設計士アンドリュース役・加藤和樹さんインタビュー

 
インタビュー・シリーズの最後を飾るのは、設計士アンドリュース役の加藤和樹さん。初演では初の主演ということでプレッシャーもひとしおだったと思われますが、3年を経てお会いした加藤さんは、ぐっと座長としての頼もしさが増し、いっそうの熱さをもって本作について、そして稽古の様子について語ってくれました。出航直前の『タイタニック』カンパニーを代表する言葉の数々、ぜひじっくりとお読みください!
加藤和樹 愛知県出身。05年『ミュージカル テニスの王子様』で脚光を浴び、翌年CDデビュー。『1789』『フランケンシュタイン』『マタ・ハリ』などのミュージカル、『罠』『ハムレット』などのストレートプレイをはじめ、舞台・映像・音楽と幅広く活躍している。

加藤和樹 愛知県出身。05年『ミュージカル テニスの王子様』で脚光を浴び、翌年CDデビュー。『1789』『フランケンシュタイン』『マタ・ハリ』などのミュージカル、『罠』『ハムレット』などのストレートプレイをはじめ、舞台・映像・音楽と幅広く活躍している。

 

生き方を学ばせてくれた作品に
再び参加する喜び

 
――15年の『タイタニック』は大きな話題を呼び、連日大盛況でした。加藤さんにとっても思い出深い公演ではないでしょうか。
 
「刺激的でしたね。僕にとっては海外の演出家との初の仕事で、『タイタニック』をやる心づもりとして、(ジェームズ・キャメロン監督の)映画版を改めて見返してから稽古に臨みました。
 
描かれていることとしては、映画版ではジャックとローズに焦点が当たっている以外は、(映画版とミュージカル版は)それほど違わないのですが、稽古が始まってみると、トムの『タイタニック』は特定の人物ではなく、乗客・船員たち一人一人に焦点を当て、群像劇として新たに作り直しているものなのだとわかりました。彼のタイタニック号に対する思いの強さや、その表現の仕方というのは、今まで経験したことのないもので新鮮でした」
 
――何が違ったのでしょうか?
 
「極端に言えば、アンサンブルがいない。みんなが主役のような存在なんです。また、タイタニックは人の手によって作られたものなので、セットもすべて人の手で動かすというのがトムのプランで、キャストが自分たちでセットを動かしたり、無駄なものをそぎ落とし、よりシンプルな芝居になっていきました。
 
楽曲が十分に表現しているのでということもあるけれど、なるべく役者に大げさな表現をさせない。よりリアルな演技を追求するなかで、お客さんに背中を見せることもアリなのだと言われ、見せ方の違いをすごく感じました。これでいいのかなと思いながら稽古していた印象がすごくあります」
 
――この特集のトップバッター、藤岡正明さんは、本作が生き方に影響を及ぼしている気がするとおっしゃっていましたが、加藤さんはいかがですか?
『タイタニック』前回公演より。(C)宮川舞子

『タイタニック』前回公演より。(C)宮川舞子


「ありますね。トム曰く、タイタニックの沈没は誰かのせいで起こった事故ではなく、偶然が重なって起こった事故。そう思うと、自分自身、改めて思うところがあります。
 
今の世の中、当たり前のことが当たり前でなくなってきていて、自分には起こらないだろうということも、起こりえますよね。例えば天災が増えて、自分は絶対大丈夫と思っていても大丈夫ではなくなってきている。そんななかで自分は何をすべきなのか、ということを(本作に)教えられた気がします。自分はどう生きていきたいか、いくべきなのか。あるいは逃げ場がない状況下で、自分は何を、どう生きた証を残していくのか。どうやって自分の人生の最期を迎えるのかというのを学んだ気がします」
 
再演に取り組むにあたっての心構え
 
――今回の再演までの間に、何か準備されていたことはありますか?
 
「『タイタニック』に向けて何かをしたということはないのですが、この3年半ぐらいの間に自分自身も経験を重ねている分、まっさらな気持ちで臨もうと思っていました。個人的なことですが、最近、再演ものが続いていて、再演ものをやるには一度“忘れる”ということがすごく大事だと気が付きました。前回の記憶をベースにしてしまうと、“これでいい”という意識になりがちです。トムも言っていたけど、新たに作るという意識でやらないと前作は越えられないし新たな発見もないだろうと、そこはすごく意識していました」
 
――豪華客船に乗ってみたりといったことはされませんでしたか?
 
「しませんでしたが、乗ってはみたいですよ。実際にデッキの作りがどうなっているのか。そこから見える景色はどんなものか。経験することでより(『タイタニックの』)彼らが見ていた景色が見えるんじゃないかと思いますね」
 
――今回、(前回から)大きく変わった部分はあるでしょうか。
 
「具体的なことで言うと、セットがちょっと変わりました。それに対応する動きなどは一から作っています。でも、全体的な見た目としてはそれほど変わっていないんじゃないかな。劇場が変わるので大きくはなるけれど、やること自体を大きくするわけではないので。大きく見せようと(演技)してしまうと伝わるものが減ってしまうので、やることは変わりません。
 
あと、今回、キャストが半分くらい(前回公演から)代わっているので、新しい方々に合わせて演出が変わった部分もあります。僕が演じるアンドリュースで言えば、船長とイスメイ役が代わったので、すごく細かいところで、彼らに対するアプローチが変わっています。特に(鈴木壮麻さんから石川禅さんにバトンタッチした)イスメイが全く違うキャラクターで、面白いですね。イスメイの表情、攻め方、攻められ方が変わってきています」
 
なぜアンドリュースが群像劇の中心に据えられているのか
 
――本作は群像劇ですが、その中でもアンドリュースは中心に据えられています。なぜだと思われますか?
 
「というと?」
 
――筆者が感じたのが、登場人物がそれぞれにタイタニック乗船に際して夢を持っているなかで、アンドリュースはそれを表に出さない。そんなスタンスの違いによるものなのかも、という気がしたのですが。
 
「そうですね、アンドリュースは設計士で、いわばこの船の生みの親。みんなにとって出発は夢の始まりだけど、彼からすれば船は処女航海が終わった時に初めて完成したといえるわけで、まだ夢は始まっていないともいえます。
 
劇中の台詞にもあるけれど、実は船には問題点もあって、完璧主義者の一面を持つアンドリュースとしてはそれが許せないし、若干の不安もある。出発してからも気にかかっているので、ほかの皆とはちょっと空気の違いがあるんですよね。
 
イスメイなんかは“祝おうじゃないか”と言ってくるけれど、彼としてはまだ旅は始まったばかりだし、むしろ到着してから祝杯をあげるべきじゃないかと思っている。だから出航の日は複雑なんですよ。晴れやかな日だし、これは最高の船だと歌いもするけれど、完璧かどうかは、まだわからない。沈まないとも断言できないわけです」
 
より繊細に、揺れ動く内面を見せていきたい
 
――今回の稽古で、アンドリューについて新たに見えてきたものはありますか?
『タイタニック』前回公演より。(C)宮川舞子

『タイタニック』前回公演より。(C)宮川舞子


「彼の繊細な部分ですね。例えばイスメイに、船は作ったのはおまえなんだからこういうことはわかるだろうと尋ねられて、もちろんわかるし、説明したいのはやまやまだけど、まだわからないところがあるし、どういう問題があるか、出港してみないとわからないという不安な心境で対応している。彼の中に起こってる感情の浮き沈みを、より繊細に見せていければと思っています」
 
――ご自身の中で、特にテーマにしている箇所はありますか?
 
「2幕のいさかいのシーンと、“Andrew’s Vision”ですね。いさかいのシーンは、先ほどもお話しした通り、実際には事故は誰のせいというわけではないけれど、人間は誰かになすりつけたくなるんですよね。そのあと、アンドリュースは一人で振り返って、隔壁の高さを高くしておけばと自分を責めたりもするのですが。
 
それまで和気あいあいとしていた人たちが、事故をきっかけに汚い部分を見せる。“タイタニック”という、いわば一つの町のような空間にはいろいろな人間がいて、ストラウス夫妻たちが人間の美しさを描くいっぽうで、あんなに冷静だったアンドリュースがあんな姿を見せてしまう。人間って醜いし愚かな生き物だけど、そんな中にも美しい部分もあって素晴らしい、とすごく感じます。そういう部分も担えたらと思いますね。それがアンドリュースが見た最後の景色だと思うので」
 
――もし自分がアンドリュースだったら……と想像することはありますか?
 
「うーん、難しいですね。自分がもし設計士だったら同じような行動をとったとは思います。やっぱり(設計に)問題があったわけだし、それはもう悔やんでもしょうがないことではある。でも彼のように“ここをこうすればよかった”とじっくり(設計図に改めて)向き合えるかというと、そこまでは行けないかもしれません。自分の命が大事だし、船が沈む運命にあることは誰よりも早くわかっている。そういう状況下の中でパニックを起こさず冷静でいられるか。もちろんアンドリュースも冷静ではないけれど、もっとパニックになってしまうような気がしますね」
 
――稽古は今、どんなご様子ですか?
 
「一通り全体像が見えてきて、そこで浮き上がった問題点をみんなで解消しているところです。これからまだまだ変わっていくと思います」
 
志を同じくする皆で、高みを目指しています
 
――どんなカンパニーでしょうか?
 
「非常に楽しいです。先輩方がひっぱって下さるし、トムもほかの国でも上演を重ねてもまだやり足りない作品だと意欲を持って演出しています。やっぱりカンパニーによって違うものが出来上がるのは当たり前のことで、この日本で再演をやる意味を彼はちゃんとわかっているし、海外でやったものをそのままやるんじゃなくて、僕らに合わせて作っているところにすごく共感できます。今回は初参加の方もいらっしゃるので、共通認識をもっともっと増やしていってバランスのいい作品というか、もっともっとブラッシュアップしていければと思っています」
 
――トムさんとは相性の良さを感じますか?
 
「考え方は似ていると思うし、自分にないものをたくさんもっていると感じます。(一方通行ではなく)すごくみんなに聞いてくるんですよ、“どう思うか”って。通し稽古をして俳優が“疲れた”というと、“そうなんだよね、疲れるんだよこの作品は。疲れないほうがおかしい”と答える(笑)。役者の気持ちもわかるし、作品はこうあるべきというビジョンも持っている。みんなトムを好きになっていきますね。作品に対してすごく思いを持っているし、誰よりも“観客である”というか、見ていて楽しそうですよ。その彼の空気感が、このカンパニーの雰囲気の良さにもつながっていると思います」
 
――今回の再演、手ごたえを感じていらっしゃいますか?
 
「正直、まだわからないです(笑)。早替えの段取りだったり、細かい課題をクリアしていった先にどうなるか、初日が開くまでは何とも言えません。でも確実に、初演より良くなるだろうなという確信はあります。今回、続投しているメンバーは、新たな感情を加えることができるし、新しく入った人たちは新鮮な気持ちで作品に入っていく、それが相乗効果になって互いに高め合っていると思います。一つ一つクリアしながら、みんなで高みを目指していければ。今のところ、すごくいいペースで来ているので、まだまだよくなるだろうなという感覚はあります」
 
“生き残る側”にも興味があります
 
――加藤さんは近年、今回のアンドリュースのように、劇中で命を落とすドラマチックな役を多く手掛けていらっしゃいますが、ご自身としてはどう受け止めていますか?
 
「結果的に死ぬ役が多いんですよね……(微笑)。でも、やりがいはすごくあります。彼らは自分が死ぬなんて最初からわかっていないけれど、その運命に向かって、生きた証を舞台上でどう残すかということを考えます。ポジティブなシーンがあればあるほど、その後の展開がドラマチックになっていくので、冒頭からきちんと積み上げていけたら、と思っています。
 
でも『タイタニック』に関しては、生き残る方もつらいですよね。(多くの人が死ぬのを目の当たりにしながら生き残るので)大きなものを背負いながら、何かを感じながらずっと生きていかなければならない。死んでしまう側はそこで終わりだけど、残された人々はその先も人生を歩んでいかなければならない。そういう意味では、そちらの(生き残る)側も演じてみたいですね。どう生きるか。そしてどう、最期の時を迎えるか。芝居を通してずっと考えてきています」

*公演情報*タイタニック』2018年10月1~13日=日本青年館ホール、10月17~22日=梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

*次頁で2018年『タイタニック』観劇レポートを掲載します!