。
 

高栄養で環境負荷の少ない昆虫食が、食糧不足を救う

では、FAOがなぜ近年になって昆虫食に注目しているのか、その背景をご説明しましょう。

地球上では世界的な人口増加、都会化、中流層の増加により、莫大な量の食糧が必要となっています。 2017年に国連が発表した『世界人口予測2017年改定版』によると現在76億人の世界人口は、2050年に98億人に達すると予測されています。しかし、環境汚染や温暖化、気候変動などにより、食糧や水資源の確保については深刻な問題となっています。

そこで、FAOが食料問題対策の一つとして注目したのが、昆虫食です。鶏肉より豚肉、豚肉よりは牛肉と、大きな家畜を育てるほど、より多くの飼料や水が必要となります。例えば、牛肉を1kg生産するには、約8kgの飼料が必要です。これに対して昆虫肉1kgは2kg程度の飼料で生産できます。

また温室効果ガスの発生量も、豚はミルワーム(ゴミムシダマシの幼虫)の10~100倍生産してしまうと考えられています。昆虫飼育は環境への負荷や、水使用量、必要な土地も小さいことから、未来食として、また宇宙食としても注目されているのです。
 

注目される昆虫の栄養価・昆虫食のメリット

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Entomo Farmsのクリケットパウダー=コオロギ粉末。(画像提供/株式会社昆虫食のentomo)

世界で食用とされている昆虫には、どのような種類のものがあるかというと、コガネムシや毛虫・イモムシ類、ハチ、バッタ類、セミ、シロアリ、トンボ、ハエなどが挙げられます。

またそれらの風味は多様で、セミはナッツ風味、オオスズメバチの幼虫はフグの白子、トノサマバッタはエビカニに近い食感、タイワンタガメの雄は洋ナシの香りがするそうです。

昆虫には、どのような栄養素が含まれているのでしょう。種類により栄養価は異なりますが、おおよそ60~70%がたんぱく質で、他に鉄やマグネシウム、カルシウム、亜鉛などのミネラル、n-3系、n-6系の多価不飽和脂肪酸、不溶性食物繊維としてのキチンなどを含み、健康に寄与する食品として注目されています。

 

昆虫食の危険性・デメリット・アレルギーリスク

では、経験がある方はあまりいないと思いますが、自然採集した虫を食べても大丈夫なのでしょうか。昆虫は、どこで何を餌として食べたのか分からないので、安全性に問題がある場合がありますから、生のままで食べるのは厳禁で、必ず加熱が必要です。また昆虫は腐敗しやすいので、死んだ虫を拾って調理するのも危険な行為です。

昆虫は衛生的な環境で扱われる限り、病気や寄生虫が人間に伝染された事例は知られていませんが、まだまだ研究を重ねる必要はあります。また昆虫に毒があるもの、また毒のある花の蜜を吸う昆虫などは避けなければなりません。昆虫はカニやエビに近い種族であるため、甲殻類アレルギーを引き起こす可能性もあります。

 

先進諸国でも進む昆虫食の開発

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コオロギ粉末を使用したパスタなどのメニューを開発した海外事例(画像提供/株式会社昆虫食のentomo)

現代の食物の豊かな日本では、昆虫が一般の食卓で目に触れることはほぼありませんが、この発表以降、先進諸国の欧米でも昆虫粉末を使った様々な製品が開発、販売されています。

例えば、家具やインテリア製品の販売で知られるIKEAは、「SPACE10」という研究機関を通じて、未来食の実験を行なっています。人工肉やスピルリナという藻類、昆虫を使ったミートボールなどの研究に取り組んでいるそうです。

意外なことは、タイやアフリカでは昆虫は高級食材で、肉の10倍以上の価格で取引されるということです。何故ならば、ほとんど自然採集であり、小さいため、捕獲に時間や手間がかかり、人件費が高くついてしまうためです。ちなみに日本国内で流通している蜂の子やイナゴは、価格の安い中国産・韓国産を加工したものであっても高価です。

今回の講座で使用されたEntomo Farms(北米の食用昆虫養殖企業)の製品は、FDA(アメリカ食品医薬品局)の適正製造規範の衛生基準に従ったカナダの衛生的な工場で生産・製造された食用コオロギとミールワームで、生態系を乱すことなく、工業的に大量飼育され、安定した品質と価格で提供されています。

日本の食品衛生法の輸入検疫などの審査にも合格するだけでなく、昆虫飼育に必要な飼料の安全性にもこだわり、昆虫にストレスができるだけかからないように放し飼いにするなどした製品は、アメリカ・EU・カナダの有機食品認定を受け、非遺伝子組換え審査もクリアをしています。昆虫食でも、オーガニック認証まで進んでいるというのは意外でした。

栄養価の高い昆虫は、そのままでは抵抗感が強いと受けとめる人もいる中、粉末にすることで使いやすくなります。カナダでは、一般的なスーパーでEntomo Farmsのコオロギパウダーを使用した製品を自社ブランドとして販売されたり、またペットフードなどにも利用されています。
 

日本ではアスリート向けから可能性も

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Entomo Farmsのコオロギ粉末を使用したプロテインバー(画像提供/株式会社昆虫食のentomo)

今回参加した講座では、コオロギの粉末を小麦粉に10%混ぜたクッキーを調理実習しました。コオロギ粉末は、茶色の微粉末で、やや香ばしく、風味の弱い鰹節のような印象でした。バターや砂糖、卵と、一般的なクッキーの作り方と同様に焼き上げ、普通においしく食べることができました。

食が豊かな日本では、一般的な食事として昆虫そのものを食す料理はまだまだハードルが高そうです。しかし粉末製品などについては栄養価の高さから非常食として、またアスリート向けの補助食品としての活用などが考えられるかもしれません。

ただし日本では、昆虫はJAS法の規格外で、食品としての基準やオーガニック認証がありません。昆虫食が普及する際には、規格基準などの制度をつくることが、まず第一の課題となるでしょう。

日本でも、近年は台風や大雨、また地震などによる被害で農水産業には多大な被害があり、食品の安定供給や価格の高騰が懸念されています。日本では食料の自給率が低下しますが、世界的には人口増大が問題となり、様々な事情から輸入が滞る可能性も考えられます。不測の事態も想定し、昆虫食も含めた様々な食品、栄養補給方法の可能性を広げていくことも視野に入れるべき時が来ているのではないでしょうか。

 ■協力
昆虫科学教育館
東大阪大学短期大学実践食物学科学科長松井欣也准教授
entomo

■参考
昆虫の食糧保障、暮らし、環境への貢献(FAO)
国際農研(国際研究開発法人国際農林水産業研究センター)
本朝食鑑(東洋文庫)
江戸時代食生活事典(雄山閣)
その他
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