気は心身を活性化する「生命エネルギー」

気

気の充実は心身の健康に不可欠です

「気力」「気分」「気配」「元気」「運気」「景気」、そして「病は気から」。私たちの生活には「気」という言葉が満ちています。くわえて多くの方は「気」に対してエネルギーや活動的なイメージを持っているでしょう。

漢方において気はまさに「生命エネルギー」といえる存在です。気が充実していれば一日を通して活発に過ごすことができます。逆に気が不足してしまうと疲労感や日中の眠気など多くの症状が起こりやすくなってしまいます。

本記事では気の不足である気虚(ききょ)とそれを改善する漢方薬に焦点を当てて解説していきます。まずは具体的に気が足りなくなることで生じる症状を確認していきます。

疲労感が強い気虚の症状

気虚による最も代表的な症状は疲労感です。私が営んでいる漢方薬局ではお話を伺う前に、問診票に記載されている症状にチェックを入れてもらうのですが、大体5人中3~4人ほどと、多くの方が「疲労感」にチェックを入れられます。

気虚においては疲労感の他、冷え性(冷え症)、風邪やインフルエンザといった感染症にかかりやすい、手足の重だるさ、食欲不振、便秘や軟便、声に力が無い、息切れ、立ちくらみやめまいなどが挙げられます。

このように気虚に陥るといかにも「エネルギー不足」といえる症状が現れやすくなります。主訴として疲労感が挙がらなくても、お話を伺う中で「夕方以降はガクッと仕事のペースが落ちる」「食事はあまりおいしく感じず、仕方なく摂っている」といった気虚一歩手前の方もしばしばです。

気虚が多い背景・原因……悪循環に陥る気虚スパイラル状態も

労働

長時間労働や食生活の乱れは気虚に直結します

ここからは多くの方がなぜ気虚に陥っているのかを考えていきます。私たちが日常的に利用する電気やガスといったエネルギーと同じように、気は、多く消費された場合、または生み出される量が少なくなった場合に不足します。

前者の「気の消費」の原因としては、長時間労働や慢性病による体力の消耗などが当てはまります。「気の生産不足」の原因は、食生活の乱れが代表的です。具体的には、朝食を抜いてしまう、昼食をお菓子で済ませてしまうなどです。他にも生まれつき消化器が弱くて少食といったケースも挙げられます。気は主に飲食を通じて生み出されます。したがって、気の生産不足は消化器にまつわるトラブルが中心となります。

しばしば遭遇する気虚を悪化させてしまった方のパターンには、仕事が忙しく食事を摂る時間がなくなったことが始まりというケースも少なくありません。忙しさから間食だけで軽く済ますことで気が補われず、消化器のはたらきも低下し、結果的に食欲が低下し、食事量も低下し、気虚が深刻化していく……というパターンです。

上記のように気虚がさらなる気虚を呼ぶ「気虚スパイラル」にはまり込んでいる方は少なくありません。

気虚を改善する生薬

人参

生薬の人参は気を補う「エース格」の生薬です

気虚に陥っている方でも上記の「気虚による症状」で挙げた症状がズラッとすべて現れるわけではありません。多くの場合、各症状に強弱があり、それによって使用される漢方薬も異なってきます。

一方、将棋やチェスにおいて「定石」があるように、漢方薬においても気虚を改善するためのセオリーが存在します。

それは気を補うことを得意とする人参(にんじん)、白朮(びゃくじゅつ)、黄耆(おうぎ)、甘草(かんぞう)といった生薬(しょうやく)を多く含んだ漢方薬を使用することです。

特に「薬用人参」「朝鮮人参」「高麗人参」などと呼ばれる「人参」は、気を補う最も有名な生薬です。無論、漢方で使用される人参はスーパーで販売しているオレンジ色のニンジンとは全く異なる植物です。

なお、生薬と漢方薬の違いについては「漢方薬を作る生薬の原料は?民間薬・ハーブとの違い」をご参照ください。それでは具体的に気虚を改善する漢方薬を挙げていきたいと思います。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)の効果…疲労感、気力低下に

補気

補中益気湯は幅広い気虚の症状に対応できる優秀な漢方薬

補中益気湯は最も代表的な気虚を改善する漢方薬です。別名は医王湯。いかにも効きそうな名前ですね。補中益気湯における「中」とは「消化器」のことを意味しています。つまり、消化器の調子を整えて気を補うという意味が補中益気湯には込められているのです。

補中益気湯は疲労感、身体の重だるさ、気力の低下が強く出ている方に適した漢方薬です。くわえて食欲不振や体質的に食べても太れない方により適しています。

他にも補中益気湯には気を上半身に持ち上げる作用もあるので、疲れると現れる頭重感、頭痛、めまい、立ちくらみといった身体の上部に目立つ症状改善に応用できます。

六君子湯(りっくんしとう)の効果…食欲低下、胃の不快症状に

六君子湯は食欲の低下、胃もたれ、吐気や嘔吐といった胃の症状が前面に出ている気虚の方に適した漢方薬です。たまに「ろっくんしとう」と読んでしまう方がいらっしゃいますが「りっくんしとう」です。

六君子湯は生まれつき胃が弱くて食が細い、なおかつ体力も無いような方に最適です。六君子湯を服用すると消化器の機能が向上し、食べ物からしっかりと気を補えるようになります。

補中益気湯と六君子湯を比較すると、疲労感や重だるさがより目立つケースでは前者。胃の不快症状がより顕著な場合は六君子湯を服用して頂くとしばしば良い結果が得られます。

啓脾湯(けいひとう)の効果…疲労感、軟便や下痢に

軟便

体質的に疲れやすく軟便気味の方などに啓脾湯は適している

啓脾湯は疲労感、消化器のトラブル、その中でも軟便や下痢が目立つ方の気虚に対応できる漢方薬です。啓脾湯に含まれる生薬の山査子(さんざし)は消化促進を目的にしばしば薬膳の素材としても使用されます。

啓脾湯は補中益気湯や六君子湯と比較するとやや知名度が低い印象です。しかしながら、体質的にお腹を壊しやすくて、すぐに下痢になってしまうような方の助けになる優れた漢方薬です。

実際に漢方相談で当薬局へ訪れる方で、上記のような症状を訴える方は少なくありません。個人的にはもっとスポットライトを浴びても良い漢方薬だと思うのですが……。

人参湯(にんじんとう)の効果…疲労感、冷えが原因の不調に

冷え症

人参湯は気を補うだけではなく、冷えを解消する代表的な漢方薬

人参湯は疲労感や食欲不振などにくわえて、身体を温める力に秀でた漢方薬です。この作用は人参湯を構成する生薬の乾姜(かんきょう)によるところが大きいです。

乾姜とは食品としても使用されるショウガを蒸したものです。乾姜の力によって身体は内側から温まり、冷えによって悪化する胃痛、腹痛、軟便、下痢などを改善します。

お刺身やサラダなどの生ものや冷たい清涼飲料水などによって身体を冷やすと、必ず消化器の調子を崩してしまうような方に人参湯は適しています。

西洋薬には「身体を温める」という作用を持つものは無いので、気を補いつつ冷えを除くことができる人参湯は貴重な存在といえます。

終わりに

食事

食生活の見直しは気虚改善において不可欠です

本記事では気虚とそれを改善する補気剤を中心に解説してきました。一方で漢方薬の服用だけではなく、生活習慣の見直しによっても気虚を改善することはできます。

人間は食べることで気を蓄え、寝ることで体力を回復します。したがって食生活や睡眠環境の見直しは特に大切です。具体的には睡眠前のスマホの使い過ぎは寝つきを悪くする傾向にあります。緑茶、コーヒー、紅茶、エナジードリンクといったカフェインを多く含む飲み物の摂り過ぎも睡眠の質を悪化させてしまいます。

食生活においてもタンパク質の不足はスタミナ不足に繋がります。「朝ごはんはトーストで昼食はキノコのパスタ」のような献立だとほとんどタンパク質が摂れないことになります。積極的にタンパク質が豊富な肉、魚介類、卵、チーズ、大豆製品をメニューの中に入れるようにする必要があます。

このような生活習慣の見直しにくわえて漢方薬を利用できればきっと良い結果が得られるでしょう。
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