安寿ミラさん(一等船室客・アイダ役)インタビュー


インタビュー第五弾でお迎えするのは、一等船室客のアイダ・ストラウス役、安寿ミラさん。実業家・政治家の夫人として40年間、夫に従ってきた彼女が、初めて逆らって発する一言とは? 人間の魂の強さ、美しさを体現するような役柄にどう取り組んでいらっしゃるか、たっぷり語っていただきました。
 
安寿ミラ 長崎県出身。元・宝塚歌劇団花組トップスター。95年に退団後は『グランドホテル』等のミュージカル、『グリークス』等のストレートプレイなど幅広く活躍。振付家としても活動している。

安寿ミラ 長崎県出身。元宝塚歌劇団花組トップスター。95年に退団後は『グランドホテル』等のミュージカル、『グリークス』等のストレートプレイなど幅広く活躍。振付家としても活動している。(C)Marino Matsushima

”ああいう夫婦になりたい”と思っていただけたら嬉しいです

――初演について、どんな思い出がおありでしょうか。
 
「まずはトム(・サザーランドさん)が、今とは全然違う人格でした(笑)。彼にとっては日本での初仕事で、周りは日本人ばかり。心細かっただろうし、私たちも初対面ということで、お互い硬かったと思います。そんな中で、タイタニックについてリサーチしてきたことを、トムが場面ごとにたくさん話してくれて、彼の真面目さも伝わってきたし、エピソードもどれも興味深かったんです。いつしか皆が同じ方向を向いてタイタニックの世界に入り込んでいけました。
 
今のトムは、“3年前のあなたはどこに行ったの?”というほど打ち解けましたね。前回は一言も話さなかった日本語で、歌を歌っているほどです(笑)」
 
タイタニックへの乗船は”たまたま”だった
『タイタニック』アイダ役・安寿ミラ

『タイタニック』アイダ役・安寿ミラ


――安寿さんが演じるアイダは、今も実在するアメリカの高級デパート、メイシーズのオーナー夫人。どのような状況で、どんな心境でタイタニックに乗船したのでしょうか?
 
「彼女はドイツ出身で、実業家であり政界にも進出したストラウスさんに40年間連れ添った女性。口答えもせず献身的に夫を支えた人でした。(ヨーロッパでの病気療養から)アメリカに帰国するにあたり、乗ろうとしていた船が動かなくて、たまたま乗ったのがタイタニックだったんです。
 
ところが船が氷山に衝突し、救命ボートには女性と子供しか乗れない、ということになり、夫に“ボートに乗りなさい”と言われたアイダは、夫に初めて逆らいます。最愛の人に最後までついていく、という強さを持った女性なのだと思います」
 
”この人とだったら最後の苦しみも乗り越えられる”

――夫からすれば愛する人には助かってほしいという思いがあると思いますが、それを受け入れるより、ともに死ぬことを選ぶのですね。
 
「きっとそれまで互いにいろいろなところで支え合ってきて、ここで離れて別々に死ぬより、一緒に死にたかったんだろうと思います。船の沈没までには時間がかかるので、亡くなるまでには物凄く苦しい時間がある。でも、この人と一緒だったらきっとその苦しみも乗り越えられると思ったんじゃないか、とトムは言うんですね。それほどの(強い)夫婦愛です。
 
トムには、ボートに乗る、乗らないで言い合うシーンは“喧嘩”でいい、と言われています。40年間、いろいろあったとしてもそこまで衝突するというのは初めてだったのではないでしょうか。でも、アイダとしてはそこで勇気を振り絞るというより、本能で逆らったのではないかと思います。“何を言ってるの、あなた”と。彼女が最後に言った“あなたがいらっしゃるところに私も参ります”という台詞は、生存者が実際に聞いていた言葉です。凄い人だし、到底まねできない、と思いますね。できますか? 私なら“はい、あなたの分も生きます”と乗り込んでしまうような気がします(笑)」
『タイタニック』前回公演より。撮影:宮川舞子

『タイタニック』前回公演より。撮影:宮川舞子


――それまでの人生に対する満足感もあったでしょうか。
 
「会社を息子たちに譲って引退というときに乗船したので、ひととおり生きたという実感はあったかもしれません。これが若い夫婦ならまた違う感覚だと思います。ジム・ファレルとケイト・マッゴーワンは全く違う台詞を交わしていて、それを私たちは真横で、“若いのね”という感じで聞いているんです」
 
――ストラウス夫妻、ジムやケイトのみならず、本作では様々な人間模様が描かれます。この作品世界に生きる中で、どんなことを感じますか?
 
「乗客にしても乗員にしても、それぞれにドラマがある。単に船が沈んだだけではなく、たくさんの夢が一度に散っていった。これだけのドラマが一緒になっていて、しかも実際にあった悲劇。なんという題材だろう、と感じます。個人的には、なかでも自分の身を投げうって乗客を助けようとする乗員たちに尊敬の念を抱きますね。仕事を全うした方たちだと思います」

”創っては壊し”の稽古で、作品の感動が劇的に増幅

――現在、お稽古も佳境に入ってきたと思いますが。
 
「早い時期に1幕、2幕とも粗く出来上がって、今はそれを壊している段階です。出はけ(登場する場所、舞台からはける場所)も変わってきたし、小道具なども変わったり……。これは初演にはなかったことで、トムとしてはまず一通りの形を見ようと思って通してみて、そこから細部を追及しているんだと思います。確かに改変していくごとにすごくよくなっていて、感動が増してきています」
 
――改変というのは、トムから“ここはこうしてみたら?”とアイディアが出て、皆さんが対応されるという感じでしょうか。
 
「というより、具体的に“そこではなく、ここに来てください”と指示されて、はじめは私たちはゲームの駒のように、“はーい”と動くという感じなのだけど、動きにしても演技にしても、細かい変更が重なってゆくなかで、だんだん芝居が変わってゆくのが感じられる。はっとする瞬間がたくさんありますね」
 
キャスト変更で前回とは全く異なるカラーも

――今回はキャストも一部変わっていますね。
 
「一番変化を感じるのは、船長とイスメイです。前回船長を演じた光枝(明彦)さんは誰もが認めるおおらかさがありましたが、今回の(鈴木)壮麻さん演じる船長はものすごく冷静沈着で、多くを語らずとも“私がやる”という気概がみなぎっていらっしゃいます。イスメイは前回、壮麻さんが憎らしさの中にも淡々としたところがあったけれど、今回の(石川)禅さんのイスメイは見るからに憎らしくて(笑)、ここまで変わるんだと。
 
キャロラインとチャールズのカップルも、前回は円熟味のある二人だったけど、今回は相葉(裕樹)君と(菊池)美香(さん)だからぐっと若くなって、雰囲気が全然違います」
 
――そんな中で、アイダさんについては今回、どんな変化があるでしょうか。
 
「いまだにいろいろ探っています。前回は全部をチェストボイスで歌っていたのですが、今回はもう少しやわらかい声を使ってみようと思います。トムは、歌唱法がどうということよりここ(胸を抑えて)が大事な人だから、そこにはこだわっていないんですよ。
 
芝居の部分では、さきほどもお話した通り、救命ボートのシーンが今回、“喧嘩”のような言い合いになっています。前回は私の台詞をきっかけにお客様が涙してくださっていたと聞きましたが、今回はどうなるでしょうか。
 
また、最後の二人のデュエットは今回、トムから“死を選んだ二人にとっては結婚式のようなものだからハッピーに”と言われていて、だから指輪を交換したりする。その幸せそうな様子が涙を誘うというようにやりたい、ということなのですが、昨日の稽古では“ハッピーでいいんだけど、やっぱり怖さであったり、泣きも入れてほしい”と言われて、難しいなぁと感じています。自分が考えられる精いっぱいのところで、役を膨らませていけたらと思っています」
 
実はこんな役も演じています

――本作では多くのキャストが複数の役を演じるのも特色ですが、安寿さんは……。
 
「はい、三等客役もやります。ここでは、(小野田)龍之介(さん)と(上口)耕平(さん)と私とで勝手に三兄妹という設定にしていて(笑)、一番発散できる自由なシーンです。冒頭の裁判シーンにも一般の人として出てきます。
 
キャストの中には6役やる人もいて、稽古場では衣裳をつけないので、お互い、今どの役を演じているのか、わからなくなることも。“今、誰?エッチス?”など、確認しながらやっています。みな、(演じ分けを)楽しみながらやっていますよ」
 
――どんな舞台になりそうでしょうか。
『タイタニック』前回公演より。撮影:宮川舞子

『タイタニック』前回公演より。撮影:宮川舞子

「前回より劇場のキャパシティが広くなって、前回は階段しか動かなかったけど今回は船全体が前に出てくるようになっています。その分スタッフさんが大変だと思いますが、スケール感が段違いですし、根底に流れてるものは一緒だけど、ビジュアル的にはかなり変わるのではないかと思います」
 
――ご自身のキャリアの中で、今回のアイダ役をどういうものにしたいと思っていらっしゃいますか?
 
「自分より年上の役は、アイダが初めてです。実在の人物で資料も残っているし、アメリカの各地に銅像が立ってるアイダさんを演じることができ、とても有難いですね。尊敬の気持ちを忘れずに演じたいです。そして“ああいう夫婦になりたい”と皆さんに思っていただけるといいなと思っています」

*次頁で加藤和樹さんインタビューをお届けします!