メンタルヘルス

エチゾラムの効果と副作用・デパスとの違いはなし

【医師が解説】一般的な睡眠導入剤として処方されることが多い「エチゾラム」。「デパス」と言う製品名で知られているため、違いを気にされる方も時にいらっしゃいますが、呼び方が違うだけで全く同じものです。エチゾラムの効果、眠気を催すメカニズム、副作用やエチゾラムを飲み続けた場合の依存性に関する不安などについて解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

エチゾラムとは(デパスとは)

睡眠導入剤を飲む人のイメージ

睡眠導入剤を処方されている方、服用している方は少なくありません。なぜ眠くなるのか、その効果と副作用、依存性についても正しく理解しておくことが大切です


不眠症状に悩まされている方を始め、睡眠導入剤を処方されている方や服用している方は、少なくないと思います。代表的な薬として「エチゾラム」「デパス」などの名前がよく挙げられますが、実はこの2つは名前こそ違いますが、同じ治療薬です。エチゾラムは物質名で、デパスはその商品名の1つです。

今回はこうした紛らわしい問題も含め、代表的な睡眠導入剤の一つであるエチゾラムの効果について、依存性や副作用などに関するありがちな誤解、よくある疑問への回答も含め、詳しく解説していきたいと思います。
 

エチゾラムの(デパス)作用機序……中枢神経系をスローダウンさせる薬物

エチゾラムは、化学物質としては、他の一般的な睡眠導入剤そして抗不安薬である「ベンゾジアゼピン」と呼ばれる化学物質の分子構造と類似しています。それゆえエチゾラムは一般にベンゾジアゼピンの仲間の一つと見なされています。作用も、基本的にはこのグループを代表するベンゾジアゼピンと類似していますので、長年詳しく研究されてきたベンゾジアゼピンの作用から、重要なポイントを述べていきます。

ベンゾジアゼピンは中枢神経系に作用する薬物群のなかでは、中枢神経系の機能を抑制する、言葉を変えれば「中枢神経系をスローダウンさせる」タイプの代表的な薬の一つです。その薬理作用は脳内の神経伝達に関わる、神経細胞内では「受容体」と呼ばれる結合部位に結合することで現れてきます。この受容体自体はこの化学物質が結合することから、一般にベンゾジアゼピン受容体と呼ばれています。そして、その一つ一つの位置や機能に応じて、いくつかサブタイプもあります。

ベンゾジアゼピンは中枢神経系の機能をスローダウンさせるため、口から体内に入って吸収され、脳内の所定の結合部位に結びつくと、効果が現れてきます。具体的には眠気を催す、あるいは気持ちが楽になる等の変化が現れます。その効果の出方、効き具合は、皆が同じでない点は注意したいところです。それは一人ひとりの身体状態や生理機能などの違いが大きいためとも言えます。例えば血液量は体重に相関しますので、体の大きな人と小柄な人では、同じぐらいの量を服薬しても血液中の濃度に差が出やすくなります。これらも、薬の効き目に個人差が出てくる要因になります。

以下ではまず治療薬の一般的な効き目を理解するポイントの一つである「血中半減期」を説明します。
 

薬の用途を決める重要なファクターである「血中半減期」とは

血中半減期とは、治療薬の血中量が半分になるまでの時間を指します。例えば、半減期が仮に1時間として、そのある時点で血液中の濃度が最大になったとします。半減期は1時間ですので、それから1時間後には、血中濃度は最大時の半分になります。さらに1時間たてば、そのまた半分になるので、最大時の4分の1です。そしてさらにまた1時間たてば、そのまた半分になり、最大時の8分の1になってしまいます。

血中濃度が最大になるタイミングは、通常、薬の効き目が最大になるときでもあります。半減期が上記のように1時間ならば、3時間後には、血中濃度が8分の1ほどになっているわけで、薬の効き目も随分落ちることになります。もし仮に眠気を催す効果が期待できる薬ができたとしても、3時間もたてば薬の効果が得られなくなってしまう場合、睡眠導入剤としての用途にはあまり適さなくなってしまいます。一方、半減期が仮に48時間と長い場合、服用して眠っても、朝起きた時はまだ8時間ぐらいしかたっていません。まだその治療薬と効果が血液中に充分残っていることになります。それゆえに朝起きた時に眠気が強すぎる可能性もあり、長い半減期もまた睡眠導入剤の用途にはあまり適していないと言えます。

このように睡眠導入剤として使用するためには、半減期が短すぎてもダメ、長すぎてもダメなのです。これに対して、エチゾラムの半減期は6時間前後。睡眠導入剤として使用するには望ましい半減期の薬だと言えます。睡眠導入剤の代表的なものとして処方されることが多いのは、このためでもあります。
 

エチゾラム(デパス)の副作用……眠気や脱力感から、悪性症候群まで

どんな治療薬であれ、薬を服用するときには副作用も気になるものです。ここで注意しておきたいことは、副作用は決して治療薬の落ち度だと言えない面もあることです。

エチゾラムの場合、脳内の所定の受容体に結合することで、眠気が生じる、あるいは気持ちが楽になるといった効果を期待していますが、この薬が結合できる受容体は脳内のその受容体だけとは限りません。もし他の受容体に結合すれば、本来期待していない作用が副作用として現れることになります。また、ターゲットとしている受容体の関わる機能自体も「眠気が生じる」「気持ちが楽になる」といったたぐいだけではないので、本来期待していない作用が副作用として現れる可能性もあります。

副作用に関してはそれほど深刻ではない、言わばおだやかなレベルで、服薬中の数%の人に現れるような問題と、かなり深刻で緊急に対処すべき問題だが、その頻度自体はかなり稀なものの2つに分けて考えると、分かりやすいかもしれません。

エチゾラムの副作用の場合、まず数%の人に現れるかもしれないタイプのものとしては、「昼間に眠気が残る」「体がふらつく」「体に力が入らない」などが挙げられます。一方、頻度自体はかなり稀なものの緊急性の高い副作用としては、高熱を発するような「悪性症候群」と呼ばれる問題などが挙げられます。
 

エチゾラム(デパス)を飲み続けると依存症になる可能性は高いのか低いのか?

一般に中枢神経系に作用する薬物のなかには、その薬物の種類によっては、依存症の原因物質になり得るものがあります。エチゾラム、デパスなどのベンゾジアゼピン系の薬物もそれに該当する薬物です。実際に、「睡眠導入剤の○○を飲み続けると、依存症になってしまいませんか?」といった質問は、患者さんやご家族の方からよく聞くものの一つです。

こうした睡眠導入剤が関わる依存症のリスクをよくおさえるためには、依存症に関する基本的な知識を頭に入れておくことが大切です。まずは「耐性」「離脱症状」「身体依存」といった依存症に関わる基本的なキーワードについて、理解しておきましょう。これらは基本的には中枢神経に作用する依存症の原因物質を、「過剰に」「長期間」摂取することで、体の生理機能が変化して現れてくる問題です。

まず、耐性という語は、その薬物を長期に過剰に摂取した際、体の生理機能に変化が起こり、それまで通りの用量ではそれまで通りの効き目が現れなくなる現象を意味します。それが睡眠導入剤の場合、それをある程度の期間、過剰に服用すれば、その薬に対して耐性が生じる可能性もあり、それまでと同じ用量ではそれまで通りに眠れなくなる可能性もあります。

次に離脱症状とは、その依存症の原因物質を長く過剰に摂取した際、体の生理機能に変化が起こり、その物質が何かの折に体に入ってこなくなると、心身に現れてくる不快な、そして、時にかなり深刻な症状を意味します。それが睡眠導入剤の場合、それをある程度の期間、過剰に摂取すれば、体の生理機能に変化が起こり、何かの折にそれが体に入ってこなくなると、離脱症状が現れる可能性があります、たとえば家にその薬を忘れて旅行に行ってしまったような際、旅行先でかなり強いイライラ感に悩まされたり、場合によっては手先が震え出すような可能性もあります。

そして最後の身体依存とは、その薬を長く過剰に摂取したため、体の生理機能に変化が起こり、上記の耐性や離脱症状のような問題がはっきり現れるようになった状態を指します。そしてもし身体依存が深刻化していれば、その時点で依存症と診断できるレベルになっている可能性もあります。

それで上記の「○○を飲み続けると、依存症になるのではないか?」という問いに関しては、その結果、体の生理機能に変化が生じ、耐性や離脱症状が現れ出し、その内容が深刻化していく可能性もあり、答え自体は「YES」です。ただこの問題に関しては、どうしてその薬を過剰に長期間服用するような状況が生じるのかといった面から考えてみると、依存症の問題点が違った角度から見えてくるかもしれません。その要因が依存症のリスク要因でもありますが、例えば何らかの深刻な状況で、心理的にも生活面でも何らかの悪循環に入ってしまったことが、その薬の過剰な長期間服用の背景にあることも少なくありません。そして深刻な状況には誰でも思いがけず直面する可能性もあることなので、依存症のリスクを遠ざけるためにも悪循環に入らないように注意することが大切です。

そして最後に、治療薬に関する疑問点は何でも基本的には処方された主治医に尋ねられるのが一番です。もし気軽に薬について尋ねることが苦手という方は、ぜひ治療薬に関する不安や疑問も、克服したい症状や問題のリストの中にでも入れて、その都度尋ねてみる習慣を作ってみてください。
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