鈴木壮麻さん(スミス船長役)インタビュー

『タイタニック』特集、今回はスミス船長役・鈴木壮麻さんへのインタビューをお届けします。前回公演ではタイタニック号のオーナー、イスメイを演じた鈴木さん。トム・サザーランドの演出に大いに感銘を受けたそうですが、今回はスミス船長役。新たな役柄に、どう臨んでいらっしゃるでしょうか。
 
鈴木壮麻 東京都出身。82年、劇団四季入団。『オペラ座の怪人』『美女と野獣』等に出演し98年退団。その後も主にミュージカルを中心に出演。第23回読売演劇大賞優秀男優賞を『ミュージカル サンセット大通り』『End of the RAINBOW』 で受賞した。今年はストレートプレイ『WATER by the SPOONFUL』、NHK青春アドベンチャー『暁のハルモニア』に出演する等幅広く活動している。2001年『フランケンシュタイン』再演への出演を予定。(C)Marino Matsushima

鈴木壮麻 東京都出身。82年、劇団四季入団。『オペラ座の怪人』『美女と野獣』等に出演し98年退団。その後も主にミュージカルを中心に出演。第23回読売演劇大賞優秀男優賞を『ミュージカル サンセット大通り』『End of the RAINBOW』 で受賞した。今年はストレートプレイ『WATER by the SPOONFUL』、NHK青春アドベンチャー『暁のハルモニア』に出演する等幅広く活動している。2001年『フランケンシュタイン』再演への出演を予定。(C)Marino Matsushima

決して“清廉潔白”ではない、船長の人間くささを出していけたら

――まずは前回公演の思い出からうかがえますでしょうか?
 
「(演出家の)トム(・サザーランドさん)と出会えたということが、素晴らしい体験でした。演出の“機微”というか“醍醐味”というものを体感することができたと思っています。具体的な想念にもとづいた裏付けのある演出を目の当たりにして、言葉を失うほど感動しましたね。その後、彼が日本で演出した『グランドホテル』『パジャマゲーム』も、トムの美学があますことなく作品の細部にいたるまで詰め込まれていて、すごい人だな、だからこそ『タイタニック』もああいうふうに作り上げたのだと感じました。
 
例えば、それまで僕は、舞台上で他の人物と喋るとき、相手が横にいたとしても体を客席に向けながら喋るということを、様式美として経験してきました。でも前回の『タイタニック』の稽古で、同じことを加藤和樹(さん演じる設計士アンドリュース)と光枝(明彦)さん(演じるスミス船長)とイスメイが互いに訴え合う場面でやったら、トムが“そこはちゃんと向き合って、対峙してほしい”と言ったんです。“それだとお客さんからは横しか見えませんが”と言うと、“(怒りを)ちゃんとぶつけあって、中心でぶつかりあいのパワーが生じるようにやってみよう”とおっしゃり、やってみたら、角度をちょっと変えるだけなのに、“目から鱗”な体験でした。
 
以来、なんでこれをやってこなかったんだろうという自戒を込めつつ、相手としっかり対峙するということを演技の中で取り入れるようになりましたね。そうやってエネルギーを相手にしっかり発することで、また自分にフィードバックされるということの面白さを感じています。そういう状況になる度、トムに“有難う”と思ったりしています」
 
――音楽的な魅力についてはいかがでしょうか。
 
「グランドミュージカルらしく、凄い音楽だなと思います。特に幕開きの20分ぐらいのナンバー、あれはまるで映画のように、様々な人物が緻密に紹介されていって、醍醐味ですね。歌う側としてはけっこう大変です。なにせテンションをずっとキープして、入れ替わり立ち代わりいろいろなことが起きながらコーラスの厚みを増していって、出航していくまでの楽曲です。僕はまだ“飛鳥2”を観たことしかないけれど、タイタニックはそれくらいボリューミーな船なので、このナンバーぐらいの楽曲でないとその巨大さというのが音に転換できないんだろうなと思いますね。“海は広いな大きいな”ぐらいの小節数ではとても足りない。いかにもタイタニックの出航までの曲らしいと感じました」
 
”人間の業”を感じたイスメイ役

――イスメイという役はいかがでしたか?
 
「はたから見たら“お前ほんとに傲慢だぞ”ということが、彼の中ではとても正義なことであって、そういう意味では一生懸命生きていたんだろう、誰もが陥りやすいところなんだろうな、と思いながら演じていました。後に裁判にかけられるほど、取り返しのつかないことのきっかけを作った男ではあるので、そこのところでは自責の念にかられる一方で、理想を追い求めるということにおいてはある種すごい情熱を持っていたというところが、共感できる部分ではありました。そこの熱量がなく、優柔不断な生き方だったら、たぶんあのようなことにはならなかったと思います。
 
最後の最後、彼は船が沈む直前に“僕はただの乗客だから”と言い残したそうです。とても悲しい気持ちになりますね。ただ、もしもあのような状況に置かれた時、自分はどうするだろう。もしかしたら誰かの頭を踏みつけてでも生き残ろうとして、水の無い方にあがいて昇って行こうとしている自分がいるかもしれないし、なんともそこは人間の業というか、自分には判断がつかないんじゃないかと思います。そこをふみとどまって、潔い方に身を振れる、女性と子供たちに救命ボートの席を譲って自分は船に残れる人って、いったいどういう精神構造の人なんだろう、とも思います」
 
――今回はスミス船長役ですね。
『タイタニック』スミス船長(鈴木壮麻)

『タイタニック』スミス船長(鈴木壮麻)


「とても情熱家で野心家で、プライドもある人物です。たたきあげの人物で、14歳ぐらいから海の上の世界に入り込んで、がんがんのしあがってきた。徐々に信頼を得て行って、権力と結びつくことで大きく幅を広げて行き、ホワイトスターライン社のすべての船に乗るまでになりました。世界一安全な船長を自負するいっぽう、小さな事故は見過ごしており、清廉潔白な人というわけではありません。そんな彼の人間くささも出せたらいいなと思います」
 
――そんな彼にとって最後の航海で、とんでもない事態が発生し、先ほどおっしゃっていたイスメイ、アンドリュースとの言い合いのナンバーが展開します。
 
「きっかけを作ったのはイスメイではあるけれど、実際行動に起こしたのは船長であって、いくらオーナーが指示を出したからと言って、それを阻止することはできた。それだのにしなかった。悪い人間だとは思いませんが、清純ではないし、品行方正でもないと思っています」
 
――(悪いのは)誰だ誰だ、と罵り合っているのは、自分も悪いと承知の上で、ということでしょうか。
 
「そうですね。今でもよく、あんなことしなければこんなにならなかったという大きな事故が起きるじゃないですか。タイタニックが作られたときは“大丈夫、安全だし沈まない”ということで救命ボートは20艘しか括り付けられなかったけれど、この事故が起こってから取り決めが変わったそうで、(時代が)大きく変わる前の十字架だったのかなと思わざるをえないです 。それでも、いろいろな事件が繰り返される。人間って学習していないんだということを思ったりもしますし、人間の業の凄いところなのかなという気もします」
 
お客様のイマジネーションの湖のための、”いい一滴”でありたい

――この物語をミュージカルとして提示する意義はどんなところにあると思われますか?
 
「お客様はもう結末をご存じなわけで、希望をもって乗り込んだ人々が大きな恐ろしいことに直面したときにどういうふうに身を処すかを御覧になって何を得るかは、お客様の選択肢に委ねられていると思います。ですから“ここを観てください”ということでは全然ないのですが、やる側としては、人間には様々な心の側面があり、それも含めて人間なのだということでしかないと思っています。
 
きれいごとでは済まされないと思うんですよ。あの別れの部分がとか、沈んでいく船の上でずっと我慢しながら楽団が演奏を続けていた、そこを観て下さいと言うとらえかたも変な話ですし、『タイタニック』を構成する群像の心の襞を観て何を思いますか、というところでしょうか。それ以上に踏み込むと越権行為のような気がするんです。
 
最近よく思うんですが、演じる側よりもお客様の方が圧倒的に知能指数が高い、と凄く思います。こちらが一を提示したとき、十ぐらい受け取ってくださるお客さんがとても多い。(作品に対して)前のめりになってくださるお客様は本当にいろんなことを受け取ってくださって、その方たちの想像力は僕たちのそれを遥かに超えていると思います。その想像力の湖に何か一滴を垂らすと波紋が広がっていく、その一滴であれたらいいなと思いますね。いい一滴でありたい。そのために演出家がいて演者がいるのかな。
 
今回も、前回と同じことをなぞるのではなく、クリエイティブに作っていってくれるトムと一緒に仕事できることがとても楽しみですし、新しいメンバーとああだこうだいろいろ悩み、言い合いながら、このメンバーならではのものができたらいいですね。そうすることによって(事故の被害者たちへの)更なる追悼の気持ちを持てるのだろうとも思うのです」

*次頁で渡辺大輔さんインタビューをお届けします!