渡辺大輔さん(三等船室客・ジム役)インタビュー
インタビューシリーズ第四弾は、渡辺大輔さん。同じ三等客の女性ケイト・マクゴーワンと恋に落ちる、ジム・ファレル役を演じます。ケイトとの恋を含め、思いがけない人生を歩むジムですが、それは偶然? いえ、ジムの真摯な生き方ゆえに起こったことではないか、と渡辺さんは想像します。役作りの面白さを感じさせてくれる渡辺さんのお話をお届けします。渡辺大輔 82年神奈川県生まれ。06年『ウルトラマンメビウス』で俳優デビュー、07年『ミュージカル テニスの王子様』でミュージカルデビュー。『ちぬの誓い』『南太平洋』『1789 バスティーユの恋人たち』『ロミオ&ジュリエット』『京の螢火』など数多くの舞台で活躍している。2018年12月~『オン・ユア・フィート!』、2019年2月~『ロミオ&ジュリエット』出演予定。(C)Marino Matsushima
一瞬、一瞬の感情を大切に、僕なりのジムを作りたい
――渡辺さんは今回が初参加ですね。「前回公演はスケジュールの都合で残念ながら観られませんでした。ついこの前まで(『1789』で)一緒だった(加藤)和樹(さん)からは、“とにかくトム(・サザーランドさん)の演出が面白くて、楽しい現場だ”と聞いています。前回どうだったのかを気にされる方もいらっしゃると思いますが、僕としては、自分は自分。下手な先入観を持ちたくないこともあり、資料映像も拝見していません。僕なりのジム・ファレルを作れればと思っています」
――海外の演出家とのお仕事は初めてですか?
「『ブラッド・ブラザース』(グレン・ウォルフォード演出)で経験しています。もともと海外にも興味があって、ミュージカルが題材の映画などもよく観ていたので、海外の演出家さんだとこういう感じなんだなというのが新鮮でした。もちろん人にもよるとは思いますが、かっちり決めないところが好きでした。トムさんがどういう演出をされるかはまだわかりませんが、まずは自由にやってみようと思っています。彼自身が相当のタイタニック・マニアだと聞いているので、(物語の背景の)深い部分もうかがってみたいですね」
合唱するナンバーが多い『タイタニック』の音楽
――作品に対してはどんな印象をお持ちですか?
「まず音楽がとても素晴らしいと思いました。さきほども歌唱指導の方と、この作品はコーラスが多いという話になったんですよ。ミュージカルにはソロ・ナンバーが連続する作品も多いけれど、『タイタニック』の場合、合唱する部分が多くて、それだけ群像劇としての面が大切にされているんだと思います」
――ミュージカルにおける合唱というと、合わせつつも、同時にそれぞれの役柄もしっかり表現する、といった感じでしょうか?
「もちろんです。それぞれの役、思いを表現することが求められると思います。本作のキャラクターはそれぞれに異なる背景、夢を持っていて、例えば、タイタニックはイギリスの船ですが、僕の演じるジムはアイルランド人で、アメリカで警官になるという夢を持っています。こうした“役柄”に、自分が今、持っているもの(持ち味)をプラスアルファした歌にしていけたら。皆さんと作っていくなかで、どんな化学反応が起こるか、凄く楽しみです」
――渡辺さんが演じるジム・ファレルは、新天地アメリカでの新たな人生を夢見てタイタニックに乗り込む元・漁師。出番が多いほうではないにも関わらず、清新な印象を与えるお役ですね。
「三等客という、過度に裕福ではない人物だからこそ、観ている方に近い、リアルな存在なのかな。本作は豪華客船の物語なのでいろいろな(階層の)人物が出てきますが、危機に遭ったら人間はみな平等、ということを持って演じてみたらどうなるだろう、などとも考えています」
無我夢中の中で起こる出来事。その時の感情を大切にしたい
――船が沈むことが不可避となり、ジムの運命は限りなく絶望的に映りますが、終盤に思いがけない展開を見せます。
「ジムは目の前で起こることに対して真摯に、素直に行動する人間だと思います。もし自己中心的な人間だったら、真っ先に救命ボートに乗り込んでいたと思うんです。映画版の『タイタニック』でも、こっそり乗って、他の人たちから顔を隠していたような男性がいたじゃないですか。けれどもジムは無我夢中で女性や子どもを助けることに徹していたので、最後の展開には彼自身、果たしてこれで良かったのかと悩んだかもしれません。
命の危機に直面したとき、瞬時に何が正解で何が不正解かなんてわからない。今回、その描写が(演出として)あるかどうかはまだわかりませんが、例え台詞には無かったとしても、その時の感情を大事にしたいですね。タイタニック号の事故はつい最近まで訴訟が続いていたそうで、今だ風化していないし、させてはいけない事件です。(乗船客や乗員の)ご遺族、子孫、関係者の方々の思いも様々にある。そんな題材の舞台を演じるにあたって、皆さんの記憶に残る作品になるよう、人間ドラマとしての部分で人間味を出して行きたいと思っています」
――ジムはケイト・マクゴーワンという、同じく三等客のアイルランド女性と恋に落ちる人物でもありますが、出会ってすぐ、という感じではないようですね。
「はじめは彼女に対して、“どうしてそういう生き方なんだ?”と受け入れられない部分もあります。ただ、徐々に言葉を交わさずとも通じ合うものが増えてきて、いつの間にか彼女を目で追うようになる。でもいざ目の前にしたら、どう話しかけようかと不器用さが滲み出たり。そういう恋に落ちていく過程の、御覧になる方の口元がつい緩んでしまうような、もしくはキュンキュンするような初々しさを(ケイト役の小南満佑子さんと)二人で出していけるといいですね。
ジムならこう動くのではないかという演技の参考に、最近はアイルランド人に関する本を読み始めているんですよ。物事に対するリアクションって、国民性によっても違ったりするじゃないですか。煮詰まった時にはそういう資料がヒントになるので、アイルランドの男性はどんな感じなんだろう、と思いながら読んでいます」
プライドをとっぱらい、全てを楽しさに変える
――お話をうかがっていると、役作りというものに対して研究熱心でいらっしゃるし、何より楽しんでいらっしゃるように感じますが、昔からですか?
「以前はどちらかというと、一人で追及し、悩むタイプでした。でもいろいろな方にご指導いただくうち、もっと人に頼っていいということを学びました。昔は周囲に頼ることを、心のどこかでカッコ悪いと思っていたけれど、最近はそういうプライドはどんどんとっぱらっています。その結果なのかはわかりませんが、どんなことも楽しさに変えられるようになりました。仕事もプライベートも楽しく充実していることが一番だと思っていますし、まだまだ先だとは思いますが、 死ぬ時に“最高の人生だった、後悔はない!”と思える日々を過ごしたいんです。
今回の『タイタニック』も、キャストが変わるというだけで、すでに前回とは絶対違うものが生まれると思いますが、トムさんを中心に、ご一緒する皆さんとたくさんコミュニケーションをとって、新たな『タイタニック』を創り上げていきたいです。ジムをはじめ、キャラクターそれぞれの物語を通して、さまざまなことをお客様に感じていただけると嬉しいですね。群像劇ですので、一度の観劇では見きれない舞台に仕上がるような気がしています」
*次頁で安寿ミラさんインタビューをお届けします!