労働審判とは
労働審判制度は、個別労働紛争の増大を背景として、50年に1度といわれる司法制度改革の中で検討・立案されました。労働審判法はこのような理念を具体化するものとして、平成16年5月に国会で成立し、平成18年4月から施行されました。これにより従来の裁判に比べて迅速かつ簡易的なものとなりました。
■労働審判制度
制度の概要
労働審判は迅速かつより簡易を目的に作られた制度です。そのため、従来の裁判とはいくつか違いを解説していきます。■構成されるメンバー
裁判では通常、裁判官1名のみで判決を出しますが、労働審判では裁判官1名と労使の専門的知識をもつ労働審判員2名の計3名で労働審判委員会構成されます。法律的な観点だけでなく、民間の労使の専門的知識をもつ労働審判員も携わることで柔軟な解決を目指します。
■迅速性
通常の裁判では解決までに1年以上費やすことも珍しくなく、原告となる労働者の負担は大きいものでした。労働審判では原則3回の期日(期日1回で約1か月)で終わります。平成23年末の集計では3か月以内に全体の70%以上が終了しており、平均では73.1日で終了しています。
また、和解による調停成立は平成23年度で71.2%、労働審判で異議申立てがなく終了したのが7.5%です。つまり、全体の約80%が労働審判だけで解決しているのです。これは裁判のように白黒をつけるわけではないことも関係しています。なお、労働審判の決定に異議申立て等で訴訟に移行した場合、一から裁判となるため、結果的に長期化する可能性はあります。
■簡易性
通常の裁判は厳密に原告被告双方の証拠を精査し、裁判が進行します。しかし、労働審判の場合、裁判より細部にこだわらず進行します。ある程度の証拠があれば、労働審判員からそれに沿った和解を提案してくれます。
弁護士に依頼することがおすすめ
調停の成立率は、申立人相手方ともに本人の場合で53%、申立人相手方ともに弁護士代理の場合は75.1%となっています。弁護士代理の方が調停成立する可能性が高く、また申立人が得られる金額も弁護士代理の方が高額になる傾向にあります。しかも弁護士費用以上に高額になる傾向にあります。労働審判向きの事件
色々とメリットがある労働審判ですが、扱う事件には制限があります。まず、迅速性を旨とするので3回の期日で終わりにくい複雑な事件には向きません。次に、労働審判はあくまでも単独労働者を対象とした審判なので集団訴訟では使えません。労働審判の事件の種別は東京大学社会科学研究所の利用者に対するアンケートによると、解雇が最も多く、69.3%、続いて、賃金・手当が60%、セクハラ・パワハラ31%、配転・出向が4.3%、その他が5.7%となっています。また労働審判の場合、「金銭が支払われる代わりに退職する」ことが多いので、絶対に会社に残りたい・戻りたいという場合には労働審判は適しません。
気になる弁護士費用
労働審判の場合、裁判よりも早期に解決する見込みが高いことから、一般的には裁判の場合よりも安く済むことが多いでしょう。もっとも、労働審判の場合には使える裁判所が限られることから、地理的な条件によっては出廷日当がかかったり、労働審判内で解決しない場合には民事訴訟に発展することもありますので、依頼する弁護士によく確認をしてください。具体的な費用は、月収によるところが大きいですが、おおむね着手金20万から30万の範囲内であることが多いでしょう。まとめ
労働審判は従来の訴訟と比べて早期解決が期待できます。また、裁判所に納める収入印紙も通常訴訟と比べて半額となり、切手についても裁判所にもよりますが、納める額は少なくなります。弁護士の観点からすると、労働審判は非常に使いやすい制度です。上記の労働審判のメリットとデメリットを踏まえ、適切に使用すれば、労働者にとって心強い制度となります。【関連記事】