ストレス

働き方改革関連法成立で働きやすさはどう変わるか

【産業カウンセラーが解説】働き方改革関連法が成立し、日本人の働き方が大きく変わると言われています。関連法の内容は幅広く、成立が急がれたのには理由があります。まずスタートするのは、長時間労働の是正。2時間以上の残業が当たり前の職場は減っていくのでしょうか? 改革が狙う変化について、産業カウンセラーが解説します。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

「働き方改革関連法」成立の理由……皆が働かなければ社会が成り立たない!

ヤング層もシニア層も皆が働き、そして働き過ぎず、不公平のない報酬をもらえる社会の実現が必要

ヤングもシニアも皆が働ける社会、そして働き過ぎない社会、公平に報酬をもらえる社会の実現が必要

2018年6月29日に働き方改革関連法が可決し、成立しました。これにより、日本人の働き方は大きく変わっていくと言われています。

「働き方改革関連法」の成立は急がれたのはなぜか、そこには日本の労働力人口が急激に減少していることが影響しています。2018年現在の日本の総人口は約1億2,500万人ですが、年々減少しており、2060年には9,000万人台を割り込むと推定されています。しかも、今後数十年にわたり合計特殊出生率が1.4~1.3とさほど変わらないことが推定される中、高齢化率は急騰し、2060年には65歳以上の人口割合が4割近くになると推定されています。

つまり、日本の人口は確実に減少していく中で、高齢者の割合ばかりが急激に増えてしまうのです。こうした状況が迫る中で、現在のようにヤング、ミドル層のみが働いてシニアを支える社会の構造は、不可能になっていきます。さらには、正規職員と非正規職員の賃金格差、労働時間の格差のある状況では、家庭の構築や維持のみならず、個人の生活の維持も不可能になり、日本の経済も社会も成り立たなくなってしまいます。そうした状況が予測できる中、老若男女、あらゆる人々が労働に参加しやすい環境と条件を整備し、賃金格差をなくしていく法律の整備が急がれていたのです。

こうした背景の下に成立した働き方改革関連法によって、1.同一労働同一賃金、2.長時間労働の是正、3.高齢者雇用促進、4.女性や若者の活躍しやすい労働環境、5.テレワークなどを活用した柔軟な労働環境、6.病気の治療と仕事の両立、などの項目が今後、実現されていきます。
 

時間外労働の上限規制がスタート……2時間超え残業が当たり前の職場は注意!

このように働き方改革関連法において定められる項目は多岐にわたっていますが、なかでもいち早く新制度が施行されるのが、「長時間労働の是正」です。

具体的には、週40時間を超えて労働が可能となる時間外労働の限度は、原則として月45時間とされ、それを超えられるのは年6回までとなっています。つまり、労働日数が1日8時間の労働時間で月に20日働く人の場合、2時間から2時間半の残業が毎日続くような働き方をしていると、法律違反になる可能性が高くなるということです。臨時に上限を超えることがあっても、2~6カ月平均の時間外労働が月80時間以内、単月で100時間未満(いずれも休日労働を含む)とされ、これを超えることはできないとされています。

この時間外労働の上限規制は、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から施行されます。
 

残業を是とする働き方では、仕事と家庭の両立が成り立たない

これまでの日本では、上司が退社するまでは部下も残って働き、残業の多い職員ほど仕事熱心と見なされる風潮がありました。しかし、このように長時間労働を是とする社風は、残業可能な職員とそうでない職員との賃金や待遇の格差を生み、ひいては、仕事と家庭の両立の阻害、心身の健康の損害などの弊害をもたらしてしまいます。

そこで、今回の働き方改革関連法では罰則付き時間外労働の上限規制により、日本人の働きすぎ傾向に歯止めをかけることが改革の目玉の一つとなっているのです。

ちなみに、2~6カ月平均で月80時間を超える、あるいは単月で100時間以上の時間外労働を行った人が、脳卒中や心臓病を発症した場合には、労働災害に認定されやすくなり、これらの時間外労働時間は労災上の「過労死ライン」と呼ばれています。これらの時間を上回って働くと、疲労の回復に必要とされる1日あたり6時間以上の睡眠時間を確保できない可能性が高くなるためです。

今回の働き方改革関連法では長時間労働の是正は行われるものの、繁忙期にはこれら過労死ラインぎりぎりまでの長時間残業は可能になるため、まだまだ規制が緩いといった批判もあるのです。
 

一定の休息時間を確実にとれる「勤務間インターバル制度」

睡眠をとる女性

長時間残業をした日でもしっかり休息を確保し、始業時間を調整できる「勤務間インターバル制度」の導入

とはいえ、繁忙期にはどうしても長時間残業をしなければならない職場もあります。そこで、長時間労働による疲労の蓄積を防ぐ効果が期待される制度として「勤務間インターバル制度」があり、今回の働き方改革関連法に努力義務として盛り込まれています。これは、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定の休息時間を設けるという制度です。

インターバルの設定時間はさまざまですが、たとえば最低12時間の勤務間インターバルを設定した場合、前日22時に退社した人は、翌日は早くても10時に出勤すればよいことになります。長時間残業後、睡眠をしっかりとって疲労を回復させるためにも、勤務間インターバル制度は健康管理上有効に働くものと思われます。ただし、10時間未満などの短いインターバルを設定し、長時間残業後の翌朝に結局定時出勤しなければならないような状況になるのであれば、インターバルを設定してもあまり意味がないように思われます。

今後、人口が減少していく日本では、老若男女すべての人にとって、仕事と家庭が両立しやすく働きやすい環境が整備され、誰もが働くことを通じて安心した生活を築きやすい社会が実現されていく必要があります。そのためにも、長時間労働の規制などの改革の目玉となる法律の運用のみならず、女性の活躍推進や高齢者の雇用促進、病気を治療する人の労働支援などの領域の法的整備も早めに進められ、運用されていく必要があると思います。
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