第三回東京ミュージカルフェス
【目次】
- 3月25日『海外ミュージカルの醍醐味』(本頁)
- 3月26日『オリジナル・ミュージカルに懸ける夢』(2頁、3頁)
第三回東京ミュージカルフェス「ミュージカル・スペシャルトークショー」
『海外ミュージカルの醍醐味』
(2018年3月25日、東京建物八重洲ホール)
両日とも発売直後にチケットが完売した、今回のトークショー。こぢんまりとしながらも趣あるホールにプラチナチケット(?!)を手にした方々の熱気立ち込めるなか、一日目のプログラムがスタートしました。はじめに主催であるMusical of Japanの角川裕明さんが挨拶、東京ミュージカルフェスの沿革を語ります。そして企画・司会役である筆者・松島がマイクを受け継ぎ、さっそく第一部のゲスト、岸祐二さん、入絵加奈子さん、綿引さやかさん、法月康平さんが登壇。
岸祐二×入絵加奈子×綿引さやか×法月康平
『In This House』を語る
第3回東京ミュージカルフェス「ミュージカル・スペシャルトークショー」『海外ミュージカルの醍醐味』より 写真提供:Musical Of Japan
『In This House』
「稽古をやっていると、ジョニーの状況は役者としての自分とも重なってきます。これまで2.5次元ミュージカルにたくさん出演してきて、今回、初めてこれほど少人数の(演劇的な)作品に取り組んでいますが、稽古で演技とはこういうものだろうと思って演技をすると、全部……とは言わなくても、8割方でダメを出されてしまう。少人数の芝居だと(足りない部分が)全部ばれてしまうと気づかされ、役者としての引き出しを増やす意味でもこの作品は僕にとって大事な作品になる、“男として覚悟しなくちゃいけない”、とジョニー同様に思いながら(稽古を)頑張っています」。大きな拍手が起きると岸さんが「(拍手を)いただけて良かった。(物語の)結末を言うんじゃないかと思ってハラハラしたよ」と笑わせ、和やかムードに。
第3回東京ミュージカルフェス「ミュージカル・スペシャルトークショー」『海外ミュージカルの醍醐味』より 写真提供:Musical Of Japan
第3回東京ミュージカルフェス「ミュージカル・スペシャルトークショー」『海外ミュージカルの醍醐味』より 写真提供:Musical Of Japan
吉原光夫×西川大貴
『お月さまへようこそ』上演に向けて
第3回東京ミュージカルフェス「ミュージカル・スペシャルトークショー」『海外ミュージカルの醍醐味』より 写真提供:Musical Of Japan
『お月さまへようこそ』
ちなみに“響人”とは今回の主催団体で、09年に元・劇団四季の俳優たちが「挑戦的な演劇を目指して」立ち上げた劇団と言われていますが、吉原さんは「挑戦するつもりはないです(笑)。こんな面白い戯曲があるんだぜ、と言える場所がいつになったら来るんだろう、無いなと思った時、じゃあ自分で作ろうと思ったんです。劇団というより“プロデュース枠”という感じですね」と説明。西川さんは「ふだん、商業で仕事をしていると戦闘モードでないと戦えないけれど、装備を外して芝居と向き合えるのが響人。でもここにもモンスターがいるので(と吉原さんを指し)、装備を外すと思いもしない横やりが入る(笑)。演劇と真剣に向き合えるという意味で、とても大切なカンパニーだし、吉原さんとの創作は自分の中では特別な時間」と語ります。
“吉原さんから見た俳優・西川さん”像をうかがうと、「芸術に届くために精進したり頭を使っているという意味で、本当のアーティスト。俺には到底到達できない」、“西川さんから見た演出家・吉原さん”は「演出家というと“先生”というイメージを持つ人もいるけど、光夫さんは“整理する係”。(一緒にやっていて)面白いし、そうあるべきだなと思います」と互いの信頼の厚さのうかがえるコメントが交わされましたが、その後お二人の“まるで漫才”なやりとりが展開、場内は笑いの渦に。
第3回東京ミュージカルフェス「ミュージカル・スペシャルトークショー」『海外ミュージカルの醍醐味』より 写真提供:Musical Of Japan
座談会「海外ミュージカルの醍醐味」スタート!
第3回東京ミュージカルフェス「ミュージカル・スペシャルトークショー」『海外ミュージカルの醍醐味』より。座談会では初対面の法月さんを「以前から気になっていた」という吉原さんが”いじる”場面も。「2.5次元と一般ミュージカルとどちらが楽しい?」の問いに「生きてる気持ちがするのは一般ミュージカル」と答えた法月さんですが、それに続く何ともユーモラスな本音?!に会場は大いに沸きました。写真提供:Musical Of Japan
まずは、多くの人にとってミュージカルの原体験と言えば海外ミュージカルでは、と考えられることから、皆さんに“生まれて初めて観たミュージカル”をうかがってみると、「専門学校時代にミュージカル・マニアの同級生が見せてくれた、『クレイジー・フォー・ユー』の映像」(吉原さん)、「11歳のころ、タップをやっていて出演することになった『アニー』」(西川さん)、「小学生の時、学校で日生劇場に観に行った『魔法をすてたマジョリン』(注・劇団四季のオリジナル・ミュージカル)、楽しかった」(岸さん)、「映画の『ザッツ・エンタテインメント』で初めてアステアやジーン・ケリーの演じるミュージカルに触れ、なんだろうこのわくわくする世界はと思った」(入絵さん)、「4歳ぐらいの時に、福岡のキャッツシアターで観て、暗闇の中の猫目に号泣して客席から出された『キャッツ』」(綿引さん)、「おそらく幼き頃に家族で観た劇団四季のミュージカル」(法月さん)とのことで、やはりどちらかと言えば、海外作品を通してミュージカルと出会う方が多い模様です。
自分を“遠いところ”に連れて
いってくれたミュージカル
海外ミュージカルの第一の魅力と言えば、瞬時にして私たちを古今東西、様々な場所へといざなってくれる点。いわば日本に居ながらにして自在に、それも臨場感たっぷりに“旅”をさせてくれるのがミュージカルですが、演じ手の側はどうとらえているしょうか。
これまで演じた海外作品の中でも、最も自分から“遠い”ところに行けたと感じた作品を尋ねると、岸さん、西川さんから挙がったのが『レ・ミゼラブル』。もっとも、文化圏的な遠さという意味ではなく、「それまで、決められた場所にいって決められた声量でしゃべるのが芝居だと思っていたけど、そうじゃないんだと気づかせてくれたし、ミュージカルという形式は言葉だけでは届かない世界にジャンプできると経験させてくれました」(西川さん)、「僕は(戦隊)ヒーローをやっていたのでそもそもが日常から遠いところにいたけれど(笑)、『レ・ミゼラブル』に出会って役者としての居場所がやっと見つかった、ミュージカルを続けていきたいと思えました」(岸さん)と、表現者として大きな転換点となったことが理由のようです。
綿引さんからは『リトル・マーメイド』(「初めて劇団四季の舞台に出演したことで、違う国にいったような感覚がありました。最初に(人魚の)泳ぐポーズを1時間ぐらいずっと練習して、横を向くときも水の抵抗があるからこう動くんだよと教えていただき、帰途、コンビニの角を曲がるときもその動きになっていました(笑)」)、入絵さんからは2.5次元の先駆的作品『ナースエンジェルりりかSOS』(「アニメのキャラであるということ以前に、人間でないという点で“遠かった”です」)が挙がり、逆に2.5次元ミュージカル出身の法月さんからは「僕は最近、演じることが多い“人間”役のほうが遠くて、2.5次元に出るとむしろ安らいでいる自分がいます。その状況を打破したいです」とのコメントが。
言葉と音楽を巡るあれこれ
ここで、問題提起をしてくれたのが吉原さん。「基本的に、海外作品は全部、“遠い”んですよ。文化の差が邪魔になって、どれだけ必死にやっても難しい。だから、例えば笑いを翻訳するにも、福田(雄一)さん(演出作)みたいに、一つの笑いをピックアップするために日本の砲弾(ネタ)をいっぱい打っていくという方法しかなくなるんですよ」と、海外ミュージカルを上演する上での課題が語られ始めます。
例えば吉原さんがゲイの父親役を演じた『ファンホーム』では、「まずLGBTの受け止め方がアメリカとは違うので、僕のキャラクターも変更に変更を重ねたし、冒頭、ヒロインが“私はレズビアンで漫画家になった”というと、アメリカでは“Yes!”というリアクションだけど、日本では客席が固くなってしまう。ここをどう乗り越えるか」が大変だったそう。さらに『In This House』が複数の人種の登場する作品であることを岸さんから聞くと、「人種の表現も難しくて、以前、アフリカ系アメリカ人の振付師の前で、アフリカ系を演じるので黒く塗って演じた時、彼が悲しそうな眼をしていて……」という体験談が。綿引さんからは「私が出た演目では演出家が逆に“絶対に肌を(黒く)塗らないで、それは差別に繋がるから”とおっしゃっていました」という例も語られました。
もう一つ、海外ミュージカル上演の難しさとしてよく語られるのが“言葉”、とりわけ訳詞の問題です。英語は少ない音節に多くの情報が詰め込まれた言語だが、日本語はそうではないため、音符に乗せた時に圧倒的に情報が少なくなってしまう。「そうすると“詩的”になってしまうんです。ある一音に、英語だと意味のある単語が乗っているのに、訳詞だと“だ~!”しか乗っていなかったりするんです」と吉原さん。西川さんからは「あと、原語だと単語数がたくさんある中で、tsやfといった破裂音も多く使われていて、これがパワーの表現に使われていることも多いけれど、日本語訳では日本人に合った詩的な詞になっている(つまり音ではなく意味優先で言葉が選ばれている)。来日した演出家はそのニュアンスをとれるわけではないから、“そこもっと破裂!パワー、パワー”と言ってこられたりするんです」との指摘も。さらに吉原さんから「文法的に日本語と英語では主語と述語の順が違うから、動きでは先にネタバレしていて、あとで言葉が追い付いてくるということも結構ポップに起こります」と語られたうえで、「でも、希望もあります」。
生みの苦しみから、希望が生まれる。
それは何かというと、「日本語に訳す中で、(本来のニュアンスをいかに的確に伝えようかと)生みの苦しみを経験することで、もっとその作品を知ろうとするじゃないですか。最近はいただいた訳詞について、皆で話し合ったり、元訳(直訳の状態)を見る時間もある。すごくいいエネルギーが生まれています。海外では“いい曲だけ並べておけばいい”というノリで作られる舞台もあるけど、しっかり作り込むのは日本ならでは。そういう意味では、こういった難点は“醍醐味”なんです」(吉原さん)。力強い言葉に頷きつつ、入絵さんは「私は92年に『ミス・サイゴン』でデビューしたのですが、当時はまだミュージカルの公演自体少なくて、場数も踏んでいない中で、訳詞をお客様にきちっと伝える、ということにひたすら一生懸命でした。海外スタッフは“神様”で、物申すなんて考えられませんでしたしね。皆が歌詞について疑問点をそのままにしない今は、すごくいい時代になったんだなぁと思います」と貴重な体験を語ります。
もっとも、“状況”がそうさせる部分もあるようで、「例えば海外ミュージカルの場合、はじめは演出助手の演出を受けて、初日間近に演出家が来日してバトンタッチとなると、二人の言っていることが違っていることもある。そうなると日本人キャストが手を繋いで“この方向でやろう”と決めなくてはいけないですから」と吉原さんが述べれば、岸さんからは「クワトロ・キャストだったりすると、“誰が稽古するか大戦争”がまずあって、そこで4人の意見が違うと進まなくなっちゃったりもするけどね」との冗談半分、実感半分(?!)のコメントも。
さて、“言葉”ではなく音楽面に目を向けてみると、“アドリブの公式化”という現象が挙げられます。海外作品を日本で上演するとき、もともと作曲家が書いた譜面は途中で終わっていて、“あとはアドリブ”となっている。けれども実際のところ、それ以降もメロディは決まっていて、自由に歌えるわけではない。どういうことかというと、初演の際、ブロードウェイ等のキャストが自身の声域や“ノリ”(?)で歌ったものがいつしか“公式化”し、日本のキャストがアドリブを入れる余地は無くなっているというものです。
「それは普通にありますね」というのは吉原さん。西川さんが「逆に、オリジナル・ミュージカルをやると、こうやってアドリブが正式なものになっていって、それを崩す人をタブー視するようになるんだと分かります。もとは緩い感じでフェイクだったところが、譜面に書き込まれ、印刷されて皆に配られると、“これは絶対守らなきゃ”というものになる。そこに利点は一個もないと思うんだけど」の言に、「でも、ここにいるメンバーだったら(アドリブでも)何の問題もないけど、(公式のメロディが決まってないと)ひどいものをぶつけてくる人もいますから(笑)。任せて大変なことになるのなら、決めてしまった方が安定する。これも“醍醐味”かな」と、吉原さん。岸さんが「そういう話で言うと、譜面とは違うメロディが、CDに録音されたためにデフォルトになっている例もありますね。僕は楽譜通りに歌ってるのに、(初演の)CDを聴いたお客様から“違ってますね”と言われてしまう(笑)」と話を広げると、「それって徳永英明あるあるじゃないですか。ライブに行くと、あれ?CDのほう(のメロディ)で聞きたかったな、という(笑)」「玉置浩二あるあるでもある。ららら~って」と続く吉原さん、西川さん。すかさず「長渕剛あるあるでもある」と応じる岸さん、流石です。
ここまで挙げられてきたように、海外作品を日本で日本人が上演するにあたっては、様々なディスアドバンテージがあることは明白です。私たちが海外ミュージカルを観て感動できるのは、こうしたディスアドバンテージに対してキャスト・スタッフが正面から向き合い、イマジネーションと表現力、技量をもって一つ一つの課題をクリアしていらっしゃることによるものであって、決して作品のクオリティのみによるのではないことは、観客の側も心しておきたいところです。
お客様にも、求めていただけたら。
ここで吉原さんから、一つの提言が。「(海外作品に依存することには)限界を感じることもあります。日本には日本の良さもあるので、これからはもっと日本のオリジナル・ミュージカルを作っていかなくちゃいけないし、お客様にももっと求めて欲しいです。やはり僕らの仕事はお客様次第の部分もあるから、そういう声が高まれば、作れる環境ももっと増えていくと思う。作ったものに対してお客様が評価してくれれば、それだけで(オリジナル・ミュージカル文化が)育っていくと思うんですよ。2.5次元だって日本の大切な文化に育ってきているし。まずは“流れ”を作っていくことだと思う」。岸さんが「最近は新たな才能も現れてきていて、そういう人たちとオリジナルを作れたらいいな、どういう内容がいいだろうというのはMonSTARS(橋本さとしさん、石井一考さんとのユニット)でも話しています。まずは“作っていくこと”ですよね」とまとめ、皆さんが笑顔で頷いたところで、会はお開きとなりました。
*次ページで二日目『オリジナル・ミュージカルに懸ける夢』のレポートをお送りします!*