「国民(人々)のクルマ」という名にふさわしいクルマ造り
ガイドがいわゆる“ガイシャ好き”となったキッカケが、VWゴルフだった。免許を取ってセリカやスカイラインといった国産スポーツタイプを乗り継いでいたのだけれど、自動車雑誌を読みふけっているうち、ドイツ車に興味をもちはじめた。ちょうどその頃、社会人になったばかりで仕事も忙しく、学生時代のようにクルマで遊ぶ機会もめっきり減ったものだから、家のクルマをいっそ一台にしようということになった。これはチャンスとばかり、舶来志向の多少あった母を味方につけ、VWゴルフ2を購入したのだった。乗って、とにかく驚いた。ボディのしっかり感や、路面をしっかり捉えて放さない感覚は、国産スポーツタイプの比ではなかった。高速安定性などは、次元が違うとさえ思った。それにひきかえエンジンはとても非力で、オートマもひどいシロモノだったけれど、そんな欠点を上回る魅力が、車両全体としてあったのだ。基礎体力がしっかりしている、という感じがした。質実剛健という言葉が、まさにお似合いのクルマだった。
VWの歴史は、その端緒からして決して明るいものとはいえない。天才エンジニアたるフェルディナント・ポルシェの大衆車プランを、時の権力者であるアドルフ・ヒトラーが利用し、国家戦略の国民車計画として大々的に推し進めたことが、すべての発端だった。後にビートルの愛称で親しまることになる自動車史に燦然と輝くVW最初の一台は、そんな暗い歴史から生まれたのだ。
戦後、改めて生産され始めたタイプ1(ビートル)は、ベスト&ロングセラーになったのみならず、15年前まではノックダウン生産(メキシコ)もされていた。ポルシェ博士の設計が斬新で、確かなものであったという証拠であろう。1938年から2003年までの累計生産台数は2100万台以上を数える。
70年代に入ると、VWはまたしても革命的な大衆車ゴルフを発表。ビートルとはうってかわってボクシーなジウジアーロデザインのハッチバックモデルは、瞬く間にベストセラーカーとなった。以降、ゴルフはコンパクトカークラスのスタンダードとなり、七世代目を迎えた今もなお、世界中のメーカーがお手本にする存在である。
VW=フォルクスワーゲン、ドイツ語で、国民(人々)のクルマという意味だが、その名にふさわしいクルマ造りを続けている。
モデルラインナップは”実用一点張り”
VW=人々のクルマと名乗っている以上、プレミアムブランドのような趣味領域に入るモデルはほとんど企画されない。日本に導入されているモデルラインナップを見ても、ハッチバックに、セダン、ワゴン、ミニバン、SUV、と、実用一点張り。しかも、全てがいたって真面目なスタイリングで、遊び心があると言えばせいぜい“ザ・ビートル”くらい(それにしたって、現行モデルで販売終了らしい)。今や、プレミアムブランドのM・ベンツやBMWのほうが、車種展開が多い。人気の中心は、やはりゴルフとポロのハッチバックモデル。日本では特にそうだ。ヨーロッパやアメリカでは、ミドルクラスサルーン&ワゴンのパサート人気も高い。
人気の中心、コンパクトハッチ
3サイズのハッチバックを用意する。小さいモデルから順に、アップ! 、ポロ、ゴルフだ。最新モデルはポロ。ちょっと前のゴルフサイズで、日本市場向きのモデルだと思う。特に若い世代にはオススメ。ゴルフにはない、スポーティな走りを楽しむことができる。
アップ! は、最も小さいモデルながら、乗り手を選ぶ。シングルクラッチの2ペダルトランスミッションをスムースに走らせるためには、ちょっとしたコツがいるからだ。とはいえ、決して難しいものではないので、あの小ささが欲しいという方には積極的に挑戦してもらいたい。走りは軽快そのもの。
真打ちは、やはりゴルフ。直線基調の潔いデザインはVW全てに共通するもので、逆に言うと、最新のゴルフがVWブランドにおけるジェネレーションデザインのアイデンティティにもなっている。
その軽やかで節の効いた乗り味は、(好き嫌いはあったとしても)モダンカーのスタンダードと言っていいもの。街中から高速道路まで、オールマイティにこなしてくれる。
ゴルフには、フルEVやプラグインハイブリッドモデルの用意もある。
実用ブランドらしい“ホットハッチ”、スポーツ&スペシャリティ
実用ブランド(プレミアムに対してジェネラルとも言う)なので、スポーツカーやクーペモデルを積極的に造ることはない。とはいえ、スポーツカーの代わりには元祖ホットハッチ=都会派のスポーツカー、のゴルフGTIがあるし、もっとラグジュアリーに乗りたいという向きには小さな高級車というべきゴルフRも用意されている。ポロのGTIも、もうじき導入されるはずだ。唯一スペシャリティカーのような存在で、真面目なVWラインナップのなかでも異彩を放っているのが、ザ・ビートルだ。懐かしいタイプ1のカタチをゴルフベースでモダンに再現した。もうじき販売終了というウワサ。このカタチがどうしても欲しいという人は、お早めに。
海外では大人気、真面目なセダン
北米や中国で長らくメインカテゴリーとされてきたのが、FFベースのミッドサイズサルーンだ。日本車で言えば、トヨタカムリやホンダアコードの属するクラス。ジェネラルブランドにとっては大きな収益源(レンタカー需要なども大きい)だから、当然、VWも力を入れている。パサートは欧州ベストセラーランキングの常連。飽きのこないシンプルでボクシーなスタイルは、今や貴重かも。
パサートじゃあまりに真面目過ぎ、という向きには、クーペ風味を加えたアルテオンを。乗り味もやや硬派。
実用重視でしっかり積める、ステーションワゴン
スタイリッシュなワゴンが流行っているせいか、荷室を存分に使いたいというユーザーの声がメーカーに届きづらくなって久しい。けれども実用重視のVWは、未だにしっかりと積めるステーションワゴンをラインナップしている。
日本での使い勝手を考えると、ゴルフヴァリアントで十分だ。荷物もたっぷり積めるし、ゴルフらしい走りも健在。SUV仕立てのオールトラックもあるが、格好重視で、ゴルフらしい乗り味を失った。
日常的によほど大きなモノを積むという人でもない限り、パサートヴァリアントは必要ないだろう。大は小を兼ねる、とはいえ、それではいつまでたっても効率的なクルマ選びはできない。リセールバリューを考えても、ゴルフがオススメ。
国産にはない走りが魅力のミニバン
至れり尽くせりの国産ミニバンを選ばずに、あえてVWのミニバンを選ぶからには、それなりの必要性が欲しいところ。その名のとおり、トゥーランは7シーターながらゴルフらしい乗り味という国産ミニバンには望めない魅力をもっている。
ただし、ゴルフトゥーランはスライドドアではない。あの便利さだけは譲れない、という人で、どうしてもVWミニバンに乗りたいというなら、大きいほうのシャランを選ぶほかない。
いずれも家族で長距離ドライブを楽しみたい、という方にオススメしたい。
程よいサイズとすっきりしたデザインのSUV
日本に導入されているVW製のSUVは、今のところ、コンパクトSUVのティグアンのみ。ゴルフがベースだから、サイズ的には程よく、もっと人気が出てもいいようなものだが…。タイヤの大きさを感じさせる乗り心地にやや不満はあるものの、全体的にはゴルフテイストをよく残す。VWらしい生真面目なスタイルが、人気のSUVカテゴリーではモノ足りないと思われるのだろうか。それだけ、国産コンパクトSUVのデザインが、良し悪しは別にして目立っている。VW“らしさ”が味わえるオススメ3モデル
■ゴルフVWらしさ、というよりもVWそのもの、と言っていい。最新のVWテイストを静的にも動的にも経験できる。廉価グレードでも十分。自在感たっぷりの乗り味をいちど経験して“フツウ”になってしまうと、人気の国産ハイブリッドカーにはもう戻れない、かも。
■パサート
アッパーミドルクラスのサルーンというと、今ではレクサスかドイツプレミアムブランドしか売れていない。セダンとしての実用性、飽きのこないデザイン、走りの素性の良さで、パサートのCPはとても高いと思う。かえって目立つ、プレミアムカーのオルターナティヴ。
■ゴルフトゥーラン
7シーターなのに、まるでゴルフのようにドライブできる。多人数乗車を常としないなら、ゴルフを買えばいいが、そうでない場合には、ゴルフトゥーランがいい。一人で乗っても、家族で乗ってもゴルフ。特にドライバーが嬉しい。質素な雰囲気に家族が納得してくれさえすれば。
VW、ガイド一押しの1台はこちら
■ゴルフRヴァリアントVWの場合、何はともあれゴルフを奨めるほかない。ゴルフを知らずしてVWを語ることはできない。だからホンネでは、何グレードでもいい、中古でもいいから、まずゴルフに乗ってみな、と言いたい。そこをあえて、グレードまで指定するとしたならば、ボクは小さな高級車でかつ積載量も十分あり、真の意味でオールマイティな実用車になるであろう、ゴルフRのヴァリアントを推す。