総務・人事

コンプライアンス教育の効果を上げるには?

情報漏えいなどの事件が起きるたび、企業のコンプライアンス教育の重要性が言われます。多くの企業でも全社員に必須のものとして研修や講座を受講させていることでしょう。しかし、現場の担当者からは「社員に面倒がられる」「なかなか定着しない」といった声が聞かれます。コンプライアンス意識を定着させるための勝ちパターンはあるのでしょうか?

豊田 健一

執筆者:豊田 健一

総務人事・社内コミュニケーションガイド

コンプラ教育は、社員の「当事者意識」喚起がポイント

コンプライアンス教育で難しいのが、従業員の当事者意識が希薄なことです。
「時間がもったいない」
「自分とは関係ない」
「現場と乖離している」
社員は渋々受講しつつも、内心そのように思っていることでしょう。

多くの企業で行われているコンプライアンス教育は、
  1. コンプライアンス室等の管轄部門で行われる集合研修
  2. コンプライアンスハンドブックや社内報での誌面を通じた研修
  3. e-ラーニング等のシステムを使う研修
に大別されます。

どの方法も、目指すべきは社員の当事者意識の喚起です。人間は、自分事として捉え、具体的な活用イメージが示されて、はじめて理解できます。自らの仕事の現場とどう関わり、違反するとどんな不利益が降りかかるのか。言葉は悪いですが「少しびびつてもらう」内容の方が効果が期待できます。
 
コンプライアンス教育

当事者意識が喚起できるかが、コンプライアンス教育のポイント


上記に挙げた方法で行った事例を紹介していきましょう。

事例:劇画ポスターで注意喚起をしたITセキュリティ教育

私がお手伝いしたある企業での事例です。

情報漏えい事故が頻発していた時期、その企業も従業員向けITセキュリティ教育を強化することになりました。以前からイントラ掲示板でセキュリティポリシーが告知していましたが、見向きもされませんでした。

そこで、従業員のワークスタイルに合わせて、あらゆるメディアで注意喚起することにしました。社内報、イントラネット、そしてポスターです。従業員であれば、どれかのメディアに接するはずと考え、それぞれのメディアで展開したのです。

【社内報】
情報漏えいのリスクをテーマにした座談会を企画。社員にも登場してもらいました。

【イントラネット】
他社の事例をケース別に掲載しました。

【ポスター】
劇画調の4コマ漫画で、情報漏えいをした場合の従業員の困惑した姿をインパクト大きく掲載しました。

ほとんどの従業員がいずれかのメディアで目にすることになり、認識度は100%近い数字を上げました。

事例:死亡事故の話で当事者意識を喚起

私がリクルート総務部で車両事故担当の時に行った事例です。

当時、全国で250台の社有車が、軽微なものを含めると3日の1件のペースで事故を起していました。安全運転管理者として、安全運転教育を行うのですが、なかなか効果が出ません。

悩んだ私が相談したのは、自動車保険会社。人身事故一筋30年のプロによる「唯一示談にできなかった死亡事故」の話をしてもらいました。加害者宅に被害者の配偶者が毎夜訪れ、加害者当人も自殺してしまった、という悲惨な話でした。

会場は水を打ったように静まり返り、「社内免許を返上したい」と訴えに来る営業担当もいたほど、参加者には刺さりました。自らが加害者になった時のイメージが想像され、強烈な当事者意識が芽生えたのです。そして、実際に車両事故が減りました。

事例:社内報をコンプラ意識醸成のきっかけに

社内報の社内報企画コンクールを取り仕切っていたことです。当時はコンプライアンスの企画を応募する企業が多く、数多くの優秀なコンプラ企画を審査しました。

ここで見つけた優秀な社内報のコンプラ企画には以下の共通点がありました。

■社長(コンプラ推進室室長ではなく)が重要性を宣言
→トップによる本気度を示すことがまずは絶対条件です。

■当事者を増やす
→連載で、営業、製造、経理といった各現場を取り上げ、陥りがちな事例と防止法を示します。

■継続する
社内報にはきっかけだけ提示し、関心を持った人には次のステップを示します。最初は反響がなくても愚直に続けることで次第に認知度が高まっていきます。
コンプライアンス教育

自らが法廷に立たされるとした。そのようなイメージが定着のきっかけ



事例:eラーニングで理解度の確認する

最後は、e-ラーニングを取り入れた事例です。

集合研修には、社員の顔を見ながら温度感を確認して行える、というメリットがありますが
  • 社員を一堂に集めるのが難しい
  • 理解度を確認できない
というデメリットがあります。

そのデメリットを克服できるのが、eラーニングです。

【eラーニングのメリット】
  • 時間や場所の制約がない
  • 会場や教材の手配が不要
  • 学習管理システム(LMS:learning management system)で受講者の理解度や進捗管理ができる
  • テストを組み込むことで効果的なフォローアップができる
  • 動画で実技や実際の動きを学ぶことができる
  • 緊急事態が起こって素早く全社共有したい場合、全拠点に同一コンテンツを配信できる

お薦めのコンプライアンス研修システム

以下に、お薦めのe―ラーニング研修システムを紹介します。

関連法令の詳細な内容が学べる本格派

パナソニック 人材育成ソリューション
下請法、独禁法、知的財産関連などの法律別コースのほか、ハラスメント防止講座、意識実態調査(Webアンケート)など豊富な講座を取り揃えており、カスタマイズも可能

コンプラだけでなく、ICTやビジネスマナーも学べる入門編
東京書籍 business pocket
ビジネスマナーやコンプライアンス、ICTマナーなど社会人としての基礎となる知識を専門家が解説テキストや動画で解説。各項目に確認テストもあり、進捗と理解度を把握できる。カスタマイズとオリジナルコンテンツの配信も可能

コンプライアンスと企業の関係が学べる基本編
日本能率協会マネジメントセンター eラーニングコース
気づきにくい法令違反等をわかりやすく提示、社会から信頼される組織づくりを行うためのコース。日常業務の中での事例紹介ややポイントごとのチェック(理解度テスト)によって、現場で使える知識を得られる

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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