「疲労回復に漢方薬」という選択は有効?

疲れた男性

慢性的な疲労の回復には漢方薬という選択肢があります

長時間労働が大きな社会問題となっている現代の日本。私が営んでいる漢方薬局ではさまざまな病気や症状についての相談を受けます。そのなかでも慢性的な疲労を訴える方は非常に多く、肩こりや頭痛などと並んでもっとも多く相談を受ける健康トラブルです。

ドラッグストアなどにはビックリするくらいバリエーションに富んだ栄養ドリンクやエナジードリンクが並んでいるのは、それだけ「疲労回復マーケット」に強い需要があるといえるでしょう。

あまり知られていませんが漢方薬は慢性的な疲労に有効なものが豊富にあります。これまで漢方薬を服用したことがない方はこの記事をきっかけにぜひ活用してください。

病気ではない「疲労」は西洋医学の苦手分野

いきなり横道にそれるのですがお付き合いください。ときどき患者さんから受ける質問のなかに「医療関係者だけが知っているすごく効く疲労回復薬ってあるんじゃないですか?」というものがあります。結論から言いますと、そのような都市伝説的かつ陰謀論的な薬は残念ながら存在しません……。

まず、日常的に病院で受ける西洋医学は病気の状態を回復させることを得意とする医学です。しかし、健康診断を受けても特になにも異常が現れないような疲労を回復させることを苦手とします。西洋医学的に異常がない、つまり病気ではない状態なので治療ができないのは当然ともいえます。

疲労を含めた未病(みびょう)には漢方が最適

ここからは漢方の話に戻ります。漢方において慢性的な疲労に苦しんでいる人は病気でもなく健康でもない状態、いわばグレーゾーンに位置した未病の状態と考えます。未病には疲労の他に冷え性、のぼせ、肩こり、食欲不振などが代表的です。漢方は疲労を含めた未病の状態を回復させることを得意とします。

しかし、「疲れているならこの漢方を飲めば大丈夫!」というものではありません。漢方では疲労という訴えの背景にある原因ごとに有効な漢方薬があります。ここからは疲労に有効な4つのタイプ別の漢方薬をご紹介します。

食が細くてカゼをひきやすい気虚(ききょ)タイプに効く漢方薬

薬用人参

薬用人参は気を補うもっとも代表的な生薬。補中益気湯や六君子湯にも含まれています

普段から食が細くてあまり太れない方、年に何回もカゼやインフルエンザにかかってしまう方は「生命エネルギー」である気が不足した気虚の状態といえます。気虚による症状は疲労の他にも手足の重だるさ、食後の強い眠気、声が弱い、汗をかきやすいといったものが挙げられます。

上記の気虚症状に幅広く当てはまる方には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)がお勧めです。補中益気湯はその名前の通り、もっとも代表的な気を益す漢方薬です。疲労感と同じくらい消化器のトラブル、具体的には食欲不振や吐気などが目立つ方には六君子湯(りっくんしとう)がより適しています。

肌や髪の荒れ、月経のトラブルもある血虚(けっきょ)タイプに効く漢方薬

芍薬

写真は芍薬の花。代表的な血を補う生薬であり乾燥した根が使用されます

気のつぎは血(けつ)の登場です。血は身体のはたらきを活性化し、さらに精神状態を安定化します。疲労にくわえて肌の乾燥、髪のパサつき、眼精疲労、さらに女性の場合は月経不順といった女性特有のトラブルは血が不足した血虚の状態であることが多いです。

血は月経による出血で定期的に失われてしまいます。そのため、血虚が原因と考えられる疲労は女性の方が起こりやすいので注意が必要です。

まず血虚の方に勧められるのは当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)です。当帰芍薬散は血を補いつつ、血を巡らすはたらきもあるので遅れがちの月経や月経痛を改善することもできる漢方薬です。さらに水分代謝を促す力もあるので足を中心としたむくみにも有効です。

ちょっと難しい名前のきゅう帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)も代表的な血虚を改善する漢方薬です(「きゅう」は草かんむりの下に弓)。きゅう帰膠艾湯は止血効果を持つ生薬も含んでいるので月経出血が多く、貧血による立ちくらみや動悸に困っているような方に最適の漢方薬です。

気虚と血虚の混ざった気血両虚(きけつりょうきょ)タイプに効く漢方薬

すでに登場した気虚の症状にも血虚の症状にも当てはまるような方は気血両虚の状態かもしれません。気血両虚はきついシフトの仕事が何年も続いている方や大病を患っている(患っていた)方にしばしばみられる状態です。

気血両虚を改善する「エース級」の漢方薬は十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)です。食事はしっかり摂れているのに肉体的な疲労感がなかなか抜けない方はまず十全大補湯を試してみるのが良いでしょう。

もうひとつの気血両虚に対応できる漢方薬は帰脾湯(きひとう)です。帰脾湯は肉体疲労よりも不安感や不眠といった精神的な消耗による疲労が強い方に適した漢方薬です。私は日頃の漢方相談のなかで疲労にくわえて不安感、不眠、食欲不振という3つの「不」がならぶ方にはまず帰脾湯を検討します。

現代の日本はストレス社会。長時間労働による肉体疲労だけではなく、職場のノルマやうまくいかない人間関係に疲れている方がより増えている印象があります。そのためか当薬局では十全大補湯よりも帰脾湯を調合することが徐々に多くなってきました……。

憂うつ感が強く気力がわかない気滞(きたい)タイプに効く漢方薬

紫蘇

写真は食品としても使用される紫蘇の葉。半夏厚朴湯にも含まれ気を巡らすはたらきがある

最後のタイプは気がうまく流れていない気滞タイプです。例えるならガソリン不足が気虚なら、気滞はガソリンはあるのにエンジンにつながる配管が詰まっているようなイメージでしょうか。

気滞の状態では喉や胸の不快な圧迫感、吐気、お腹にガスがたまる、そして憂うつ感が強くて身体を動かすのが面倒くさいといった症状が現れやすくなります。

上記のような気滞の症状のなかでも喉にモノが詰まったような不快感が強い方には半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)が勧められます。慢性的な吐気やゲップがあるような方にも半夏厚朴湯は適しています。

月経前に憂うつ感が強くなり、なにもする気が起きないような女性には逍遥散(しょうようさん)が最適です。逍遥散は月経不順や月経痛を鎮めることも得意とするので血虚で登場した当帰芍薬散と並んで女性にお勧めの漢方薬です。

生活面の改善と定期健診も重要!

ご紹介した漢方薬は疲れに効くとても優秀な漢方薬たちです。きっと皆さんの強い味方になってくれるでしょう。その一方で睡眠時間や休日を削り過ぎては漢方薬があっても疲労回復は難しいです。

食生活の面では米やパンといった炭水化物に偏った食生活は避けましょう。くわえて特に血虚の方は肉や魚といった動物性のタンパク質をしっかり摂ることが大切です。

慢性的な疲労の背後にはなんらかの病気が隠れている可能性もあります。定期的な健診を受けるチャンスは逃さないようにしましょう。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。